ご当地ワインと郷土料理&名産物 南半球:ニュージーランド その2

ニュージーランド・ワインを支えるブドウ品種

今回もニュージーランド・ワインについてお届けする。クラウディ・ベイCloudy Bayの登場で、世界市場に躍り出たニュージーランド・ワインは、そのピュアで凝縮された果実香味により、一挙に人気を高めた。2017年時点でワイン生産では世界第16位(年間約2.9億リットル)、ブドウ作付面積では世界第20位(3万9,000ヘクタール)と、規模は小さいものの、着実に愛好家を増やし、品質の高さで確固たる地位を築いている。作付面積の一番多いブドウ品種は、ソーヴィニョン・ブランSauvignon Blanc(ワイン用ブドウ総作付面積の69.2%)、次にシャルドネChardonnay(8.7%)、ピノ・ノワールPinot Noir(8.3%)、そしてピノ・グリPinot Gris(6.3%)、メルロMerlot(3%)、リースリングRiesling(1.5%)と続いている。

辛口でありながらも甘味を感じさせるワイン

ソーヴィニョン・ブランは、2018年に40万人を対象に行われた調査で、英国でも最も人気の高いワイン用ブドウ品種に選ばれたことは前回ご紹介した通り。香りの高い白ブドウ品種で、世界的に最も有名な産地は、フランスのロワール川流域サントル地区とニュージーランドのマールボロ地区だ。サントル地区のソーヴィニョン・ブランは、西洋スグリ、エルダー・フラワー(ニワトコ)、青ピーマンやアスパラガスの香りを持つ、きりっとした酸味の高いワインで、ほとんど常に辛口。一方、ニュージーランドのソーヴィニョン・ブランはロワール産のものより、さらに香りが高く、完熟したブドウ風味が生み出す、辛口ながら甘みのある風味を持ち、パッション・フルーツ、西洋スグリ、トマトの葉といった凝縮された果実香味を呈すのが特長だ。

北島と南島が競うピノ・ノワールのワイン

ニュージーランドで3番目に作付面積の多いピノ・ノワール種は、フランスのブルゴーニュ地方が原産の黒ブドウ品種。ニュージーランドでは、北島の南端に位置するマーティンボロ地区と、南島の南寄り中央に位置するセントラル・オタゴ地区が産地として特に有名。マーティンボロ地区のピノ・ノワールは、一般的に、辛口でありながら甘みを感じさせる完熟した赤いベリーやチェリー果実香味を持ち、ジューシーな酸味と、しっかりしつつも丸みのあるタンニンをそなえ、ベルベットのような口当たりの華やかなワイン。これに対し、セントラル・オタゴのピノ・ノワールは、前者より男性的で、凝縮されたブラック・チェリーやリコリスの果実香味が強く、風味に深みがあり、強いタンニンを持つ、長期熟成を必要とするワインと言える。

長靴で密かに運ばれた苗木

さて、そのニュージーランドのピノ・ノワールには興味深い話がある。それには2人の男性が登場する。まず、1980年に農牧業に携わっていた28歳のクライヴ・パトンClive Paton。彼はブドウ栽培に生涯の夢をかけ、所有していた全家畜を売り払い、マーティンボロ地区の端に5ヘクタールの小さな土地を入手した。同地区にはブドウ栽培の大きな可能性があるというレポートを読んだからだった。もうひとりは、1970年代にオークランド国際空港の税関職員だったマルコム・エイベルMalcolm Abel。 彼は、ある旅行者がブドウの苗木をガン・ブーツ(狩猟用長靴)の中に隠して違法に持ち込もうとしたのを発見。聞いてみると仏ブルゴーニュ地方のロマネ・コンティ畑に忍び込んでとってきたという。ロマネ・コンティの偉大さを聞き知っていたエイベルは、その苗木を検疫種苗場に送った後、こっそりと挿し木を自分の畑に植えた。この話を耳にしたエイベルの友人、パトンは24本の挿し木を譲ってもらい、自分の畑で栽培し、1985年に初めてワインを造った。これが、今はニュージーランドでも最も有名なピノ・ノワールをつくるアタ・ランギの始まりだった(Ata Rangi Pinot Noir 2016=写真=の価格は60ポンドほど)。アタ・ランギとは、現地のマオリ語で、「夜明けの空」を意味する。まさに開拓者のワインにふさわしい名ではないか。ちなみに、このロマネ・コンティから盗んできたピノ・ノワール、今ではエイベル・クローンと呼ばれている。また、別名ガン・ブーツ・クローンともいう。


週刊ジャーニー No.1085(2019年5月9日)掲載

ミヨコ・スティーブンソン Miyoko Stevenson

WSETディプロマ取得。Circle of Wine Writers会員。Chevalier du Tastevin(利き酒騎士)団員。Jurade de St-Emilion団員。Ordre des Coteaux de Champagne団員。国際日本酒利き酒師。The Guild of Freemen of the City of London会員。ワイン関連の訳書・著書あり。現在、ロンドンでワイン教室を主宰。
www.miyokostevenson.co.uk
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