ご当地ワインと郷土料理&名産物 南半球:ニュージーランド その1

英国で最も愛されているワイン用ブドウ品種とは

昨年、英国最大の宅配ワイン商「Laithwaite(レイスウェイト)」が40万人を対象に行った調査の結果、英国で最も人気の高いワイン用ブドウ品種は白ブドウ品種のソーヴィニョン・ブランSauvignon Blancだったことが発表された。ソーヴィニョン・ブラン種は、冷涼または温暖な気候を好み、高い酸味をもつ香り豊かな爽やかなワインを造る。最も有名な産地といえば、フランスはロワール川流域のサントル地区、そしてニュージーランドが挙げられる。今回から、舞台を南半球に移し、まずは、そのニュージーランドを取り上げることにしよう。

ワイン造りに向いているとはいえない気候の中での奮闘

ロワール川流域で造られるサンセールSancerreやピュイイ・フュメPouilly-Fuméは大昔から有名だが、ニュージーランドのソーヴィニョン・ブランが有名になったのは20年前と、ごく最近になってからだ。
ニュージーランドに最初にブドウが植え付けられたのは1819年のこと。1840年に英国領となると、英政府からスコットランド人、ジェームズ・バズビーJames Busbyが送りこまれ、ブドウ栽培とワイン醸造が一気に促進された。ただし、1932年までは、同国で造られたのはもっぱら酒精強化ワイン(シェリーやポートが代表的)だった。ワイン生産地が南緯46~34度に位置し、夏の気温が20~25℃と低めであるニュージーランドは、どちらかというとブドウ栽培には不向きな地。雨も多く、しかも特定の季節に限らず降るために、ブドウの葉がうどん粉病にかかりやすいうえ、ブドウが完熟しづらいという、マイナス項目のほうが多かった。しかし、散布剤とブドウの樹冠管理の改良、そして政府によるワイン産業推進政策や、熱意あるブドウ栽培者・ワイン醸造者による努力などが実り、ワインの品質は大いに向上した。

ニュージーランド・ワインに全てをかけた、ひとりの豪州人

そのような中、ニュージーランド・マールボロ地区産のソーヴィニョン・ブランを世界的に有名にした人物がいる。名をデイビッド・ホーネンDavid Hohnenという。1949年、ニューギニア生まれのホーネンは、鉱山技師だった父親の仕事の関係で、オーストラリアのパースに移り住んでからワインに目覚めた。バロッサ・ヴァレーで1年間ブドウ栽培とワイン醸造の修業をつんだあと、米カリフォルニア州のフレスノ大学でワインを学び、パースに戻った。
近所に住む医師が持ってきた、オーストラリアのマーガレット・リバー産のワインに感動したホーネンは、そのワイナリーの隣りにブドウ畑を築き、ケープ・メンテルと命名。そこで造ったカベルネ・ソーヴィニョン種の赤ワインは、1982年、83年と品評会で優勝を果たした。

1983年、ニュージーランドからケープ・メンテルを訪れた4人のワイン醸造者との出会いが、その後のホーネンの運命を変えた。ニュージーランド産のワインをそれまでテイストしたことのなかったホーネンは、彼らから贈られた幾つかのソーヴィニョン・ブランに衝撃を受けた。多少甘みが強いとはいうものの、オーストラリアでは生み出すことのできない果実香味を持ったワインだったのだ。
ホーネンは、そのワイン産地を実際に目で見て確かめようと、すぐにニュージーランドに飛んだ。好奇心は確信へと変わり、その土地に莫大な投資を行う決心をするまでに時間はかからなかった。ニュージーランドに飛んだ飛行機の窓から見えた3連山のシルエットをワインのラベルと決めた。有名なクラウディー・ベイCloudy Bayはこうして誕生した。1985年のことだ。

「羊の国」から「ワインの国」へ

ちなみに、この「クラウディー・ベイ」の名前だが、「曇った湾」ではなく、実は、濁った湾という意味。1770年、英探検家キャンプテン・クックがこの湾に船を停めた際、大雨のために、川が運んだ泥で湾が濁っていたのでそう名付けられたのだという。
さて、ワインのクラウディー・ベイは、当初から品質が高く評価され、世界中のワイン品評会で優勝し続けた。ニュージーランド産ソーヴィニョン・ブランを世界トップ級の白ワインとして認めさせ、ニュージーランドを「羊の国」から「ワインの国」へと変身させた。しかし、投資のために借りた金額があまりに大きかったために、1990年、ホーネンは当時ヴーヴ・クリコを所有していたジョゼフ・アンリオにクラウディー・ベイを売却。そのおかげで、より大きな予算でワイン造りに励めるようになったのだが、2003年にヴーヴ・クリコがLVMH(Louis Vuitton Möet Hennessey)の傘下に入ると、クラウディー・ベイとケープ・メンテル両社から一切手を引くこととなった。
とはいえ、ニュージーランドのマールボロで世界クラスのソーヴィニョン・ブランを作り上げた人物として、ホーネンの功績が色あせることはない。

週刊ジャーニー No.1081(2019年4月11日)掲載

ミヨコ・スティーブンソン Miyoko Stevenson

WSETディプロマ取得。Circle of Wine Writers会員。Chevalier du Tastevin(利き酒騎士)団員。Jurade de St-Emilion団員。Ordre des Coteaux de Champagne団員。国際日本酒利き酒師。The Guild of Freemen of the City of London会員。ワイン関連の訳書・著書あり。現在、ロンドンでワイン教室を主宰。
www.miyokostevenson.co.uk
e-mail:このメールアドレスはスパムボットから保護されています。閲覧するにはJavaScriptを有効にする必要があります。