ご当地ワインと郷土料理&名産物㉘ 南半球:オーストラリア その4

伝統にしばられないラベル表記が生んだ成功

引き続きオーストラリアのワインについてお届けしよう。1980年頃に登場した、ブドウ品種名のラベル明記により、ニュー・ワールド(キリスト教とともに、ブドウ栽培・ワイン醸造が持ち込まれた国々)のワインに人気が出たことは既に触れたが、当時、オーストラリアのワインが急に人気を得るようになった理由は他にもあった。赤ワインに関しては、先月号で記したように、地域ごとに栽培すべきブドウ品種が決められているヨーロッパでは考えられないことながら、カベルネ・ソーヴィニョン種(主に仏ボルドー地方で栽培される品種)に、シラー種(主に仏ローヌ流域で栽培される品種)をブレンドし、飲みやすくて美味しく、かつ安価なワインを造ったことにある。

「over oaked」シャルドネのハッピー・メモリー

一方、白ワインに目を向けると、同じく1980年頃から、オーストラリア産シャルドネの人気が急速に高まった。アメリカ産オークをシャルドネに使って、バニラ香味の強い、口当たりの柔らかいワインを提供したからだ。それまでオーク香味のするフランス産白ワインと言えば、ブルゴーニュ・コート・ドール産のモンラッシェ、ムルソー、ピュリニー・モンラッシェといった非常に値段の高い偉大なワインを指し、それらはフランス産オーク新樽を使って、発酵並びに熟成させて造られていた。当時、フランス産オーク新樽は、1樽10万円ほどもした。1樽からは約300本のワインしか造れず、樽内熟成の期間も長く、高価にならざるを得ず、庶民にとっては高根の花だった。それが、1本5~7ポンドでそのバニラ香味が楽しめるようになったのだから、オーストラリア・ワインに人々が飛びついたのも無理はない。オーストラリアで、なぜ安価でありながらもオーク風味のあるワインが造られたかというと、樽を使用したわけではなく、ステンレス・スチール製タンク(発酵槽または熟成槽)の中に新しいオーク材の樽板やチップ(小切れ)を入れて、香味や風味を付けたことによる。そのために、当時のオーストラリア産シャルドネと言えばレモン色そのもの、つまりまっ黄色だった。そのワインを注いだグラスを鼻に近づけただけでも、バニラとバター香味が強く感じられた。しかし、これらはワイン評論家には、「over oaked」シャルドネと批判された。

強すぎるオーク風味からの卒業

1990年代に流行った言葉に「ABC」というのがある。レストランでワインを注文する時に使ったものだ。これは、「Anything But C (Cabernet Sauvignonカベルネ・ソーヴィニョンとChardonnayシャルドネをさす略語)」、つまり、「C以外のワイン」を意味し、当時出回っていたワインがC品種ばかりで、それに飽きた人たちがワイン注文の際に使ったのだった。
  結局、「over oaked」シャルドネが博した人気の寿命は短かった。オーク風味が強すぎたがゆえに、人々に飽きられてしまったのだ。しかし、このオーク・チップやオーク樽板をステンレス・スチール製タンク内で使う方法は、その後改良され、今では全世界のワイン生産地で用いられるようになった。オーストラリアでも本来のシャルドネの風味を生かしたワインや、オーク材や樽をうまく使って精妙で複雑な香味を呈すシャルドネが造られるようになっている。特に、ウェスタン・オーストラリア州マーガレット・リヴァー、タスマニア州(島)、ヴィクトリア州ヤラ・ヴァレー、サウス・ウェールズ州ハンター・ヴァレーでは、フランスのコート・ドールに引けを取らない素晴らしいシャルドネが造られている。今日、特にお勧めしたいものとして、マーガレット・リヴァー産のFlowstone Queen of the Earth Chardonnay (The Vinorium/£27.95)、Leeuwin Estate Art Series (Berry Bros & Ruddまたは Hedonism Wines/£80程度)、Eileen Hardy Chardonnay (The Vinorium/£29.95)などがある。

ウェルカム・ドリンクにお勧めのナッツ類

さて、オーストラリアの名産物のひとつにナッツ類がある。ご承知のようにピーナッツとビールの相性は抜群だが、実は、ピーナッツは白ワインには合わない。コロナ禍が終息したらホーム・パーティーを開こうと心待ちにしておられる方も多いことだろう。ウェルカム・ドリンクとして、冷やした白ワインやスパークリング白ワインを用意する際には、ピーナッツは避け、ヘーゼル・ナッツやアーモンドといった他のナッツ類をお出ししたい。では、もうしばらくのご辛抱を!

週刊ジャーニー No.1137(2020年5月14日)掲載

ミヨコ・スティーブンソン Miyoko Stevenson

WSETディプロマ取得。Circle of Wine Writers会員。Chevalier du Tastevin(利き酒騎士)団員。Jurade de St-Emilion団員。Ordre des Coteaux de Champagne団員。国際日本酒利き酒師。The Guild of Freemen of the City of London会員。ワイン関連の訳書・著書あり。現在、ロンドンでワイン教室を主宰。
www.miyokostevenson.co.uk
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