ご当地ワインと郷土料理&名産物㉘ 南半球:オーストラリア その3

オーストラリア産ワインの成功の秘密

今回も引き続き、オーストラリア産ワインについてお届けしたい。1788年に英国からの囚人船団によって、オーストラリアに最初にブドウの挿し木が持ち込まれたのだが、現在では約7億8千万リットルを世界に輸出し、世界第5位のワイン輸出国となるに至っている。しかし、オーストラリアのワインが世界市場に登場したのは、1980年代とつい最近のことだ。この成功をもたらした要因として、1960年に廃止されたクリーンスキンCleanskin(ブドウ品種名、容量、アルコール度は明記するが、生産地や生産者名を表記しないワイン)で行われていたように、ワインのラベルにブドウ品種名を明記したこと、そして、こだわりなくブドウ品種をブレンドしたことが挙げられる。

消費者に親切なワイン

ブドウ品種名というものは、もともとオールド・ワールド(古代ローマ人によってブドウ栽培&ワイン醸造が紹介された国々)の銘醸ワインでは、ラベルに明記されないのが慣例(例外として、戦後からフランス・アルザス地方のワインのラベルにはブドウ品種が明記された)。最近では、地酒のようにあまり知られていない生産者や生産地のワインには、ブドウ品種名が明記されるようになったが、有名なワイン、つまり、フランスのシャブリ、イタリアのキャンティ、バローロ、スペインのリオハ、フランスのシャトー・何々、1本数百万もするロマネ・コンティといったワインにはブドウ品種名を明記しない。といっても、こうした名高いワインがいろいろなブドウ品種を使っているわけではない。規制によって定められたブドウ品種を使わない限り、それらのワイン名を名乗ることができないことになっているからだ。しかし、ラベルにブドウ品種名が明記されていないため、シャブリを買おうとしたのに、その店にシャブリがなかった場合、代替えとしてどのワインを買えばよいかわからないという問題が起こることが指摘されてきた。それが、ブドウ品種名を明記することによって、例えば、オーストラリア・ヴィクトリア州で造られたシャルドネのワインが店になくとも、チリでも、南アでも、オーストラリアの他の州のものでも、シャルドネを選ぶことで、困惑を防ぐことが可能になったというわけだ。こうして、「コンシューマー・フレンドリーconsumer friendly」(消費者に親切)なブドウ品種明記は人気を博した。

規制に縛られないワイン造り

さて、オーストラリアのワインでも、世界でいち早く脚光を浴びたのは、ジェイコブズ・クリークのシラーズ、カベルネ・ソーヴィニョンJacob's Creek, Shiraz, Cabernet Sauvignonだった。シラーズ(フランスではシラー)はローヌ川流域で、カベルネ・ソーヴィニョンはフランスのボルドー地方で、偉大なワインを生み出すブドウ品種として知られており、この2品種をブレンドするなどオールド・ワールドでは考えられないことだった。しかし、ジェイコブズ・クリークのこのワインが1980年初めに英国で評価されたことをきっかけに、ニューワールド・ワインの先駆けとして世界市場に登場し、大流行した。こうして、オーストラリアは、規制に縛られず、消費者の立場に立った、飲みやすくて比較的安価な、新鮮な果実香味をもつワインの生産国として認められるようになったのだった。

オーストラリア最南端のワイン産地

オーストラリアで、昨今、特に注目を浴びているワイン生産地にタスマニア州(島)がある。ここはオーストラリアでも最南端に位置する冷涼な海洋性気候だ。1823年頃に英国からの移住者が最初にブドウを植えたが、ゴールド・ラッシュのために人口が減り、ほとんどのブドウ畑はリンゴ畑へと替えられてしまった。その後、ブドウ栽培が復活したのは1956年以降。涼しい気候、穏やかな春と夏、暖かい秋という環境のもと、健康なブドウをゆっくり成熟させることにより、シャルドネ、ピノ・ノワールの生産に成功している。また、この島周辺は世界消費の80%を占めるアワビabalone=写真下=の生産地でもあり、ここで造られるフレッシュでエレガントなスパークリング・ワイン、果実香味の凝縮したピノ・ノワールの赤ワイン、引き締まったシャルドネの白ワインと共に、グルメの島として注目を浴び始めている。オーストラリア訪問の際にはぜひ足を延ばしてみていただきたい。

週刊ジャーニー No.1132(2020年4月9日)掲載

ミヨコ・スティーブンソン Miyoko Stevenson

WSETディプロマ取得。Circle of Wine Writers会員。Chevalier du Tastevin(利き酒騎士)団員。Jurade de St-Emilion団員。Ordre des Coteaux de Champagne団員。国際日本酒利き酒師。The Guild of Freemen of the City of London会員。ワイン関連の訳書・著書あり。現在、ロンドンでワイン教室を主宰。
www.miyokostevenson.co.uk
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