何ゆえ、英国では 屋内の照明が暗いんですの?
愛するお父様へ
前文お許しくださいませ。
先日、パリジェンヌのソフィー嬢と食市場「バラ・マーケット」に出かけました。ソフィー嬢おすすめのチーズやパンなどを試食してみますと、どれも美味しく、わたくしもお気に入りのオリーブ・オイルを見つけましたので、早速購入いたしました。外の空気はまだ冷たく、食べ歩きには向かなかったように思う一方で、春らしい太陽の光にも恵まれ、清々しい気持ちを味わうことができました。
さて、本日もまた日英の違いについて調べましたことを書かせていただきたく存じます。
常々思っていたのですが、英国人に限らずヨーロッパ人は、一般的にすぐに「まぶしい」と感じるのか、ファッションとしてだけでなくサングラスが必要らしく、老若男女にかかわらずたくさんの人がサングラスをかけて歩いています。今の季節でも、少し日差しが強くなると、サングラスをかけて歩いている人の姿が見られるのですよ。マーケットを訪れた際も、ソフィー嬢は暖かい光の中、カバンからサングラスを取り出していました。
ひょっとすると、日本人のように目の色が黒に近い場合より、グレーやブルーといった薄い色である方が、光に敏感なのかもしれません。
これと同じ理由によるのか、家の中はいうに及ばず、レストランやパブなど英国の屋内照明は暗いことが多く、「お料理の実際の色をはっきりと見たい」と感じることもしばしばございます。英国人男性と結婚した女学院時代の友人も、「夫が照明を落としたがるから、暗くてろくに本も読めない」と嘆いておりました。目の色と、こうした明るさに対する反応には関係があるのでしょうか。思い切って調べてみることにいたしました。
結果からまず申し上げますと、さまざまなところに問い合わせてみたのですが、目の色と光の感じ方についての関係を、学術的なデータなどを用いてわたくしに説明してくださる機関は見つかりませんでした。ただ、屋内照明について、興味深い話を伺うことができましたので、それをご報告申し上げることにいたします。
そのお話をしてくださったのは、オランダを代表する家電メーカーで、世界各地で大規模な販売業務を行っている「フィリップス(Philips)」社の広報の方でした。「フィリップス」は電球も製造しており、英国でも大量に売られています。対応してくださった担当者によりますと、照明に関して、地域ごとに傾向があるのは確かなのだそうです。
冬が長く寒さも厳しい北ヨーロッパでは、温かみを感じさせる照明が好まれ、逆に南にいくほど、涼しげな色の照明の人気が高くなるとか。つまり、北の方では黄色・オレンジ系の色の照明が使われ、南の方ではブルー・ホワイト系の照明が選ばれる傾向が高いということでした。また、同じワット数の電灯でも、黄色・オレンジ系の方がブルー・ホワイト系よりも暗く感じられるとのこと。さらに、英国の家の中が暗く感じられるのは、間接照明が多いことも理由のひとつのようです。
例えば、日本の本州で、家屋は夏を重視したつくりであることが伝統的だったように(照明も白っぽいことが多いのは同じ理由からでしょうか)、ここヨーロッパの暮らしも、気候と深いつながりがあるということですね。それでは今日はこのへんで。お母様にもよろしくお伝えくださいませませ。
かしこ
平成27年3月2日 るり子