ワインにまつわる今月のトピック㉚ スペインのスパ-クリング・ワイン事情
石造りのワインセラーから 生まれた名称
イタリアのスパークリング・ワインに続き、今月はスペインのスパークリング・ワインについてお届けしたい。スペインのスパークリング・ワインといえばカバCavaだが、その歴史は、スパインの老舗ワイン・メーカー、ジョセップ・ラベントス・ファティオJosep Raventós Fatjó(コドルニュCodorníuの創設者)が、 フランスのシャンパーニュ地方を訪ね、そのワイン製造法を学び、故郷に戻ってスペイン史上初のスパークリング・ワインを生み出した1870年代に遡る。1889年にはペドロ・フェレールPedro Ferrerが、ラベントス家の事業に加わった後、独立してフレシネFreixenetを立ち上げた。これら2社に加え、ガルシア・カリオンGarcía Carriónが、現在、トップのカバ生産会社で、年間生産量の75%を占めている。当初、スペインのスパークリング・ワインは、チャンパーニャChampañaと一部で呼ばれていたが、1970年代に国際法に則ったシャンパーニュ当局の取り締まりによって、別名が必要になった際、ワインを熟成する石造りのセラー(cavasカヴァ)に由来するカバの名称が登場(スペインでは「v」を「b」と発音するため、カバと読む)。カバは法的に白とロサド(スペインのロゼ)のスパークリング・ワインを示すこととなったのだ。
カバのイメージダウンを 招いた諸事情
カバは、イタリアのプロセッコと並び、入手しやすいスパークリング・ワインとして世界的に有名だ。プロセッコは大量生産が可能な密閉タンク方式で造られるのに対し、カバはシャンパーニュと同じく手間暇のかかる製法で造られるにもかかわらず、値段が安い。しかも、近年価格を下げ、例えば、スペイン国内で消費されるカバの90%は、現在、小売価格が10ユーロ以下というのが現状だ。それにもかかわらず、2019年度、英国市場でプロセッコは年間1.1億本を売り上げたのに対して、カバは2100万本と少ない。安いのに売り上げが伸びない――その背景を覗いてみた。
カバ名称は、プロセッコやシャンパーニュとは異なり、実は生産地が指定されていない。法で定められている製造の仕方さえ守れば、スペイン国内の様々な生産地でカバを造ることができる。また、大手会社は、様々な生産地のブドウを使ってカバを生産することが許されている。さらに、地球温暖化によって、カバ生産に認可されているブドウ品種の成熟状態が変化している。このような状況が重なり、結果として、品質の低下、価格の引き下げ、そしてカバ名称全体のイメージ・ダウンに繋がってしまった。
脱カバの大きな動き
近年、この事態を懸念したペネデス地域Penedèsの一部の生産者が、大きな動きを起こした。ペネデス地域はカタルーニャ州(バルセロナが州都)に属す。ピレネー山脈を越えたフランスの南西部地区を含むカタルーニャは、昔は独立した国家だった。カタルーニャ民族が住み、言語も他のスペインとは異なり、今は自治権を与えられた州となっている。2年ほど前、カタルーニャ州が独立国家を目指してデモを繰り返し、州首相が国外へ亡命するに至ったニュースは記憶に新しいと思う。そのカタルーニャで、ワイン界でも独立運動が起きたのだ。2014年8月、ペネデス地域の17生産者がカバから離脱し、ラベルにはカバと明記しないことを決めたのだった。量より質を重んじ、品質の高い最高級のスパークリング・ワイン生産をめざす動きが活発化した。
カバCava vs クラシックClassic
彼らは、厳しい規制を定めた。ペネデス地域産の有機農法による使用認可ブドウ品種のみを使い、瓶内第2次発酵後の熟成を最低15ヵ月(シャンパーニュのノン=ヴィンテージと同じ。カバの熟成期間である9ヵ月間より大幅に長い)とし、ヴィンテージ・ワインのみを造り、デゴルジュマン(死んだ酵母を瓶から除く作業)の日にち、ならびに「Clàssic Penedès」をラベル明記することを義務付けている=写真参照。ただし、この名称に関しては、現在も検討中とのことだが、スペイン産スパークリング・ワインには、カバとクラシック・ペネデス(仮)の2種類が存在することになった。
クラシック・ペネデスの代表的なスパークリング・ワインには、アルベット・イ・ノヤ・ブリュットAlbet i Noya Brut、アティ・ロッカ・ブリュットAT Roca Brut、コレット・ナバソス・ブリュットColet Navazos Brutなどがある。
週刊ジャーニー No.1183(2021年4月8日)掲載