ご当地ワインと郷土料理&名産物㉗ 南半球:ニュージーランド その4

秋に楽しみたいシルクのような口当たりのワイン

数日とはいえ、記録的な暑さに驚かされたこの夏もアッという間に終わり、すでに食欲の秋を迎えている。そろそろ赤ワインが恋しくなるのだが、ベルベットを感じさせるような風味の濃いものでなく、シルクのような口当たりで、さわやかな赤ワインが欲しい季節ではないだろうか。夏にあたり、2号にわたって「番外編」としてロゼ・ワインについてお送りしたが、再びニュージーランド産ワインに話をもどし、今回は、ニュージーランドでも格別に優秀な赤ワインを造るピノ・ノワールPinot Noirについて書くことにしたい。

同じピノ・ノワールでもワインに大きな差が生じる理由

ピノ・ノワールというブドウ品種は、かの有名な、世界で最も高価でボトル1本が200万円ほどもするロマネ・コンティを生む、フランスのブルゴーニュ地方の偉大な赤ブドウ品種としてもともと名高い。ワインの女王と称される、「上がり肩」のボトルに入ったボルドー地方のワインに対して、ワインの王様と称されるブルゴーニュ地方のワインは「なで肩」のボトルだ。ただ、同じなで肩のボトルで「Pinot Noir」とラベル表記されていても、味や風味がかなり異なることがある。それは、どうしてだろう?

差異を生み出すクローン

まず、クローンの多さが理由に挙げられる。異なる気候と異なる地域で育つブドウ品種の中には、多数のクローンを持つものがある。ピノ・ノワールはその典型的な品種で、温暖地域向けのクローン、冷涼地域向けのクローンのほか、異なる気候に適したクローン、色の濃い赤ワイン生産用のクローン、(白の)発泡性ワイン生産用のクローン、ベーシックな赤ワイン用で高収量のクローン、偉大なブドウ畑用の低収量のクローン、さらに、まっすぐ(垂直)に育つ傾向のあるクローンなど実に多種多様なクローンが存在する。フランス国内のブドウ畑において栽培が許可されているピノ・ノワールのクローンは45種類もある。
ニュージーランドで、やはり成功している品種にシャルドネChardonnayがあるが、高い酸味と比較的果実香味を抑えたクローン(フランスのシャブリがその好例)から、独特なトロピカル・フルーツの香味を呈すクローンまで多種あり、フランスで使用を認められているシャルドネのクローンは32種を数える。
ニュージーランドの北島、マーティンボロ地区のピノ・ノワールを好む人が、ニュージーランドの南島、セントラルオタゴのピノ・ノワールや、他の国のピノ・ノワールを飲んだときに、がっかり(または逆に感激)する一つの理由は、このように、クローンにあると言える。もちろん、クローンの種類に加え、緯度、標高、畑の位置や向き、土壌構成、気象の違い、収穫年、ワイン醸造法の違いといった、ほかの様々な要素がからみあって影響していることは言うまでもない。

楽しい飲み比べの薦め

セントラルオタゴ地区産「Mt. Difficulty Bannockburn Pinot Noir」
マーティンボロ地区産「Escarpment Pinot Noir」

栽培者の中には、同じ品種、例えば、ピノ・ノワール種の一つのクローンだけを栽培する人もいれば、幾つものピノ・ノワールのクローンを栽培し、ワインの味に複雑性を与える場合もある。しかし、これらのケースでは、ワイン・ボトルのラベルにブドウ品種名を書く際、Pinot Noirとしか記されない。さらに、ピノ・ノワールだけでなく、他の品種(サンソーなど)をブレンドしてワインを造った場合でも、ピノ・ノワールが85%以上入っていれば、ラベルにはPinot Noirと明記できることになっている。
さて、ニュージーランドにおけるピノ・ノワールの優れた産地には、北島のマーティンボロ地区、南島の北部のマールボロ地区、そして南島の南部のセントラルオタゴ地区がある。中でも、特に、マーティンボロ地区とセントラルオタゴ地区は、ワイン造りに成功しているエリアと認識される。エレガントでミディアム=ボディのワインを造るマーティンボロ地区に対し、セントラルオタゴ地区は力強く、フル=ボディのワインを生み出しており、対照的な個性を持つ。
ピノ・ノワール愛好家が集まる機会があれば、マーティンボロ地区産「Escarpment Pinot Noir」と、セントラルオタゴ地区産「Mt. Difficulty Bannockburn Pinot Noir」のワインを飲み比べてみてはいかがだろう(どちらもウェイトローズで購入することができる)。秋の楽しい食事会となることをお約束する。

週刊ジャーニー No.1103(2019年9月12日)掲載

ミヨコ・スティーブンソン Miyoko Stevenson

WSETディプロマ取得。Circle of Wine Writers会員。Chevalier du Tastevin(利き酒騎士)団員。Jurade de St-Emilion団員。Ordre des Coteaux de Champagne団員。国際日本酒利き酒師。The Guild of Freemen of the City of London会員。ワイン関連の訳書・著書あり。現在、ロンドンでワイン教室を主宰。
www.miyokostevenson.co.uk
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