ご当地ワインと郷土料理&名産物㉔南米・チリ その3 

ワイン業界の最新トレンド

今号でも南米チリのワインを取り上げるが、その前に、ワイン業界の最新トレンドについてご紹介しておきたい。ナチュラル・ワインnatural wine(仏語では「ヴァン・ナチュールvin nature」)という言葉を耳にしたことはないだろうか。「自然派ワイン」といって、ブドウを殺虫剤や除草剤といった合成化学薬品を使わずに有機栽培し、自然酵母を使い、防腐剤、酸化防止剤を使用せずに造ったワインのこと。英国ではその専門通販会社があるものの、まだ一部の人しか知らないのが現状ながら、日本では楽天市場をはじめ、幾つかの大手通販で広く扱われており、かなりの人気を得ているようだ。最近、筆者が一時帰国した際、六本木にあるステーキハウス「祥瑞Shonzui」という店を訪れたところ、ワインはすべてナチュラル・ワインに特化されていて驚いた。パリで評判のビストロやレストランにも、必ずといって良いほどナチュラル・ワインがリストにあるほか、ナチュラル・ワイン専門のワインバーが若い利用客で大盛況という。また、2010年から3年連続世界No 1レストランに選ばれた、デンマーク、コペンハーゲンの「ノーマNOMA」レストランのワインリストも半分はナチュラル・ワインで占められている。

キーワードは「健康」と「環境保護」

それほど注目を集めるようになったナチュラル・ワインは、健康志向、また地球環境保護目的から生まれたものだが、同様の目的のもと、有機農法organic agriculture、バイオ ダイナミック農法biodynamic agriculture、存続農法sustainable agricultureなどによって栽培されたブドウで造られるワインの人気も上昇中だ。ナチュラル・ワインには合成化学薬品は一切使われないのに対し、有機農法では、生石灰+硫酸銅の水溶液だけは使用が認められている(それ以外の合成化学薬品の使用は禁止)。また、バイオダイナミック(仏語ビオディナミ)農法では、化学肥料や農薬の使用を否定し、活力剤として珪石、牛糞、牛角の粉などを使用してブドウを栽培する。

チリで展開される 様々なブドウ栽培法

栽培過程で合成化学薬品を使用せずに健康なブドウを育てるには、気候に恵まれていることが必要。チリでは、適した気温と、海からの朝風、そして夕方から夜にかけて山から吹く風のおかげで、健康なブドウが育つ最適な環境がそろっており、アンティヤルAntiyal、カルメンCarmen、コンチャ・イ・トロConcha y Toro、 エミリアーナEmiliana、 マテティックMatetic、モングラMont Gras、モンテスMontes、 ミゲル・
トーレスMiguel Torres、ネイェンNeyen、プロムスPromus、リチュアルRitual、ベルモンテVeramonteといった有機やビオ
のワインが造られている。さらに、アナケナAnakena、アルボレダArboleda、カリテッラCaliterra、カサ・シルバCasa Silva、クレマスキ・フルロッティCremaschi Furlotti、エミリアーナEmiliana、エラスリスErrázuriz、サンタ・クルーズSanta Cruz、サンタ・エマSanta Ema、サンタ・リタSanta Rita、ベンティスケロVentisquero、ビア・ワインVía Winesが存続農法を取り入れているワインとして挙げられる。ちなみに存続農法は、合成化学薬品の使用は禁止されていないが、その使用が極度に制限されている減農薬栽培のことを指す。

健康と環境に良いワインの 長所と短所

ビオ・ワイン、オーガニック・ワイン、存続農法によるワインには防腐剤/酸化防止剤としての二酸化硫黄を入れるのを許可しているが(もちろん、入れない生産者もいる)、ナチュラル・ワインには通常一切使われない。そのため、造られたワインは比較的早めに消費しなければならず、遠国への輸送も困難になりがち。遠方に輸送するためには、温度調節可能なコンテナを使うことになるため、価格も割高になる。加えて、保存方法にも敏感でなければならないという欠点があり、さらに広まるかどうか注目されるところだ。
ナチュラル・ワインの色には少々濁りが見られ、長期の保存には向かない。一方、有機、ビオ、存続農法によるワインには濁りはなく、保存もきく(ただし、早めに飲むように造られたワインは別)。味は、普通に造られたワインよりも濃いめで、チリ産ワインの場合、熟した果実の甘味を伴い、酸味も強くないのが特徴。口当たりが大変スムーズなワインといえる。
こうして造られた白ワインに合わせたいのは、チリの郷土料理、パステル・デ・チョクロpastel de choclo。この料理は、鶏のモモ肉の上に、牛ひき肉、オリーブ、玉ねぎ、ゆで卵、レーズンなどを炒めた具をのせ、トウモロコシとバジリコのペーストをかけてオーブンで焼き上げる料理で、アツアツのうちに食すのがお勧め。涼しくなったら試してみていただきたい。

週刊ジャーニー No.1047(2018年8月9日)掲載

ミヨコ・スティーブンソン Miyoko Stevenson

WSETディプロマ取得。Circle of Wine Writers会員。Chevalier du Tastevin(利き酒騎士)団員。Jurade de St-Emilion団員。Ordre des Coteaux de Champagne団員。国際日本酒利き酒師。The Guild of Freemen of the City of London会員。ワイン関連の訳書・著書あり。現在、ロンドンでワイン教室を主宰。
www.miyokostevenson.co.uk
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