
ご当地ワインと郷土料理&名産物㉘ 南半球:オーストラリア その6

英国人医師が始めたワイナリー
オーストラリアに最初にブドウの挿し木が持ち込まれた1788年から1868年にかけて、英国から多数の囚人が移送される一方、多くの開拓者たちがオーストラリアに移住した。その中に、英国人医師クリストファー・ペンフォールドDr Christopher Penfoldがいた。アデレードの近くで、彼が患者向けの酒精強化ワイン造りを開始したのが、ペンフォールズPenfoldsの始まりだった。今では、サウス・オーストラリア州で最も成功しているワイナリーとなっている。
オーストラリアで一番高値のワイン

オーストラリア産ワインは安価で入手しやすいというイメージがある。ペンフォールズも、どこのスーパーマーケットでも見かけることのできるワイン・ブランドなのだが、実は、同ワイナリーでは、なかなか手の届きづらい高値のワインを何種類も造り、ワイン・コレクターの注目を浴びている。
例えば、グレインジGrange=写真。このワイン、現在の市場では1本400ポンドほど(日本では12万円)というシロモノである。1989年ものまでは、「Penfolds Grange Hermitage」と名乗っていたが、エルミタージュHermitageのワイン名称を持つフランスからの依頼により、Hermitageを省き、「Penfolds Grange」と名乗るようになった。シラーズ種が主だが、ほんのわずかながらカベルネ・ソーヴィニョンが含まれ、容量約550リットルのアメリカ産オークの新樽(フランス産のオーク樽は通常250リットル、あるいは280リットル)で18~20ヵ月間熟成させている。最初のヴィンテージは1951年だが、このヴィンテージにはPenfolds Grange Hermitage Bin 1と、「Bin 1」が加えられていた。Bin 1とは、当時使われていたワイン・セラーの番号で、以来、ペンフォールズのワインはBin番号がワイン名に加えられている。カベルネ・ソーヴィニョン100%から造られるPenfolds Bin 707は、筆者がワインのコレクションを始めた1990年代のトップ・スター的なワインだが、現在の価格は約250ポンド。いずれも15年間ほどの長期熟成によって、醍醐味を発揮する銘醸酒だ。
「少しずつ」という名の白ワイン
ペンフォールズでは、1995年から『白のグレインジ』として、ヤッターナYatterna(先住民の言葉で「少しずつ」という意味)と称す白ワインを開発した(約120ポンド)。こちらは、フランス産オーク樽(新樽65%)で8ヵ月間熟成させている。5年ほどは熟成させてから飲みたいワインである。
英国のスーパーで買えるペンフォールズ
ペンフォールズは、高値で長期熟成の必要なワインの他、黒いベリー類にヴァニラ風味、チョコレートやコーヒー風味を呈すシラーズ、柑橘類や梨の風味を呈すクリーミーな口当たりのシャルドネ、レモンやライム風味にスパイスの加わるリースリングなど、入手しやすく、早期熟成用のワインも多く揃えている。ウェイトローズでは19.99~90ポンドまで7種類(www.waitrosecellar.com/discover/penfolds)。テスコでは赤と白の2種類、ともに9ポンド(www.tesco.com/groceries/en-GB/search?query=penfolds)。セインズベリーズでも、テスコで売られているものと同じ赤ワインを売っているが、現時点では1ポンド高い。なお、グレインジBin 707、ヤッターナを含む多くの種類を揃えているのは、カドマン・ファイン・ワインズCadman Fine Wines(www.cadmanfinewines.co.uk/producers/penfolds-wines?p=2)。興味のある方は、ウェブサイトをのぞいてみていただきたい。
ところで、コロナウイルス禍が終息して渡航が自由になり、オーストラリア・バロッサ・ヴァレーを訪ねる機会があったら、是非ペンフォールズに立ち寄ってほしい。レストランの料理がおいしいばかりでなく、グレインジを含むテースティングもアレンジしてくれる。その日を心に思い描きながら、自宅でグレインジを楽しむのも良さそうだ。
週刊ジャーニー No.1145(2020年7月9日)掲載