不況とエコ・ブームで人気再燃 GROW YOUR OWN!
英国 アロットメント・ガーデン事情

住宅地を歩いていると、突然ぽっかりと緑のスペースが現れ、人々が楽しげに畑仕事に精を出している様子を見かけることがある。
住宅街の一角といったサイズから広大なものまで、その規模はまちまちだが、これが「アロットメント・ガーデン」、いわゆる市民農園だ。
貧民救済策として誕生したというこの制度は、人々の生活が豊かになるにつれ、一部の園芸好きを除いて次第にその存在を忘れられていった。
しかし現在、このアロットメント・ガーデンが新たな注目を集めており、利用希望者が殺到、ウエイティング・リストは数年先まで一杯のところもあるというから驚きだ。
従来のガーデニング・ブームの範疇にはおさまらないこの現象の背景にあるのは何か。
今回は様々な側面から盛り上がりを見せる英国のアロットメント・ガーデン事情についてお送りする。
※Special Thanks: 今回の企画に際し、King's College LondonのRichard Wiltshire教授、ARI (Allotments Regeneration Initiative) のMentor(アロットメントに関し指導・助言をする人)を務めるJeff Barber氏、およびHaringey内Shepherds Hillアロットメントにて秘書を務めるBruno Dore氏に多大なご協力をいただきました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。
●サバイバー●取材・執筆・写真/根本 玲子・本誌編集部

市民農園は英国にその起源があるといわれる。エリザベス一世の治下の16世紀、英国では、農作物作りや家畜の飼育などのために使用されていた農民たちの土地が地主によって取り上げられ、毛織物生産のため牧羊地に変えられるという「囲い込み(第一次エンクロージャー)」が行われていた。その後、産業革命が進んだ18世紀半ばから19世紀にかけては、農業生産の向上を目的に新たな「囲い込み(第二次エンクロージャー)」政策が立法化され、領主や富農たちは小作農民の土地や村の共有地を私有地化し、さらに所有地面積を拡大。これによって近代的な大規模農業が始まったが、土地を失い賃金労働者となった農民の中には生活に困窮し、都市部に出て慣れない生活を強いられるものが増えていった。こうした人々への救済策として、一部の地主階級や聖職者がささやかな地代と引き換えに、農民が食料を収穫できるよう一定の広さの土地を小額で貸与(=allotment)した制度が、現在の「アロットメント・ガーデン」(通称「アロットメント」)の原型だ。
19世紀に入ると、初めてこの制度を法制化した「Allotment Act」(1887年)が誕生する。これにより耕地は法によって保護され、自治体は市民の要請にもとづきアロットメントを供給するよう定められる。
その後、第一次世界大戦の頃には、食糧難対策のためアロットメントの数は拡大していき、全国で約百五十万区画とピークを迎える。1920―30年代にかけ、その数は一時減少するものの、第二次世界大戦が勃発すると政府は、連合軍勝利のスローガン「Dig For Victory(勝利のために耕そう)」を掲げたキャンペーンを展開、ポスターや小冊子を発行して市民たちが自宅の庭やアロットメントを利用して食料を自給自足(「Grow Your Own」)するよう呼びかけ、アロットメントの数は再び全国で約140万区画まで増加する。
しかし戦後となり、世の中が安定するにつれ、アロットメントの数は下降線を描き始める。60年代の終わりには半数以下となり、70年代に入るとオイル・ショックによる社会不安や自然回帰を提唱したヒッピーカルチャーなどの動きによって多少の盛り返しをみせるものの依然落ち込みを続け、人々が消費に明け暮れた80年代には、すっかり忘れ去られた存在になってしまった。借り手がおらず空き地化したり、土地開発ブームの中で住宅地に姿を変えたりしたものも多かった。こうして90年代の終わりには全国のアロットメントの数はピーク時の六分の一以下まで減少してしまう。
このようにしてすっかり廃れた存在となっていたアロットメントが再注目され始めたのは、ここ数年のこと。
英国を震撼させたBSE(狂牛病)や遺伝子組み換え作物への懸念、最近では鳥インフルエンザや口蹄疫など、食の安全性に対する不安の高まりに伴い、グルメや健康ブームの名のもとオーガニック食材の人気が上昇してきた。また、こういった風潮を受けた「食べられるガーデニング」を紹介するテレビ番組や書籍の増加、そしてフードマイル(※)を減らし環境への負荷を軽減しようという運動への注目など、さまざまな異なる側面からアロットメントが再評価されるようになった。これまでは、どちらかというとライフスタイルの安定した「お年寄りのレクリエーション」というイメージのあったアロットメントが、野菜作りに興味のなかった人々も目を向けるエコ・トレンドとして関心を集めるようになったのだ。
また、世界的に食料価格が高騰したことに加え、昨年より米国から一気に世界中に広まった金融危機によって英国も不況に突入。もともとガーデニング文化が根付いていたお国柄も手伝って、一気にブームは加熱し、アロットメントはトレンドというだけでなく、「実益」を兼ねたレクリエーションとして見事なカムバックを果たした。
昨年発表されたデータによると、全国のアロットメント数は約33万区画、空きが出るのを待っているのは10万人に及ぶという。さらに2005年には、戦後初めて野菜の種の出荷が花の種を上回ったというデータもあり、アロットメントへの需要はより一層高まりを見せている。
ここに来て再び「Grow Your Own」という言葉が英国人にとって「DIY(Do It Yourself=専門家に任せず自分でやってみる)」と同じぐらい馴染みの深い言葉になっている。そう、「Grow Your Own」は独立心旺盛な英国人の DIY精神の現れといえるかもしれない。

※フードマイル…食料の生産地から消費地に至るまでの距離のこと。 食料政策を専門とする英国の消費者活動家ティム・ラング教授が1994年に提唱した言葉で、「食料品は地産地消(生産地と消費地が近いこと)が望ましい」という考え方に基づく。生産地と消費地が遠くなると輸送にかかるエネルギーがより多く必要になり、環境への負荷も大きくなるとされる。ちなみに食料の多くを輸入に頼っている日本では、国民ひとりあたりのフードマイルが世界一。
『アロットメントって何がいいの?』
園芸を楽しむだけじゃない、アロットメントを始めるメリットって?
お財布にいいスーパーマーケットのオーガニック食品人気もすっかり定着したが、割高で手を出しにくいのも事実。アロットメントがあれば、農薬などの心配の少ない旬の野菜が安価に手に入る。例えば人気のサラダ野菜「ワイルド・ロケット」は1~2食分の袋入りで2ポンド近くすることもあるが、自分で育てる分にはささやかな種代だけで、シーズン中ずっと収穫できてしまう。「自家用であること」が目的なので、収穫した作物を売買するのは原則として禁止されているが、慈善活動のためマーケットを開いて売るといった活動が許可されているところもある。
心と体にいい新鮮な屋外の空気に触れながらの畑仕事はよいエクササイズにもなる。「食べ物は手に入るし、いろんな人に会えるし、費用だって安いし、ジムで体を動かすよりずっといいよ」という人もいる。さらに、種から育てた作物や花を収穫するという「育てる楽しみ」も味わえる。庭のない都市部のフラットに暮らしていながら自分の『庭』を持てるのもよいところ。友人を招いてバーベキューだってできてしまうのだ。また、アロットメントで野菜作りする人たちのほとんどが化学薬品に頼らず、堆肥を使ったり、植物そのものの力を利用した害虫対策をとったりするなど、オーガニック農法を行っているのだとか。
環境にいい家庭の生ゴミや落ち葉は堆肥に利用、雨水は水やりのために貯水。廃材をリサイクルして用具置き場や畑の囲い、ベンチを作ったり…、普段は無駄になってしまう「ゴミ」も徹底的に有効利用できる。さらに自分が育てて収穫した食べ物を消費することで、フードマイルもカット。ほかにもアロットメントには住宅の過密集を防ぎ、大気汚染や騒音などを緩和するといった役割もあるという。町の緑化に一役かっているのはもちろんのことだ。
地域にいい同じアロットメントを共有することで、普段は親しくなる機会の少ない近隣住人と交流するチャンスが増える。都会に暮らす子供たちにとっては自然と接したり、食べ物がどのように作られるかについて学ぶ貴重な場所にもなる。お年寄りの生きがい作りや身体障害者のレクリエーション、学校の課外学習の場としても活用されている。ベテランに育て方のコツを教わったり、収穫を祝ったり、お隣さんと豊作のジャガイモと生みたての卵を物々交換したり…。地域社会の活性化にも役立っているのだ。
『アロットメントってどんなもの?& どうやって借りるの?』

アロットメントとは市民が自治体などから小額を支払って土地を借り、自家用に野菜や果物などを育てることのできる場所、またはそのシステムのこと。1区画の広さは平均250平方メートルぐらいだが、都市部では小さめのサイズ(10×15メートル四方ほど)で貸し出している場合も。野菜や果物、花の栽培のほかに、ニワトリなどの家畜や蜜蜂の飼育も可能だ。アロットメントを管理しているのは、各自治体(カウンシルなど)。自分の住んでいる自治体のアロットメントを借りるのが一般的だが、それ以外の自治体から借りることもできる。この国では外国人である我々日本人は原則としてレジデンツ・ビザ保持者である必要がある。各カウンシルのウェブサイトで、どこに区画があるか公開していることがほとんどだが、まずはカウンシルに連絡を取り、身近なアロットメントがあるか確認、あれば賃貸を申し込む。満杯の場合は、順番待ちのリストに登録して空きを待つことになるが、都市部など場所によっては順番が回ってくるまでに数年かかることもある。というのも英国のアロットメントの賃貸期間は特に決められておらず、極端にいえば借主が亡くなるまで半永久的に借りることができるからだ。賃貸料は月約20~100ポンドで通常1年単位で前払いする。広さ、賃貸料は管理する自治体によって異なっており、定年退職者や無職の人には賃貸料を低めに設定している場合もある。めでたく借りることができたら、シャベル、ジョウロといったの基本的な道具や種、肥料なども必要。区画によっては、事務所を兼ねたショップがあり道具類を販売するところもある。ただし、再利用を心がけたり、近隣の借主に助けてもらったりすることで、コストは最小限に抑えられる。賃貸契約書をよく読んで、基本的なルールを守り、近隣のアロットメント利用者の迷惑にならないよう心がけよう。
『借りる側のマナー』

まずは雑草を刈ったり、耕すなどして使用できる状態にすることが先決。それぞれの自治体によってルールは異なるが、きちんとケアしていないことが分かると返却を求められるケースもある。ゴミの処分なども責任をもって行おう。「又貸し」は基本的に禁止。共有の通路を侵食したり、水道などを塞いだり散らかしたりしないことも大切だ。ゴミの処理やバーベキューなどで火を使う場合は、安全に十分に注意し、火の始末にも気をつけよう。 害虫対策のための薬品散布については、区画によって制限がない場合もあるが、周辺で作業する人たちに一言断り、風向きや水回りにも配慮するのがマナー。害虫が好む花を畑のまわりに植えて作物を守るといった、薬品に頼らない方法もたくさんあるので、仲間に尋ねたり、本で研究したりしてみよう。
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アロットメント最前線
ベジ・ゲリラ参上!「食」で再生した町トッドモーデン

かつて紡績業や重工業で栄えたものの、戦後、工場の閉鎖とともに廃れていったヨークシャー西部の町トッドモーデン(Todmorden)。失業者や低所得者層を多く抱え、主立った雇用先も現れないまま若者たちが町を出て行くなど、過疎化も進んでいた。
この現状を何とかしようと立ち上がったのが住人のパム・ウォーハーストさん。人々が新鮮な食物を手に入れられるようにと友人のメアリー・クリアーさんと協力し、バス停の脇、ラウンドアバウトの緑地帯、駐車場の外れ、駅前の花壇など土地を見つけたらすかさず野菜や果物など食用になるものを植え、収穫を町の人々に提供するという「ゲリラ・ガーデニング」を開始。
公共の土地を無断でアロットメントとして利用するのは違法なのだが、2人を支持する人々は多く、協力者を募ったところ60人以上が集合、違法アロットメントは次々とその数を増やしていった。
このゲリラ・ガーデニング運動が地元紙に取り上げられたことで、今度は学校や病院が校庭や花壇をアロットメントとして提供するなど、町ぐるみの活動に発展。収穫された作物が学校給食に使われるようになったり、医療用のハーブを育てるアロットメントが誕生したりした。さらに「数百キロ離れた外国からやってきた卵より、地元でできた卵を消費するのが自然」と養鶏協同組合も設立。卵に関しては完全自給自足に踏み切った。
こうした流れの末、トッドモーデンにある1万5千世帯の公営住宅を管理する「Penny Housing」では、今後全ての住人に食料生産スペースを提供することを約束するに至った。
「Incredible Edible Todmorden」と名付けられたこの共同体プロジェクトにより、人々にスーパーマーケットよりも安価で新鮮な食料を提供できるだけでなく、失業者の多かった町に養鶏所職員やフード・マーケットの店主、ジャム製造人といった雇用枠も生み出すことにつながった。発起人のウォーハースさんたちは、近年「生活の安定したミドルクラスの趣味」というイメージのあったアロットメントを「低所得者層に新鮮な食べ物と職を提供し、町を活性化させる」という本来の救済策として役立てることに成功したのだ。
このプロジェクトではまた、若年層にジャンクフードが蔓延し、基本的な料理技術が忘れられつつあることを懸念し、子供向けの料理教室なども開催。2018年までに町の野菜をすべて自給自足するのが目標という。
www.incredible-edible-todmorden.co.uk/
ロンドン市長も賛同 五輪開催に向け「エコ都市・ロンドン」をアピール

ロンドン市長のボリス・ジョンソン=写真=は昨年11月、ロンドン開発局「London Development Agency」による食料自給プロジェクト「Capital Growth」に賛同。これにより、2012年に向けてロンドンにある空き地を2012区画分のアロットメントやコミュニティ・ガーデンに作り変える活動が、市内各地でスタートしている。市民が「ロンドン産」の食料を生産・消費することで食への意識を高め、フードマイルを減らして環境保護に貢献するほか、3年後の五輪開催に向け「エコ・コンシャス(エコ問題に関心の高い)な都市ロンドン」をアピールするのも狙いだ。犯罪の巣窟になりかねない荒廃した空き地を整備することで防犯効果も期待できるという。鉄道サービスの管理にあたる「Network Rail」では、すでにロンドン市内の鉄道駅周辺や線路脇の空きスペースをアロットメント用地として提供している。春頃から近隣住民の利用が可能になるほか、園芸療法を用いて、問題を抱える青少年の更生活動を行う自治体もあるという。また、運河に浮かぶボートを改造して「水上アロットメント」を作ろうという声もでている。これからのロンドンでは駅前やオフィス街など、思わぬところで野菜畑に遭遇することになりそうだ。 www.capitalgrowth.org/
「ナショナル・トラスト」がアロットメント用地を提供

不況の影響でアロットメント需要が空前の高まりを見せているものの、過去の土地開発などによってその数は激減し、実際にアロットメントを借りるまでに数年待ちは当たり前、自治体によっては空き待ちの応募自体を締め切るところも現れた。ヒュー・ファーンリー・ウィッティングストール(次頁参照)やモンティ・ドン=写真=を始めとする食料自給を訴える活動家、そして地域の代表は、こういった状況を改善すべく様々な運動を行ってきた。そして2009年の2月には歴史的建造物や景勝地の保護・管理を行う団体「ナショナル・トラスト」が、2012年までの3ヵ年計画で、現在未使用の土地をアロットメントやコミュニティ・ガーデンとして提供することを発表。民営としては英国最大の土地面積を所有する同団体の未使用地は広大なもの。使用可能な土地から生産できる食料はレタスなら260万個分、じゃがいもなら5万袋分に相当するというから、英国人の食生活を変えてしまうほどの影響力がありそうだ。また同団体では今年、環境に配慮したサステイナブル(持続可能な)・コミュニティ作りの一環として「Food Glorious Food」 キャンペーンもスタートした。より多くの人が地元で採れた新鮮な食べ物の美味しさ、素晴らしさを楽しめるよう、様々なワークショップやマーケットといったイベントを開催している。 www.nationaltrust.org.uk/main/w-global/w-news/w-latest_news/w-news-growing_spaces.htm
メディアに見る
アロットメント・ブームのキーパーソンたち
現在のアロットメント熱の高まりは経済・環境関連のニュースからグルメ番組、料理番組まで、様々な分野でのメディアの影響に負うところが大きい。ここでは人気シリーズに出演し「ベジ栽培ブーム」を起こした4人のテレビ・プレゼンターを紹介する
ガーデニングの本場といえば英国。かつては広大な土地を所有するお金持ちの「造園」といったイメージがあったが、60年代の終わりからBBCでガーデニング番組「Gardeners' World」の放送が始まったことで、ぐっと一般的になった。園芸関連のTV・ラジオ番組や書籍が人気となり専門店も続々とオープン、自宅に庭がある人はもちろんのこと、庭なしのフラット住まいの人でも窓際に植木鉢を置くなど、ガーデニングを気楽に楽しむ人が増加した。現在も続くこの長寿番組の司会を2003年から2008年まで担当したガーデニング専門家モンティ・ドン(前頁参照)は、育て方のコツを紹介するだけでなく、生態系に配慮した薬品不使用のオーガニック・ガーデニングを推奨するほか、野菜作りの素晴らしさをアピール。ガーデニング・ファンが手を出す植物といえば花や樹木といった観賞用が多く、食用ではせいぜいハーブ程度だったところに「野菜」が仲間入りするきっかけを作った。また、園芸を通して町おこしや慈善活動を行うなど、既存の園芸家とはひと味ちがった活動も展開している点もユニーク。

同番組出身のキャロル・クライン=写真=もベジ・ガーデニングを推奨する1人。「Gardeners' World」の野菜版として誕生したBBC2のシリーズ「Grow Your Own Veg」では案内役をつとめ、季節の野菜を育てるコツを紹介している。

そして、これまで園芸に興味がなかった人々がアロットメントに注目し始めたのは、セレブ・シェフによるグルメ番組の影響によるところが大きい。TVシリーズを通して無職の若者たちをシェフとして養成したり、学校と自治体を巻き込み公立小学校の給食を健康的かつおいしく改善する「食育」 に取り組んだりと、アイドル・シェフから社会派シェフへと変身したジェイミー・オリバーはその最たる人。2007年にスタートした「Jamie at Home」=同中=では毎回エセックスの自宅から、庭で栽培した有機野菜やハーブを使ったヘルシーで洒落た家庭料理のレシピを紹介。ガーデニングに興味を持たなかった若い世代に、グルメの観点から「ベジ栽培」をアピールすることに成功し、レシピ本の売れ行きも上々だ。

そしてシェフであり、食のジャーナリストであるヒュー・ファーンリー=ウィッティングストールは、自然豊かなドーセットを舞台にしたユニークなグルメ番組「リバー・コテージ」シリーズ=同下=で、庭でとれた野菜や果物、家畜、釣りで得た魚などをキッチンに持ち込んで伝統的かつ独創的な料理の数々を紹介。自給自足に近い生活を送り、時には雑草や車にはねられた動物まで料理してしまうチャレンジ精神旺盛な彼は、番組開始当時の99年から「Grow Your Own」の重要さを主張。現在はこのシリーズを通し、大量生産・消費される食料品の質の見直しや、都市部で暮らす人々の食料自給&地域活性プロジェクトを推進するなど、英国全土に「倫理的で質の高い食生活」を広めるべく奮闘中。アロットメントの慢性的な不足を解消するためChannel 4と共同で立ち上げた、利用可能な土地情報をインターネット上で交換する初の全国的プロジェクト「Landshare」も始動した。(ランドシェアの詳細についてはwww.landshare.net/を参照のこと)。
ガーデニングの教科書

「いざ野菜作りを!」と思い立っても、基本の土おこしや種まきの方法、水やりのコツや堆肥の作り方まで初心者には分からないコトだらけ。思ったようにいかずガッカリしないためにも、スタート前に予備知識をつけておくことが望ましい。本書はゼロからスタートする初心者にも分かりやすく手順や作業のコツを紹介、経験者にとってもためになるアドバイスが満載されている、ベジ・ガーデニングの教科書的な1冊。5月はアレ、6月はコレを忘れずにと、時期によって押さえておくべきポイントが挙げられているのも心強い。
英国・ヨーロッパ・日本のアロットメント事情
市民農園の成り立ちやルールは国によって様々。英国の「アロットメント」は住宅地に点在し「家庭菜園」として機能しているのが特徴だ。ロンドンの場合、移民によるコミュニティが各エリアに散在しており、ポルトガルやベトナムなど農業国から来た移民の多い地区ではアロットメントの利用も盛んであるなど、地域住民の民族性が反映されているのも興味深い。一方、日本の市民農園は、都市部にあるものは英国と似た使われ方をしているが、週末などに農村に出かけ、そこで日帰りまたは泊まりがけで農業体験を楽しむという、イベント・交流型の郊外市民農園も人気がある。
ドイツの市民農園は、子供たちの遊び場機能も兼ねているため、野菜や果樹だけでなく、花や芝生を植えた庭的利用がなされている。一区画の面積は英国のものより広く、 簡易キッチンと休憩施設を備えた小屋が建てられていることが多い。一般市民に開放された共有部分があるのも特徴だ。
オーストリアでは区画利用に関する制限が少なく、一区画に建ててもよい小屋の面積も広いため、畑としての利用は非常に少なく住居化しているところが多いとのこと。そしてオランダの市民農園は、花の輸出国らしく季節の花で埋め尽くされたものが多く華やかだという。
国によって様々な特徴があるが、ヨーロッパの市民農園に共通しているのは各地区の運営は利用者団体に任されていること。日本では通常、主催者が一括して管理・運営を行う。
ロンドン アロットメント分布図
(33カウンシル分・データは2006年当時のもの)

ロンドン市内のアロットメントの数は合計737地帯(データは2006年当時のもの)。中心地のシティやケンジントン&チェルシー、ウエストミンスターにはアロットメントは存在しない。中心地から離れ、土地面積に比較的余裕のあるテムズ川沿いの住宅地や郊外に向かうに従って数が増えていく。
週刊ジャーニー No.573(2009年5月7日)掲載