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ご当地ワインと郷土料理&名産物㉔南米・チリ その2 

実はメルローではなかったブドウ品種

引き続き、南米チリのワインについてお届けしたい。そもそもチリは、口当たりが柔らかく、果実香味が芳醇なメルローMerlot種から造られる赤ワインで人気を得たのだが、チリのメルローは他のワイン産地で造られるメルローと違っていた。すなわち、色が濃く、スパイス風味を伴った味わいとコクのあるワインを造りだすことができ、その理由が明らかになったのは1994年になってからのこと。フランスのモンペリエ・ブドウ研究所により、チリでメルロー種と信じられてきたブドウについて調査が行われ、仏ボルドーを原産地とするカルムネールCarménère種であることが判明。1998年、正式にワイン法にブドウ生産用ブドウ品種として認定されるに至った。この黒ブドウに付けられた品種名の語源は「crimson=深紅」。つまり、その果皮の色の鮮やかさと濃さから名づけられたのだった。

ビール党にも受け入れられたワイン

この品種の挿し木は19世紀に仏ボルドーからチリに輸入され、サンチャゴ周辺で栽培され始めた。ボルドーとは異なる雨の少ない暑い気候によく合い、健康なブドウを生みだし、栽培者に好まれた。150年の間、この品種はメルロー種のクローンと思われていたので、ヴァラエタル・ワイン(ブドウ品種名がラベルに明記されるワイン)でメルローとしてブレンドされてきた。しかし、正確な品種名が分かると、この品種を使って、カルムネールとラベル表記したヴァラエタル・ワインが造られるようになった。フル・ボディで、タンニンが豊富で色が濃く、スパイス風味を伴うチェリーやブラック・ベリーの香味を呈し、後味に心地よい苦味を残すこのコクのあるワインは、すぐに国内で人気を呼び、肉料理の多いチリの特産ワインに急成長。また、その味わいが、ビールのIPA(Indian Pale Ale)のもつ、濃くて、甘みのある苦味が残る味わいに似ているおかげで、ビール支持層をもとらえ、カルムネールは世界中にその名をはせることとなった。

チリで優れたワインを造るブドウ

チリはその暑い気候から、赤ワインの生産に向いているわけだが、最も多く栽培されているのはカベルネ・ソーヴィニョンCabernet Sauvignon種。栽植はチリの広範囲に及び、シンプルでフルーティーなワインからフル・ボディの高級ワインに至るまで、多様なスタイルのものが生産されている。通常、よく熟した黒系果実の香味を呈し、どことなく草をイメージさせる風味を伴うことが多い。なお、カベルネ・ソーヴィニョンと表記したヴァラエタル・ワインの場合でも、メルロー種、カルムネール種、あるいはシラー種とブレンドされることが少なくない。EUのワイン法では、そのブドウ品種が85%使われていれば、ブレンドしてよいことになっているためだ。

チリ産ワインの将来

低価格で果実香味の豊かなミディアム・ボディのワインを造るメルローは輸出市場で大きな成功を収めてきたが、最近ではフル・ボディで味わいが複雑なタイプのものも造られるようになってきている。一方、赤ワインとして比較的新しいのはシラーSyrah。シラー種はフランスでも暖かいローヌ川流域で造られており、チリで成功するのは当然ともいえ、今では広い範囲で栽植されている。標高が高い、または海か山からの風を利用したやや涼しい北部沿岸地域(エルキ・ヴァレーElqui Valleyやリマリ・ヴァレーLimari Valley、チョアパ・ヴァレーChoapa Valleyなど)で造られるシラーは、軽めのボディでコショウの風味を呈すワインであるのに対し、コルチャグア・ヴァレーColchagua Valleyなど、高温の気候で産出されるのは、強い黒系果実を呈すフル・ボディで重厚なワインだ。さらに、チリでは気温の高いサンチャゴ周辺でブドウ栽培が始まったのだが、最近では標高の高さや偏西風の恩恵を利用してブドウ畑が開拓され、栽培されるブドウ品種の種類も増加。フランスでも冷涼なブルゴーニュ地方の黒ブドウ品種、ピノ・ノワールPinot Noir種も、サンアントニオ・ヴァレーSan Antonio Valleyやカサブランカ・ヴァレーCasablanca Valleyのような涼しい場所でその将来性を見せている。
さて、チリの代表的な土産ものにラピスラズリlapis lazuliがある。世界でアフガニスタンとチリだけでしか産出されない鉱物だ。濃いブルーで、白い模様がはいっているものもある。そして、名高い郷土料理といえば、ビーフのBBQとエンパナーダEmpanada=写真。どちらもチリの赤ワインとのマリアージュ(組み合わせ)はすばらしい。ちなみにエンパナーダとは具入りのパンまたはペイストリーで、チリではピノpino(伝統的に牛肉、玉ねぎ、ショートニング、レーズン、黒オリーブ、固ゆで卵、唐辛子から成る)を詰めて焼いたものか、チーズを詰めて揚げたものが多い。

週刊ジャーニー No.1043(2018年7月12日)掲載

ミヨコ・スティーブンソン Miyoko Stevenson

WSETディプロマ取得。Circle of Wine Writers会員。Chevalier du Tastevin(利き酒騎士)団員。Jurade de St-Emilion団員。Ordre des Coteaux de Champagne団員。国際日本酒利き酒師。The Guild of Freemen of the City of London会員。ワイン関連の訳書・著書あり。現在、ロンドンでワイン教室を主宰。
www.miyokostevenson.co.uk
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