
◆◆◆《第934回》◆◆◆
スウェーデンの総選挙
先月十三日、スウェーデン議会の選挙があった。スウェーデンは一院制で、選挙は公開名簿式比例代表制で行なわれる。比例代表制は多党乱立になりやすい。スウェーデンも複数の政党による連立政権が常態化している。
今回の選挙前まで政権を担当していたのは右派連合のクリステション首相(穏健党党首)である。右派連合は穏健党、キリスト民主党、自由党の三党による連立政権である。前回の総選挙で第二党になった極右のスウェーデン民主党(これ以降は民主党と呼ぶ)は連立に加わることが出来ず、閣外協力に甘んじて来た。スウェーデンには「極右政党は政権に入れない」という不文律があるからだ。
今回の選挙はその民主党の動向に注目が集まった。クリステンション首相が「右翼連合が勝利すれば民主党を連立政権に参加させる」という方針を示したからだ。極右の民主党が閣内に入ればスウェーデンのみならず、欧州の政治にとって重大な転換点となる。それだけに、選挙における国民の判断が注目された。
選挙戦で最大野党の社会民主労働党(中道左派)は、物価や住宅価格の高騰を取り上げて政府を批判し、困窮世帯への支援や福祉の充実を訴えた。一方、右翼連合の中で最も支持率が高い極右の民主党は、「スウェーデンで働くのに十分な技術や言語能力を持っていない無職の外国人は国外に退去させよ」と排外的な主張を展開した。
スウェーデンは選挙の投票率が高いことで知られている。今回は前回より若干下がったが、それでも投票率は八〇・八%に達した。
この選挙は大接戦だった。投票翌日の十四日には「左翼連合が過半数を一議席上回る一七六議席を獲得した」という情報が流れたが、郵便による投票と海外在住者の投票が精査されておらず、正式な選挙結果の発表は翌日以降に持ち越された。まさに与党の右翼連合と野党の左翼連合が最後の一議席を争う熾烈な戦いとなった。
私はインターネットで情報を追っていたが、全ての開票結果が確定したのは十七日の午後一時過ぎだった。結局、社会民主労働党を中心とする左翼連合が僅差で与党の右翼連合に勝利した。前者の獲得議席は当初の情報通り一七六議席だった。これに対して、右翼連合の獲得議席は一七三議席だった。

注目の民主党の議席数は、前回より十一議席少ない六十二議席だった。同党の事前調査の支持率は全体で第二位だったが、実際の選挙では意外に伸びず、第三党に沈んだ。それが影響し、右翼連合は政権を明け渡すことになったのだ。その瞬間、極右の民主党が連立政権に参加する可能性は消滅した。おそらく他の国々の政府はほっと胸を撫でおろしたことだろう。
実はスウェーデンの総選挙の一週間前に、ドイツのザクセン・アンハルト州議会でも選挙が行なわれた。その結果、極右のAfD(ドイツのための選択肢)が比較第一党に躍進し、州政府の連立政権樹立を目指して他党と協議することになった。それについては先週、本欄で述べた通りである。同じ極右政党だが、ドイツとスウェーデンで明暗が分かれた。
スウェーデンの場合、ロシアとの関係が影響したと思われる。欧州各国の極右政党はどこも親ロシアである。それはイギリスのリフォームUKを見れば分かる。ロシアから距離的に近いスウェーデンは一昨年、二百年続いた中立・非同盟の国是を棄て、NATOに加盟した。ウクライナに侵攻したロシアの脅威を肌で感じ、急いで軍事同盟に加わったのである。
それに加えて先月、スウェーデンの非政府組織の雑誌「エクスポ」は、「極右の民主党員であるポリーナ・マラベリ氏は十年間にわたり、ロシアが資金を提供する団体と関係を持ち、ロシア寄りの主張を広めて来た」と報じた。報道の時点で民主党は閣外ながら政権に関わっており、この記事は国民を不安に陥れた。おそらくこのことが民主党の人気にブレーキをかけ、同党が議席を減らす原因になったのだろう。スウェーデンの場合、親ロシアの極右政党を警戒する国民が欧州の他の国々より多いということだ。
経済格差が広がっている今、排外主義を唱える極右政党はどの国でも勢力を増している。日英両国も例外ではない。ドイツのAfDはどこまで支持を伸ばすのか。来年、フランスの大統領選挙に国民連合は勝利するのか。そこにロシアがどう絡んで来るのか。これからも目の離せない展開が続く。
週刊ジャーニー No.1464(2026年10月1日)掲載
在英三十年のエッセイスト。商社や銀行勤務を経て、現在は執筆に専念。酒、旅、そして何より犬を愛する。










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