ご当地ワインと郷土料理&名産物㉙ 番外編:泡の話

口の中でキラキラ光る飲み物

17世紀末期、シャンパーニュ地方エペルネÉpernayの近くにあるオーヴィレール寺院で泡立つワインを口にしたドン・ペリニョンDom Pérignonのこんな逸話が残っている。彼は仲間の修道僧に向かって「皆、すぐここにきてくれ! 私は今、星を飲んでいるんだよ!」と、叫んだという。確かに、泡立つスパークリング・ワインは口の中でピチピチ跳ね、キラキラ光り、誰をも幸せな気分にさせてくれる。特に、この12月から1月にかけての華やかなシーズンに欠かせない飲み物となっている。

ボトルをあけると心地よくポンと響く、その音のもとにもなっている泡だが、正体は二酸化炭素。この気体は水分に溶けやすい性質があり、高圧力の環境下でなら水分にどんどん溶かすことができる。コカ・コーラをはじめとする炭酸飲料はこうして造られていて、スパークリング・ワインの中にも、これと同様の方法で造られているものもある。しかし、そのようなスパークリング・ワインは、早期消費用で、ほとんどは生産地で消費されている。

アルコール発酵で生まれるガス

では、シャンパーニュChampagne(フランス産スパークリング・ワイン)やプロセッコProsecco(イタリア産)、そしてカバCava(スペイン産)の泡はどのようにして造られているのだろうか。これらの泡は、アルコール発酵による副産物だ。酵母によってブドウ果汁中の糖分の代謝が行われ、エタノール(アルコール)を生み出すのだが、このアルコール発酵の際に分解されて生まれるガスが泡のもとになっている。ワイン中の約80%は水分なので、アルコール発酵が密閉状態で行われると、二酸化炭素がワイン中の水分に溶けこむという仕組みだ。シャンパーニュやプロセッコ、そしてカバの製造法をここでは詳しく説明しないが、シャンパーニュとカバは、瓶詰めした非発泡性のワイン中に、酵母と糖分を入れ、栓をして再度アルコール発酵させ、その発酵によって生まれた泡をボトル内に留めている。一方、プロセッコの場合には、非発泡性ワインを密閉タンクの中に入れ、そこに酵母と糖分を入れ再度アルコール発酵させ、泡を消さないように高圧力環境下で瓶詰している。つまり、シャンパーニュとカバは2次発酵を瓶内で、プロセッコは2次発酵を密閉タンクで行い、泡を閉じ込めているのだ。

外気に向かって立ちのぼる 泡の核は? その意外な仕組み

© CC-BY-2.0

シャンパーニュのコルク下のヘッド・スペースは、微量の酸素と二酸化炭素で約6気圧あり(ダブルデッカー・バスのタイヤ内の圧力と同じ)、コルクで閉じられた状態では、その圧力がボトル内の液体(つまり、シャンパーニュ)中の二酸化炭素による圧力と均衡がとれている。シャンパーニュの栓を抜くと、ヘッド・スペースにあった気体のガス圧が突然下がってこの均衡が崩れる。そうすると、外気圧と均衡をとるべく、シャンパーニュ中に溶け込んでいた二酸化炭素が飛び出すわけだが、その際、グラス内に付着していた埃がシャンパーニュに混ざり、その埃を核にして二酸化炭素が集まって、ある程度の大きさの泡になると外気に向かって立ちのぼるという事象が繰り返される。シャンパーニュの温度が低いと、二酸化炭素のこの反応がおとなしい。 従って、シャンパーニュに限らず、どのスパークリング・ワインでも、泡を長く楽しむには、少くとも飲む3時間前には冷蔵庫に入れて冷やしておきたい。

© Aldi
そして、その泡を更に楽しむには、背が高くて細い、フルートChampagne fluteと=写真左上=呼ばれるグラスがよいだろう。グラスの口が狭いので香りが飛ばず、一連の小さな真珠のように立ち昇る泡の様子を美しく見せてくれる。

 

さて、英国では、数年前からシャンパーニュを抜いてプロセッコの売り上げが伸びている。プロセッコといえば、白のスパークリング・ワインというのが決まりだったが、今年、イタリア・ワイン法が改定され、英国では11月2日に市場にロゼがデビューした(マークス&スペンサーMarks & Spencer、アズダAsda、スラープSlurp、アルディAldiなどで入手可能)。クリスマスやお正月の祝いの席でのアペリティフとして、新しく登場したこの愛らしいプロセッコ・ロゼも是非楽しんでみていただきたい。

週刊ジャーニー No.1167(2020年12月10日)掲載

ミヨコ・スティーブンソン Miyoko Stevenson

WSETディプロマ取得。Circle of Wine Writers会員。Chevalier du Tastevin(利き酒騎士)団員。Jurade de St-Emilion団員。Ordre des Coteaux de Champagne団員。国際日本酒利き酒師。The Guild of Freemen of the City of London会員。ワイン関連の訳書・著書あり。現在、ロンドンでワイン教室を主宰。
www.miyokostevenson.co.uk
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