ご当地ワインと郷土料理&名産物㉘ 南半球:オーストラリア その8

オーストラリアで成功した シラー種のワイン

ワインの勉強にはいろいろな方法があるが、まずはブドウ品種名と産地の組み合わせから始める場合が多い。黒ブドウ品種なら、ワインの王様と称されるフランスのボルドー地方+カベルネ・ソーヴィニョン種Cabernet Sauvignonとメルロー種Merlot、ワインの女王と称されるブルゴーニュ地方+ピノ・ノワール種Pinot Noir、そして、ローヌ川流域北部地域+シラー種Syrahといった具合だ。ブドウ品種と産地の組み合わせが確立された要因には幾つかあるものの、気候はもっとも重要な項目のひとつで、例えば、カベルネ・ソーヴィニョンは、高温~温暖な地域(つまり、ボルドー)でないとうまく熟成しないし、ピノ・ノワール種は冷涼~温暖な地域に適し(つまり、ブルゴーニュ)、シラーはこの中でも一番気温の高い地域(つまり、ローヌ川流域)で良く熟成し、高品質のワインが造られると説明できる。
オーストラリアの場合、タスマニアなどかなり涼しい一部を除いて、ほとんどが高温~温暖地域。これが、シラーつまりシラーズShirazの栽培が成功している理由の一つといえる。さて、前回同様、コレクターの注目の的となっているシラーズから造られるワインを取り上げるが、今回はヘンシュケHenschkeをご紹介しよう。なお、日本では「ヘンチキ」と呼ばれることが多いが、ドイツでも英語圏でも「ヘンシュケ」と発音されることが一般的なので、本稿では「ヘンシュケ」で統一することにしたい。

樹齢160年のブドウ樹

ヘンシュケは、サウス・オーストラリア州の北部に位置するエデン・ヴァレー地区に3つの畑をもつ。それより南にあるものの、標高が高く涼しいアデレイド・ヒルズ地区にも1つ畑があり、リースリングRiesling、ソーヴィニヨン・ブランSauvignon Blanc、ピノ・ノワール、カベルネ・ソーヴィニョンからも素晴らしいワインを造っている。しかし、この会社を有名にしているのは、何といっても、エデン・ヴァレーに位置する4ヘクタールの単一畑で育つシラーズから造られるヒル・オブ・グレイスHill of Graceだ(日本での小売価格は、ヴィンテージによるが、1本8万~13万円)。
ヒル・オブ・グレイスに最初にブドウ樹が植えられたのは1860年代で、それから植え替えられていないので、樹齢は何と約160年と世界でも最も古いブドウ樹のグループに入る。

家族経営で受け継がれる ワイン造りへの思い

このワインの歴史は、ドイツ(シレジア)生まれのヨハン・クリスチャン・ヘンシュケJohann Christian Henschkeが宗教的迫害から逃れるため、98日間の苦しい航海を乗り越えてサウス・オーストラリアにたどり着いた1841年から始まる。彼は家族用にと、シェリーやポートのような酒精強化ワインを造り始め、その息子、ポールゴッタルドPaul Gotthardが、1914年にヒル・オブ・グレイスのブドウ畑を購入。この後、当時はだれでももっぱら酒精強化ワインを造っていた1950年代に、酒精強化しない、つまり、非発泡性のワイン造りに注目したのが4代目のシリルCyrilだった。この畑だけで育つシラーズを使って、高品質の非発泡ワインを造ることに全力で取り組み、1958年、ヒル・オブ・グレイスのワインを初めて生み出した人物だ。以来、世界中の品評会で数々の賞を受賞し、一躍有名になり、ワイン・コレクターの注目を浴びるワインとなった=写真右上。
家族経営を続けることによって、ワイン造りの精神と思いが代々受け継がれている(現在の当主は6代目)。この畑の健全性を高めるために、今では除草剤などを使わず、ビオディナミ農法を取り入れるに至っており、ヒル・オブ・グレイスのブドウは常にイースターの収穫月の直前に収穫されている。

週刊ジャーニー No.1154(2020年9月10日)掲載

ミヨコ・スティーブンソン Miyoko Stevenson

WSETディプロマ取得。Circle of Wine Writers会員。Chevalier du Tastevin(利き酒騎士)団員。Jurade de St-Emilion団員。Ordre des Coteaux de Champagne団員。国際日本酒利き酒師。The Guild of Freemen of the City of London会員。ワイン関連の訳書・著書あり。現在、ロンドンでワイン教室を主宰。
www.miyokostevenson.co.uk
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