2012年2月9日 |
おすすめワイン産地めぐり⑲ スペイン・リオハを味わう旅 その3
伝統派 vs 革新派
ペインのワインの歴史は、他のヨーロッパ産ワインと比べてみても長いといえる。その近代化が急激に進み始めたのは、1986年にスペインが欧州連合(当時は「欧州諸共同体」と呼ばれていた)に加盟してからのこと。ブドウ栽培、ワイン醸造、ワイン関連の法制度など、あらゆる面で近代化が図られ、ワイン業界の現状を語るのが困難なほど、変化が著しい。その一方で、リオハの一部の名高いボデガ(ワイナリー)のようにどこまでも伝統を重んじ、昔ながらの手法を守り続けるところもある。こうした伝統派のリオハと、近代設備や技術を取り入れ、国際市場でも高い人気を得るに至っている革新派のリオハとの違いやそれぞれの個性について今号、そして来月の号(3月8日号)で説明することにしたい。
博物館の展示物レベルの古い道具を使うボデガ
Courtesy of Tondonia © Pepe Franco まずは、伝統派リオハの『横綱』としてロペス・デ・エレディアLez de Herediaを紹介しよう。
このボデガは、リオハでも最も古いとされる3ボデガのひとつで、19世紀半ば、リオハの老舗の集まるハロHaro村で創業した。自社所有の畑で栽培するブドウだけを使い、きわめて早い時期に確立された方法でワインを造りつつ、リオハのスター的地位を守り続けているというユニークなボデガだ。まず、このワイナリーの醸造所に入って驚くのは、ずらりと並んだ、とてつもなく古くて大きな木製の樽。130年前に造られたものもあり、それらもまだ立派に使われている。
ここで用いられるのは古樽のみでステンレス製タンクなど、その影すら見当たらない。また、博物館に展示されているような古い道具も使われている。赤ワインも白ワインも造られるが、驚くべきことに、赤も白も醸造法が同じという。通常、白ワインを造るには、収穫したブドウを破砕し、圧搾して果皮や種を除いてブドウ果汁のみを発酵させる。一方、赤ワインを造るには、色やタンニンを抽出するために、収穫したブドウを破砕し、果皮や種をブドウ果汁と一緒にしたままで発酵させ、発酵後に圧搾して、ワインから果皮と種を取り除いている。しかし、ここでは、白ワインを造るのに赤ワインのように、果皮や種をブドウ果汁と一緒にしたままで発酵させるのみならず、前年に剪定した、つまり不必要となったブドウの枝も入れて発酵させている。そうすることによって、発酵後、樽の下部の穴からワインを流出させる際の目詰まりを防止できるだけでなく、ワイン中にブドウの枝から出るタンニンが加わる。ここの白ワインはビウラ種から造られているが、この品種は酸味が高い。この高い酸味と、枝から出たタンニンによって、白ワインでありながら熟成寿命が非常に長くなり、その長い熟成期間中に古酒独特の絶妙な風味が醸し出されるのである。
このボデガには常勤の樽職人がおり、古樽を繰り返し修理しては長い間使う。また、修理するだけでなく、みずからも樽を製造。その際にはアメリカから輸入したオークの板木を数年間、外で雨風にさらし、オークの『風味』を取り除いてから使っている。
クモの巣に守られたワイン
このボデガ所有の裏山の地下に掘られた迷路のように長い地下道には、瓶詰めされたワインが延々と並べられている。積み重ねられたのが遠い昔であることを物語る、クモの巣のために壁のようにしか見えなくなっているボトルの山(もちろん、どのボトルにもワインが入っている)=写真上=もある。その暗い地下道を歩いていると、時折り、クモの巣で行く手が見えなくなったりするが、オーナー曰く、「クモはワイン・ボトルのコルクを痛める害虫を食べてくれるので大切にしている」とのことだった。
ここで造られるワインには、ヴィーニャ・トンドニアVina Tondonia(赤、白、ロゼ)、ヴィーニャ・ボスコニアVina Bosconia(赤と白)、ヴィーニャ・クビヨVina Cubillo(赤)、ヴィーニャ・グラボニア Vina Gravonia(白)がある。さらに、樹齢40~50年という古樹のブドウから造られ、何十年間もアメリカ産オーク古樽内、そして瓶内で熟成されたグラン・レセルヴァGran Reservaの白ワインは、花梨、蜜蝋、ワックス、アーモンドなどの独特な風味を呈すコクのある琥珀色の辛口ワインだ。英国では老舗のワイン取扱店「Berry Bros & Rudd」(www.bbr.com)で買い求めることができる。機会があればぜひお試しいただきたい。
ミヨコ・スティーブンソン Miyoko Stevenson |