ご当地ワインと郷土料理&名産物㉔南米・チリ その4 

品質のさらなる向上が期待されるチリ・ワイン

引き続き南米チリのワインについてお届けしたい。チリ・ワインは安価だというイメージがある。確かにチリ・ワインの価格は手頃で、しかも良品質であるうえに入手しやすい。チリ・ワインの大手ブランド、例えば、コンチャ・イ・トロConcha y Toro、モント・グラスMont Gras、コノ・スルCono Sur、モンテスMontesなどは、たいていのスーパーマーケットで見つけることができる。また、それぞれのブランド名に加えてブドウ品種名が記されているので(例えば、コンチャ・イ・トロ:メルロConcha y Toro, Merlot、コンチャ・イ・トロ:カルムネールConcha y Toro, Carmenereといった具合)、わかりやすくて買いやすい。
ただ、2012~13年の英国ワイン市場において、小売り価格10ポンド以上のチリ・ワインの販売量は38.8%の増加をみたが、それに反して小売価格が3~4ポンドの同国産ワイン販売量は40.8%減少した。この動きはそれ以後も続き、2017年3月現在のチリ・ワインの平均小売価格は5.32ポンドで、実はオーストラリア、イタリア、アメリカ合衆国、南アフリカ、ドイツのワイン平均小売価格より高くなっている。

チリ・ワイン業界を牽引する13の大手生産者

チリには約350のワイン生産者がいるが、うち13の大手(コンチャ・イ・トロ、コノ・スル、エラスリスErrázurriz、モンテス、カルメンCarmen、エミリアーナEmiliana、ルイス・フェリッペ・エドワーズLuis Felipe Edwards、ミゲル・トーレスMiguel Torres、サン・ペドロSan Pedro、サンタ・カロリーナSanta Carolina、サンタ・リタSanta Rita、ウンドゥラーガUndurraga、ベンティクェロVentisquero)がチリのワイン総生産量の85%を占めている。

ブドウ生産と熟成方法に見られる変化の波

チリ・ワインは、2004年にベルリンで行われたブラインド・テイスティング会においてフランスの超一流ワインを押しのけて1位と2位に輝いた実績から、国を挙げて品質の向上を目指す試みが行われている。とはいうものの、チリの国民1人当たりのワイン年間消費量は約13リットルと少なく(隣のアルゼンチンや英国は1人当たり21リットル)、輸出に傾斜している実情には変わりがなく、ブドウ栽培者の数は減少中だ。それまでブドウ栽培に従事し、大手ワイン生産者にブドウを提供してきたものの、サクランボやアボカドへと栽培作物を転換する生産者が相次いでいる。これにともない、生産者がブドウ畑を購入し、自社でブドウ栽培も行う動きが活発化。この結果、ブドウの品質管理ができ、より質のよいワインを生産できるようになっている。
また、チリは昔からワインの熟成にオーク樽以外を使用してきた。20世紀までは、チリ原産のラウリrauli(ブナに似た常緑樹)製の樽を使って多少酸化したような独特な風味を持つワインを造るのが主流で、チリで初めてオーク樽が使われたのは1995年になってからのこと。この初の試みを成功させたのはセーニャSeña(エラスリスとカリフォルニア・ワインの父と称されるロバート・モンダヴィの合弁)で、以後、1996年にはアルマヴィーヴァAlmavivaが、そして1997年にはクロ・アパルタClos Apaltaといったカルト・ワインが登場した。

メルロ以外のブドウによるワインにも注目

近年まで、チリではブドウが効率よく日照を受けられるように日陰をつくる余分な葉を除いたり、ブドウが登熟(果皮が色づき、果粒内の酸味が下がり始め、糖分が上がり始めること)する寸前に、余計なブドウの房を切り落とすグリーン・ハーヴェストgreen harvestという作業を行ったりしたほか、収穫も遅めにして、完熟して糖分が増えたブドウから、果実豊富でアルコール度の高い、オーク香の強いワインが造られることが多かった。しかし、ブドウ自体の品質が向上し、最近では、オークの使用を減らしブドウの個性を生かした、洗練された香味でエレガントなワインが造られるように変わってきている。さらに、メルロのワインで有名になったチリ・ワインだが、シラー、ピノ・ノワール、そしてチリ国民が愛する、ピスコPiscoと呼ばれるブランデーを造るブドウ品種、パイスPaísを使ったワインの今後が期待されている。 
さて、エンパナーダEmpanada、パステル・デ・チョクロPastel de Chocloに続いて、今回はチュラスコChurrascoを紹介しよう。チリのワイナリーを訪れると、ランチで必ず供される料理の一つだ。牛肉の鉄板焼きで、細かく刻んだアボカドと共にパンにはさんで食べるのが一般的。あつあつの牛肉とアボカドの相性の良さに驚くほど美味。チリ・ワインの赤といっしょに楽しみたい。

週刊ジャーニー No.1052(2018年9月13日)掲載

ミヨコ・スティーブンソン Miyoko Stevenson

WSETディプロマ取得。Circle of Wine Writers会員。Chevalier du Tastevin(利き酒騎士)団員。Jurade de St-Emilion団員。Ordre des Coteaux de Champagne団員。国際日本酒利き酒師。The Guild of Freemen of the City of London会員。ワイン関連の訳書・著書あり。現在、ロンドンでワイン教室を主宰。
www.miyokostevenson.co.uk
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