徳川るり子の細腕感情記Ⅱ
2015年12月18日
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何ゆえ、クリスマス・クラッカーに
おもちゃが入っておりますの?

徳川るり子の細腕感情記Ⅱ
徳川るり子

愛するお父様へ

 前文お許しくださいませ。
 いよいよクリスマスまで、残すところ10日となりました。わたくしの通う英語学校でもクリスマス・パーティーが開かれ、ミンスパイやカップケーキなどをいただきながら、先生方から出題されるクイズに挑戦したり、音楽にあわせてダンスを踊ったりと、とても楽しいひとときを過ごしました。今回は、そのパーティーで体験した事柄につきまして、ご報告いたしますね。
 ローストターキーやミンスパイ、クリスマス・プディングといった料理のほかに、英国のクリスマス・テーブルに欠かせないものは「クリスマス・クラッカー」です。筒型の巨大キャンディのような形で、可愛い包装紙でラッピングされたパーティー用クラッカーのことです。この時期になりますと、箱に詰められたクラッカーがデパートやスーパーマーケットの店頭にずらりと並びますが、日本の小さな円錐形のものとはかなり形状が異なりますので、初めて目にする方はおそらく何かわからないのではないでしょうか(わたくしもずっと不思議に思っておりました…)。しかし、先週のクリスマス・パーティーで、ついにこのクラッカーを手にすることができました。
 両腕を前で交差して、隣の人とクラッカーの両端を握りあいます。掛け声とともに一斉にクラッカーを引っ張ると、ポンッという音とともにクラッカーが2つに割れて…なんと、中からプレゼントが飛びだしてきたのです! わたくしのクラッカーからは、可愛いキーホルダーと紙でつくられた王冠、格言の書かれた紙が出てきました。日本のクラッカーのように音が鳴るだけか、あるいは紙テープなどが飛び出すものと思っておりましたので、嬉しいサプライズに思わず歓声をあげてしまいました! それにしましても、なぜ英国ではクラッカーに「プレゼント」が入っているのでしょうか? 疑問に思い、調べてみることにいたしました。
 資料によりますと、クリスマス・クラッカーを発明したのは、お菓子職人のトム・スミス氏なる人物のようです。1840年にパリを訪れたスミス氏が、砂糖でコーティングされたアーモンドのお菓子「ボンボン」と出会ったことから始まったとのこと。ひとつずつティッシュ・ペーパーで包まれ、両端がねじられたキャンディのような姿は繊細で可愛らしく、ロンドンでもクリスマス用に売り出すことを思いつきます。そして1847年、ティッシュではなく「恋の格言」が印刷された紙でキャンディ形に包んで販売されたボンボンは、人気商品になりました。
 「もうひと工夫加えたい」と考えをめぐらせていたスミス氏は、ある夜に暖炉で薪がパチパチと火の粉を吹いてはぜる様子を目にし、新しいアイディアを得ます。「火薬を仕込んだ紙を入れ、ボンボンの包装を開けるたびに、摩擦でパチンと音が出るようにしたらどうだろう?」と。ところが、何度試しても開封時にボンボンが落下してしまうため、スミス氏は代わりにおもちゃやジュエリーを入れた「コサック」を発売。これがやがて「クラッカー」と呼ばれるようになり、クリスマス・パーティーの必需品として定着したそうです。ちなみに、トム・スミス社は1906年に王室御用達の認定を受けています。それでは今日はこのへんで。お母様にもよろしくお伝えくださいませませ。

かしこ 
平成27年12月15日 るり子

徳川るり子の細腕感情記Ⅱ

とくがわ・るりこ◆ 横浜生まれのお嬢様。名門聖エリザベス女学院卒。元華族出身の25歳。あまりに甘やかされ過ぎたため、きわめてワガママかつ勝気、しかも好奇心(ヤジ馬根性)旺盛。その性格の矯正を画する父君の命により渡英。在英1年3ヵ月。ホームステイをしながら英語学校に通学中。『細腕感情記』(平成6年3月~平成13年1月連載)の筆者・徳川きりこ嬢の姪。

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