2010年6月3日 No.628

●サバイバー●取材・執筆/本誌編集部

 
一瞬の判断が明暗を分ける
ロンドン犯罪事情


紀元前13世紀頃に活躍したとされる、預言者モーセ。
彼に従う人々に対し、神から授かったとする「十戒」を告げたことでも広く知られる。
その中に次の戒めがある。

You shall not steal. 汝、盗むことなかれ

古代より、人は盗みを働く生き物だったことを示す。
それは3000年以上たった今でも変わらないというわけだ。
「十戒」に代わる、様々な法律で盗みを罰し、
思いとどまらせようとするものの、効き目はない。
盗みを働く者が狙うのはあなたの所有物だけではなく、
時にはあなた自身という財産である。
今号では、体験談をまじえながら、被害事例をお届けする。
同じような状況に直面した時、とっさの判断で被害にあうことを避けられるよう
少しでも役に立てば幸いに思う。

 

狙われているのは… あなたの所有財産

 

件数ではダントツ! の置き引き系犯罪
 統計内のバッグの置き引きに注目すると、ウェストミンスターにおける、今年第1四半期の1ヵ月あたりの被害件数は平均183件。日本人在住者のそれは平均10.4件で、単純計算するとウェストミンスターで起きるバッグの置き引きの6%は日本在住者、つまり被害者は日本人観光客だったことが分かる。20件に1件以上という高い率だ。世界中から観光客が押し寄せるロンドンにあって、一国の占める割合としてはきわめて高いといわざるを得ない。
 ウェストエンドでは、海外旅行が一般人にも解禁となった中国からの旅行者が羽振りの良さをみせつけ、ブランドものを熱心に買う国民といえば中国人、とかつての日本人のお株を奪う勢いという。しかし、こと置き引き犯罪に関しては、まだまだ日本人は狙われやすいターゲットの上位に間違いなく挙げられる存在だ。悪く言えば、カモがネギをしょってやってくる=この上なく都合の良い相手、つまり「カモネギ」と思われているのだ。
 強盗やひったくりを働く場合、返り討ちにあうなど、犯人自身に身体的被害がおよぶリスクが潜在的にある。これに対して、置き引き系の犯罪はそうしたリスクがかなり低く抑えられるため、犯人にも好まれ、強盗よりも件数が圧倒的に多い結果になる。メトロポリタン・ポリス(日本の「警視庁」にあたる。日本ではわかりやすいように「ロンドン警察」と呼ばれることもある)でウェストミンスター内の犯罪防止を職務とする「Crime Prevention」部門のオフィサー、ウィル・デイヴィス氏によると、置き引きおよびそれに類似する犯罪が多発する「ホット・スポット」がいくつかあるという。

ソーホーや中華街、劇場街などからなるウェストエンドをはじめ、ロンドン一の繁華街を擁するウェストミンスター地区。2009年12月から今年の4月末にかけて、同地区内の警察署に対して被害届けを出した、日本在住者(被害届け内の住所欄に日本の住所を記入した者)は85名。内訳は以下の通りだ。

バッグの置き引きなど --- 52件
スリ --- 26件
ひったくり --- 1件
金銭をだましとられた --- 5件
口頭・暴力行為による脅し --- 1件


ちなみに、ウェストミンスターで今年の1月から3月にかけて被害届けのあった事件のうち、殺人は4件、強姦事件はゼロ、空き巣狙い45件(オフィス4件/個人宅41件)、バッグの置き引きが550件などとなっている。