ご当地ワインと郷土料理&名産物㉖ 番外編:デカンタージュについて

古代エジプトや古代ローマの時代から始まった工夫

前回は「あると便利なワイン小道具」と題し、ワインのある暮らしをさらに豊かにするために役立つアイテムの数々を取り上げた。その中で、あまりに紙面が限られていたため、「デカンタ」については次号で詳しく記したいと「予告」させていただいていたのをご記憶だろうか。
デキャンティングdecanting(仏語でデカンタージュdécantage)とは、ワインを他の容器に移し替えるという意味。
その昔、古代エジプト人や古代ローマ人が、アンフォラ(amphora=陶器の一種。細長い壷状の形が特徴)に入ったワインの上澄みを小さな容器に入れてテーブルで供することから始まった。今では、もっとも一般的な首の長い壺型のもの=写真右下=から、白鳥の形、フラミンゴや蛇、あるいは鶏の形といった具合に様々な形のものが登場し、その形の美しさのみならず、ワインを注いだ時の音色を楽しめる商品さえ購入できるようになっている。ちなみに、底がかなり広く、横から見るとほとんど三角形に近い形をした品は、海軍の将校達の食卓で使われていたものが原型で、船が傾いても倒れるのを防ぐデザインとなっている。

沈殿物を取り除くための知恵

古代ローマ時代には、清澄や濾過(ろか)といった技術が進んでいなかったことから、ワインを貯蔵したアンフォラの底には沈殿物がたくさん溜まったわけだが、我々が今日飲む赤ワインの中にも清澄、濾過を施さないものや、施しても最低限に抑えられているものがある。ワイン・ボトルを寝かしておくと色素やタンニンが沈殿物となって側面に溜まる場合があるのはこのため。沈殿物は飲んでも毒ではないとはいえ、飲める代物ではない。
デキャンティングには、このように古い赤ワインの上澄みだけを他の容器に移し替えるという目的があり、室温で、1~2日前からワインのボトルを立てて置いておく必要がある。

閉じ込められていた香りを 放つためのセレモニー

デキャンティングにはもう一つ、目的がある。それはワインを空気と触れさせることによって香りを目覚めさせること。
これは、赤ワインのみならず、白ワインにも適用される。グラスに注いだワインが、時間がたつにつれて複雑で芳醇になるような赤ワインや白ワインに出会ったことがある読者もおられるだろう。このようなワインは通常、長期熟成させたワインで、凝縮された複雑な香りが閉じこめられているので、デキャンティングによって空気と触れさせ、香りが放たれやすくするのだ。これに対し、ステンレス・スチール製タンクのみを使って造られ、新鮮な果実香味をもつ早飲み用のワイン(通常、10ポンド以下のワイン)は、ボトルを開けた瞬間からその香りを失っていくので、デキャンティングは不要。
なお、ワインの銘柄によっては、どうしてもオリジナルのワイン・ボトルを使いたいこともあるだろう。そうしたケースでは、デキャンティングして、ボトルに溜まった沈殿物を水で洗い流し、デキャンティングしたワインを、再びボトルに戻すとよいだろう。これをダブル・デキャンティングという。

ワインによって異なる デキャンティングのタイミング

デキャンティングの時期だが、例えば、良い収穫年のボルドーの格付けワイン(2000年もの、2005年もの、2009年もの、2010年ものなど)のように、まだ飲み頃になっていない赤ワインの場合には、6~8時間位前からデキャンティングしたい。一方、同じくボルドーの格付けワインでも2003年ものや2007年もののように、すでに飲み頃を迎えているワインの場合には、1~2時間前にデキャンティングすることを薦める。一方、50年以上の年月を経た古酒の場合には、デキャンティングせずに、ボトルを開けたら即、グラスに注いで飲む方がよい。また、白ワインの場合には、飲む直前にデキャンティングする。

さて、今年も2月14日、バレンタインデーを迎えた。この日に最適なワインを2つ挙げておきたい。一つはワイン・ラベルがハート型のボルドー3級格付けのシャトー・カロン・セギュールChâteau Caron Segur=写真右。
もう一つは、ボージョレのサン=タムールSaint-Amour(仏語で「愛の聖人」という意味)と名づけられた赤ワイン。どちらも、ダブル・デキャンティングしてオリジナルのボトルで供せば、さらにロマンチックな時間が演出できることだろう。

週刊ジャーニー No.1073(2019年2月14日)掲載

ミヨコ・スティーブンソン Miyoko Stevenson

WSETディプロマ取得。Circle of Wine Writers会員。Chevalier du Tastevin(利き酒騎士)団員。Jurade de St-Emilion団員。Ordre des Coteaux de Champagne団員。国際日本酒利き酒師。The Guild of Freemen of the City of London会員。ワイン関連の訳書・著書あり。現在、ロンドンでワイン教室を主宰。
www.miyokostevenson.co.uk
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