即席で擬似貴族体験
アナ・マリアが初めて試みたアフタヌーン・ティーは、シンプルな内容だった。紅茶のほか、バターを塗ったパンを2枚あわせただけのサンドイッチ、そして小さなケーキ程度だったという。現在では、サンドイッチ、クロテッド・クリームとジャム添えのスコーン、こぶりのケーキ数種と十分食事の代わりになるボリュームのものを「トラディショナル・アフタヌーン・ティー」(詳細は5ページのコラムをご参照のこと)として供するところが多いが、この発展に大きく貢献したのがホテルだ。
アフタヌーン・ティーはもともと、お腹の足しにすると同時に、ゆったりした社交の場として始まったのだから、まさにホテルにうってつけのサービスでもあった。
美しい調度品に囲まれ、給仕を受けながらサンドイッチと小さく可愛らしいケーキや、本格的に入れた紅茶を味わう。
アナ・マリアのように広い館に住み、使用人にかしずかれて高価な茶器でお茶の時間を楽しむという暮らしができなくても、アナ・マリアが知己の貴族夫人たちと過ごしたのと同様の優雅な時間が手間要らずで実現されるというわけだ。
長い歴史を持つホテルが多い英国、百数十年をさかのぼる創業時からアフタヌーン・ティーを取り入れたところも多い。中には、元祖アナ・マリアと同時代に始めたアフタヌーン・ティーを、現在まで続けているブラウンズ・ホテルのような老舗もある。
忙しい現代人が、英国ならではの貴族的習慣を忘れずに続けることができているのも、ホテルのアフタヌーン・ティーあってこそとも言えよう。
だが、そのままでは飽きられるということらしく、それぞれのホテルで趣向を凝らし、時代にあわせる工夫もなされている。サンドイッチがうすく繊細な長方形型になったり、スコーンが加わったり、それらを3段重ねのケーキ・スタンドに盛り付けたりと『進化』していったのは、ホテル同士の競争があったからと想像できる。どこかのホテルが新しいアイディアを採り入れてそれが人気を博すや、他のホテルもそれに続く。どのホテルが何を始めたかという正確な記録は残っていないようだが、常に熾烈な争いが続いていることは間違いない。
最近では、従来のメニューにシャンパンを加えたシャンパン・アフタヌーン・ティーというさらに贅沢なバージョンが登場。ハレの席にふさわしい華やかさのあるアフタヌーン・ティーに、シャンパンという組み合わせで、いっそうゴージャス気分を盛り上げてくれそうだ。
バレンタインデーや、クリスマスなど、期間限定のスペシャル版アフタヌーン・ティーをサービスするところも多く、伝統を守りつつ、商魂たくましいところも見せるホテルは、アフタヌーン・ティーの未来を握る存在といって過言ではないだろう。
ティー・タイムに再注目
さて、ホテルや、カフェ、レストランで、一式がセットになった便利なアフタヌーン・ティーを気軽に注文できるようになった現代だが、家庭でのティー・タイムがすたれたわけでもなさそうだ。
不況の影響やヘルシー・ブームなどで、家で食べることが見直されている昨今、ティー・タイムも例外ではないということかもしれない。
昨年夏のBBCの料理番組「ザ・グレート・ブリティッシュ・ベイク・オフ」放映以降、ホーム・ベイキング道具の売り上げを伸ばしているジョン・ルイスでは、3段式のケーキ・スタンドの売り上げが46パーセントの伸び率を示しているという。3段式ケーキ・スタンドと言えば、それぞれの段に、サンドイッチ、スコーン、小ケーキなどをのせて登場する、アフタヌーン・ティーでお馴染みの食器。家庭でアフタヌーン・ティーを楽しもうという人が増えていることをうかがわせる数字だ。
また、ケーキを供する際、皿の上にしく、レース模様の紙、ペーパー・ドイリー(doily)も、昨春から盛んに売れ始めたことが報じられた。一昔前の遺物というイメージのペーパー・ドイリーが復活したのは、ロイヤル・ウェディングの影響とする分析もある。伝統、格式を思わせる王族の一大行事に影響を受け、クラシックな飾りつけでティー・タイムを演出する人が増えたとしても不思議はない。
かつては3時半になると全業務がストップし、お茶の時間をめぐって労使対決があったほどという英国。現代では、さすがにそれほど悠長なことはないが、アフタヌーン・ティーが英国から消滅することは当分ないと安心していいだろう。では、美味しいアフタヌーン・ティーを心ゆくまで召し上がれ!

米国出身の画家、ウィリアム・ウースター・チャーチル(William Worcester Churchill 、1858-1926)
の作品『Pouring tea』(発表年度不詳)
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優雅な時間を一流ホテルで満喫する アフタヌーン・ティー ①アフタヌーン・ティーをサーブし始めた年 ※情報は2012年1月10日現在のもの。 |
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Albemarle Street, London W1S 4BP ------------------------------------- ①1837年のホテル創業時より |
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The Connaught コンノート Carlos Place, Mayfair, London W1K 2AL ------------------------------------- ①1898年のホテル創業時より |
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Park Lane, London W1K 1QA -------------------------------------------- ①1931年4月18日のホテル創業時より |
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Fortnum & Mason フォートナム&メイソン 181 Piccadilly, London W1A 1ER ---------------------------------------- ①ホテルではないが、ロンドンでお茶といえばここは欠かせない。ただ、いつからアフタヌーン・ティーを供し始めたかは不明とのこと。 |
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66 Knightsbridge, London SW1X 7LA ------------------------------------- ①1902年に「Hyde Park Hotel」として創業、その後、間もなくしてからスタート |
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The Ritz London リッツ・ホテル 150 Piccadilly, London W1J 9BR ---------------------------------------- ①1906年のホテル創業時より |
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The Savoy サヴォイ・ホテル Strand, London WC2R 0EU ------------------------------------- ①1889 年のホテル創業時より |


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