ご当地ワインと郷土料理&名産物㉙ 番外編:秋のワイン 2

11月19日に解禁されるワイン

毎年11月第3木曜日午前零時に解禁されるボージョレ・ヌーヴォーBeaujolais Nouveauについてお届けしたい。今から約30年前のロンドンでは、解禁日に各スーパーマーケットの入り口に山と盛られ、また、どのレストランでも各テーブルに1本ずつ置いてあるというほどの人気だった。それが、今では解禁日であってもスーパーで見かけることがないくらい目立たない存在になってしまった。ボージョレ・ヌーヴォーが話題とならなくなった理由の一つに、南半球で造られるワインの出荷がある。つまり、南半球ではブドウが3~4月に収穫され、早期消費用のワインであれば夏までには出荷されるので、同じ収穫年のボージョレ・ヌーヴォーよりも早くに飲むことができるようになったのだ。また、1970年代の世界的なボージョレ・ヌーヴォー熱により、多少甘味を伴う軽くて品質の劣るヌーヴォーが広く出回り、消費者の関心を失わせることになってしまった。2001年には、売れずに残った1300万本のヌーヴォー・ワインを蒸留せざるをえなかったという不運な時期もあった。

復活を果たしたボージョレ

しかし、最近のボージョレはおいしい。ロックダウン期間中、英国のワイン市場は全体的に勢いがやや衰えたものの、ボージョレのワインは売上げが増えたとさえ報告されている。それは、ヌーヴォーの人気後退という過去をふまえ、ボージョレの生産者たちがワインの品質向上に大変な力を注いだ結果といえる。

さて、ボージョレについてもう少し詳しく説明しよう。ボージョレはフランスのブルゴーニュ地方の最南に位置する地域で、リヨンからは約40キロの北に位置する。フランス中央山塊の山麓に広がる穏やかな丘陵と、ソーヌ川に向かった平地でブドウが栽培されている。ボージョレには、赤、白、ロゼ・ワインとあるが、99%ほどは赤ワインだ。ガメイGamayという黒ブドウ品種から造られ、爽やかな酸味と低~中程度のタンニンをもち、ラズベリー、レッド・チェリー、レッド・プラムといった赤系果実の風味を呈すワインとなる。

©︎Cyil5555

追いやられたブドウ品種が 生んだワイン

ガメイは、ブルゴーニュ公国を治めるフィリップ2世が1395年にこのブドウ品種を同公国から締め出すまで、ブルゴーニュ地方で最も多く栽培されていた。果粒が大きめで、栽培し易いとして大量生産されていたのだが、上質ワインに専心したフィリップ2世が、この品種を南の地域に追いやってしまったのだった。ところが、ガメイとフランス中央山塊麓の丘陵の花崗岩との相性がよく、丘陵で造られるガメイの質が非常に優れていることがわかり、丘陵の10村(Saint-Amour、Julliénas、Chénas、Moulin-à-Vent、Fleurie、Chiroubles、Morgon、Regnie、Brouilly、Côtes de Brouilly)には「クリュCru」という格付けが与えられるに至った(地図の最も色の濃い部分)。その周囲の村々で造るワインはボージョレ・ヴィラージュBeaujolais Villages(紫の部分)、そしてソーヌ川に向かう肥沃で平地の地域で造られるワインはボージョレ(赤紫の部分)を名乗るようになる。やがて、ボージョレとボージョレ・ヴィラージュで、炭酸ガス浸漬法や半炭酸ガス浸漬法といった醸造法を用いて造られるワインが、ボージョレ・ヴィラージュ・ヌーヴォー、そして、ボージョレ・ヌーヴォーとして知られるようになった。 炭酸ガス浸漬法とは、破砕してないブドウの房をいれた密閉槽を炭酸ガスで満たすと、ブドウ果粒の細胞内で発酵が始まり、アルコール度が2%に達すると、ブドウ果皮が破れて果汁が出るので、この段階で圧搾機にかけ、果汁と果皮を分けて果汁のみで発酵を完了させる方法。

これに対して半炭酸ガス浸漬法は、炭酸ガスで密閉槽を満たさず行う同様の醸造法だ。こうすることによってブドウから色素のみを抽出し、タンニンを抽出せず、早期消費用のフルーティーなワインを造ることができる。一方、クリュのワインは、普通の赤ワインの醸造法によって造られ、瓶内で熟成させることができ、皮革や農家の裏庭といった熟成香も呈するようになる。

さて、今年のボージョレ・ヌーヴォーの解禁日は19日。華やかな風味、爽やかな酸味、やさしいタンニンでフルーティーなボージョレ・ヌーヴォーで、ロックダウンによる憂鬱な気分を吹き飛ばそう。

週刊ジャーニー No.1163(2020年11月12日)掲載

ミヨコ・スティーブンソン Miyoko Stevenson

WSETディプロマ取得。Circle of Wine Writers会員。Chevalier du Tastevin(利き酒騎士)団員。Jurade de St-Emilion団員。Ordre des Coteaux de Champagne団員。国際日本酒利き酒師。The Guild of Freemen of the City of London会員。ワイン関連の訳書・著書あり。現在、ロンドンでワイン教室を主宰。
www.miyokostevenson.co.uk
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