メアリーの反撃
女王としての仕事は山のようにあり、ジェーンはとにかく忙しかった。
枢密院(国王の政治上の諮問機関)は午前と午後の1日2回開かれ、その会議に出席した後は報告書に目を通す。「ジェーン女王Jane the Quene」(Queneは中世英語)と初めて署名した際には手が震えて不恰好だったが、次々と運ばれてくる書類に何度も書き込んでいるうちに上達してきた。そんなジェーンを見て、ジョン・ダドリーは満足そうな笑みを浮かべた。今のところ、すべて順調に運んでいるように思われた。彼女は自分の言うがままだし、枢密院の貴族たちも概ね従順。軍隊と武器、国庫は彼の手の中。唯一気にかかるのが、メアリーの動向だった。
国王の崩御は通常であれば翌日には告示されるが、エドワード6世の場合、7月6日に逝去したにもかかわらず、その死は10日まで公表されなかった。それは当初の計画では、国王崩御と同時に遺言状を盾にメアリーを逮捕・幽閉し、カトリック派の貴族を押さえ込んだ上で、ジェーンの即位を宣言する予定だったからだ。ところが、ギルフォードの兄ロバート・ダドリーが軍を率いてメアリーのもとを訪れると、身の危険を察知していた彼女はすでに逃亡を図っていたのである。
7月12日、枢密院あてにメアリーから書簡が届く。ダドリーが代表して開封すると、そこには王位を要求する旨が記されていた。枢密院はその要求を突っぱねるが、ダドリーの強引なやり方に不満を持っていたプロテスタント派貴族らが次々と寝返りはじめてしまう。議会も「メアリーこそが正当な女王」と発表し、情勢を静観していたエリザベスもメアリー支持を表明した。こうして流れがメアリー側へ傾いていき、あっという間に形成が逆転する。カトリック派や反ダドリー派貴族がメアリーのもとに集結し、彼女は軍勢を率いてロンドンへ進軍。対するダドリーもメアリーを迎え撃つため、自ら軍隊を率いてロンドンを発った。
夕食の時間に大広間に現れたのは、ギルフォードだけだった。それぞれの母もすでに塔から脱出していた。2人が黙々と食事をしていると、厳しい顔つきをしたジェーンの父ヘンリーが広間に入ってきて、彼女の紋章が刺繍された玉座の天蓋の布を引き剥がし、静かに伝えた。
「これは、もはやおまえのものではなくなった」
その瞬間、ジェーンの心は不思議と安堵感で満たされた。エドワード6世の崩御を知ったあの日から、ぐっすり眠ることさえできなかった日々がやっと終わったのだ。人生で最も長い「9日間」だった。

37歳で即位したメアリー1世。
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ロバート・ダドリーとエリザベス1世の恋 |
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