ご当地ワインと郷土料理&名産物㉖ 番外編:ワイン・グラスについて

グラスの長い長い歩み

今号では、ワインを味わう際に欠かせないグラスについてお届けしたい。
グラスは、3000年もの歴史があると言われているが、ワインを飲むためにグラスを使った最初の人類は古代ギリシャ人のようだ(紀元前1500年頃)。古代ローマ時代になると、息を吹き入れながら成形する吹きガラスの技術がローマ帝国全域に広まり、ワイン用のグラスやデカンタ(当初は、ワインのうわ澄みをテーブルまで運ぶのが主要用途。2月14日号参照)が作られるようになった。ただ、当時のガラスは耐性に優れず、ワインの保存用、輸送用には使われていなかったとされている。
ルネサンスの頃(13末~15末世紀)には、ヴェニスが高級グラスの生産地として名を馳せる一方、英国ではチューダー期(1485~1603)になると、ワイン・ゴブレットを銀で造るようになった。この英国でガラス製グラスの改革が進むのは、欠乏しつつあった木材の代わりに石炭を使うようになり、炉という設備が紹介された17世紀になってからのこと。炉で造られたグラスは黒くて重いものだったが、割れにくい頑丈な質を備えていたため、グラスやデカンタ用だけでなく、ワイン保存容器としても使われるようになった。
やがて丈夫なグラスと、ストッパーとしてのコルクの発展が同時に起こったことにより、ワインの長期保存が可能となるとともに、グラスの形も玉ねぎ型の丸いものから、今日使われるような細長い形に変わっていった。

鉛入りの画期的な製品の誕生


1675年には、英国人のジョージ・レイヴェンクロフトGeorge Ravencroftが、ヴェネチアン・グラスとは全く異なる、鉛を含むクリスタル・グラス=写真=を開発。デザインも変わり、各ワインに合った特定の形やサイズのワイングラスが造られるようになった。そのコンセプトは統一され、18世紀にヨーロッパ中に拡大したのだった。今日では、リーデルRiedel社をはじめ、ザルトZalto、 ウォーターフォードWaterford、エル・エス・エーLSA、 ツヴィーゼルZwiesel、 ラスタル・テクRastal Teku各社から多種多様なワイン・グラスが市場に紹介されている。

グラスの形状とワインの美味しい関係

形状に関してみてみると、手の熱が伝わらないようにと、ワイン・グラスの持ち手は長く造られるのが一般的だったが、グラスからは手の熱は伝わりづらいことが判明すると、足のないワイン・グラスも造られるようになっている。また、スパークリング・ワイン用のグラスは、以前は、マリーアントワネットの乳房を形どったという浅くて幅のひろいクープ・グラスが主流だったものの、立ち上る泡を眺めて楽しめるようにと、今では細長いフルート型=写真右上=に変わり、ほぼ統一されるに至っている。
非発泡性ワイン用に関しては、サイズはいろいろあるが、形はほぼチューリップ型。通常、どのワインでも100ccを目安に注ぐとよい。グラスに注がれたワインに呼吸をさせて香りが放たれるように、赤ワイン用は空気に触れる面が広い、大き目のグラスを使う。これに対し、冷えている間に飲み切れるように、白ワイン用には小さめのグラスを用いる。

大型化が進むワイン・グラス

ワイン・グラスの容量だが、1700年代のものは60~70mlだった。しかし、今日では白ワイン用で200~450ml、赤ワイン用で450~700ml(1000mlを超えるものもある)とかなり増えており、特に赤ワイン用のグラスは大きく、食器棚の場所を占領しがち。大き目の白ワイングラス(350~450ml)を揃えておくと、白ワインにも赤ワインにも使うことができるので重宝する。
ところで、発泡性ワイン用グラスについてもう少々。最近では、グラスの底の真ん中から一直線に泡が立つようにと、グラスの底の中央がとがっているものが紹介されているが、これは実は英国では意外と不便。というのも、水に含まれる石灰が、そのとがった先に溜まりやすいためだ。取り除くのも難しいので、カスのように白く残ってしまい残念。
小さな悩みとはいえ、できればいつも美しいグラスでワインを飲みたいもの。解決策を探りたいと考えているところだ。
それでは、今日もお気に入りのグラスを片手に乾杯!

週刊ジャーニー No.1077(2019年3月14日)掲載

ミヨコ・スティーブンソン Miyoko Stevenson

WSETディプロマ取得。Circle of Wine Writers会員。Chevalier du Tastevin(利き酒騎士)団員。Jurade de St-Emilion団員。Ordre des Coteaux de Champagne団員。国際日本酒利き酒師。The Guild of Freemen of the City of London会員。ワイン関連の訳書・著書あり。現在、ロンドンでワイン教室を主宰。
www.miyokostevenson.co.uk
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