徳川るり子の細腕感情記Ⅱ

何ゆえ、日本の美術館では
写真撮影ができませんの?


徳川るり子

愛するお父様へ

前文お許しくださいませ。

もうすぐ桃の節句(雛祭り)でございますね。雛人形を飾ってお祝いすることは叶いませんが、せっかくですので「ちらし寿司」づくりに挑戦して、エドワーズご夫妻に召し上がっていただこうと思っております。

さて話は変わりますが、先日はパリから遊びにいらした女学院時代の友人と、思い出話に花を咲かせながら楽しく過ごしました。今回はその折に疑問に思いましたこと、いえ、正確に申しますと、友人に尋ねられて返答できなかったことにつきまして、ご報告いたしますね。

友人の希望で、大英博物館を一緒に訪れたときのことです。大英博物館にはパルテノン神殿のリリーフやエジプトのミイラ、ロゼッタ・ストーンなど、古今東西から集められた歴史的価値のある名品が数多く展示されておりますが、カメラのフラッシュ機能を使わなければ、どれも写真撮影が可能です。歴史が好きな友人は、心ゆくまで様々な美術品を写真に収めていました。その帰り際に、ふと彼女がつぶやいたのです。「フランスやイギリス、他のヨーロッパ諸国でも、写真撮影を許可している美術館や博物館は多いのに、どうして日本は撮影禁止なのかしら?」と。わたくしもロンドンにまいりました当初は、美術館や博物館、ギャラリーでの写真撮影が可能であることに大変驚いた経験を思い出しましたものの、結局、何も答えることができませんでした…。一体なぜ日本の美術館では撮影が禁止されているのでしょう? 友人がパリに戻り、わたくしの生活も落ち着きました今、調べてみることにいたしました。

調べを進めていくにつれ、欧米と日本の美術館のあり方が、少々異なることに気づきました。美術館では一般的に、所蔵作品を展示する「常設展示」と、美術館側が企画して他館から借りた作品を展示する「特別展示」が開かれます。

大英博物館を例に挙げますと、エジプトのミイラやロゼッタ・ストーンが展示されている入場無料のエリアが常設展示、チケットを購入する必要がある期間限定の展覧会が特別展示にあたります。同館では、常設展示での写真撮影は可能ですが、特別展示での撮影は禁止。特別展示で見られる作品は、借用しているものがほとんどですので、勝手に撮影されては困るのかもしれません。実は、この「特別展示の撮影禁止」というルールは、欧米のどこの美術館でも大抵適用されているとのこと。つまり、わたくしたちがいつも撮影しているのは常設展示の作品なのです!

このことを踏まえたうえで、日本の美術館はといえば、欧米と同様に常設展示の撮影を許可している施設が少なくないことがわかりました! 東京国立博物館や国立西洋美術館などでも、フラッシュさえ使わなければ、基本的に撮影OKだとか。振り返ってみますと、日本では「美術館へ行く」=「特別展へ行く」という意識であったように思います。そのため、写真撮影ができないように感じておりましたが、実際には欧米の美術館とあまり変わらないことが判明した次第です。…まさに目からうろこが落ちた気がいたします。

ただ、そのように誤解してしまうほど、欧米の美術館・博物館の所蔵品は充実しているということでしょうね。それでは今日はこのへんで。お母様にもよろしくお伝えくださいませませ。

かしこ
平成29年2月26日 るり子


とくがわ・るりこ◆ 横浜生まれのお嬢様。名門聖エリザベス女学院卒。元華族出身の26歳。あまりに甘やかされ過ぎたため、きわめてワガママかつ勝気、しかも好奇心(ヤジ馬根性)旺盛。その性格の矯正を画する父君の命により渡英。在英2年5ヵ月。ホームステイをしながら英語学校に通学中。『細腕感情記』(平成6年3月~平成13年1月連載)の筆者・徳川きりこ嬢の姪。

 

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