徳川るり子の細腕感情記Ⅱ
2015年3月12日
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何ゆえ、海外旅行保険では
            虫歯の治療費がでませんの?

徳川るり子の細腕感情記Ⅱ
徳川るり子

愛するお父様へ

前文お許しくださいませ。
お母様が風邪を召されたそうですが、お加減はいかがですか? 早く良くなられますようロンドンからお祈りしておりますと、お母様にお伝えください。
さて、どこにいようとも病気を患うと心細くなるものですが、海外ではなおさらのこと。今回は、わたくしも加入しております海外旅行保険にまつわることで筆をとりました。
先日、同じ英語学校に通う日本人の友人がひどい歯痛に襲われました。虫歯が悪化したというだけでなく、どうやら環境や食生活などの変化による疲れやストレスが加わったようなのです。あまりの痛みに睡眠も満足にとることができなかったため、海外旅行保険が適用される歯医者の場所を知ろうと、加入している保険会社に初めて電話をかけたそうです。ところが、「虫歯治療に海外旅行保険は適用されません」と言われ、仕方なく近所の歯医者へ行き、自費で約200ポンド(日本円で約3万6千円!)の治療費を支払ったのだとか。
日本の国民健康保険や社会保険は虫歯の治療にも適用されますのに、なぜ海外旅行保険では適用外になってしまうのでしょう? 疑問に思い、海外旅行保険を扱う日系の会社に問い合わせてみることにいたしました。
数社からうかがったお話を総合いたしますと、やはり海外旅行保険では歯科治療費はでないようです。海外旅行保険は、旅行中に突発的に起こる事象のためのもの。突然の病気やけが、盗難といった渡航前には予測できないことに対する保険であるため、病気といえども慢性的な「持病」などには適用されません。虫歯や親しらずも発症が予測できる「持病」とみなされるようで、事前に日本での治療が可能であるとして海外旅行保険の適用は認められないのだそうです。ただし、旅行中に転倒して前歯が折れた…などの想定外の出来事が起きたときには、保険がおりるケースもあるということでした。最近は「特約」として歯科治療が含まれている海外旅行保険も増えてきているものの、適用条件が厳しいこと、多くが「長期留学生向け」であること、保険料が高額になってしまうことから、加入する方は多いとはいえないようです。
念のために、英系の保険会社にも尋ねてみましたところ、同じように原則として歯科治療は海外旅行保険の適用範囲外との回答が返ってまいりました。歯の治療は費用が高額になることが少なくないので、海外旅行保険でカバーしようとすると保険料全体が高くなりすぎて一般の人には不都合(加入しづらくなる)、というのが理由のひとつでした。歯科治療を付帯している保険もわずかながらあるようですが、事前に治療しておくことが賢明というのは、日本と同様のようです。
とはいえ、旅行が1年や2年など長期に及ぶ場合には、虫歯は予測できる事柄とはいえないように思うのですが…。お父様もご存知のように、わたくしは甘いものに目がございませんので、毎食後に歯を磨くという習慣をくずさないようにして虫歯予防に備えるしかないようです。つい愚痴をこぼすような内容になってしまいましたこと、お詫びいたします。それでは今日はこのへんで。くれぐれもご自愛くださいますよう、お母様にお伝えくださいませませ。

かしこ 
平成27年3月10日 るり子

徳川るり子の細腕感情記Ⅱ

とくがわ・るりこ◆ 横浜生まれのお嬢様。名門聖エリザベス女学院卒。元華族出身の24歳。あまりに甘やかされ過ぎたため、きわめてワガママかつ勝気、しかも好奇心(ヤジ馬根性)旺盛。その性格の矯正を画する父君の命により渡英。在英5ヵ月。ホームステイをしながら英語学校に通学中。『細腕感情記』(平成6年3月~平成13年1月連載)の筆者・徳川きりこ嬢の姪。

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