ワインにまつわる今月のトピック:日本のワイン事情 その1

戦国時代に日本に初上陸したワイン

近年、著しい発展をとげている日本のワイン造り。その日本のワイン事情についてお届けすることにしたい。ワインが日本に持ち込まれたのは戦国時代のこと。宣教師フランシスコ・ザビエルが薩摩の島津貴久に、洗礼のために飲むワインを献上したのが1549年。しかし、実際に本格的なワイン造りが始まったのは、明治時代。すでに生食用のぶどう栽培が盛んだった山梨県で、山田宥教(ひろのり)と詫間憲久(たくま のりひさ)の2人が、ワインの醸造法が書かれた書物や外国人から学んだ知識を元にワイン醸造を試みた。これが日本のワイン造りの始まりだった。

ふたたび注目されているワインの効能

日本のワイン消費数量は過去10年間で約1.5倍に拡大し、2021年の日本のワイン市場規模は103億米ドルで、世界における日本のワイン市場は第23位。日本のすべてのアルコール飲料消費量のうち、ワイン消費量は3.8%とまだ少ないが、2022年から30年にかけて6.7%の年平均成長率が見込まれている。この成長を促している要因のひとつがワイン中に含まれるポリフェノール。食事で接取した糖分が体内のたんぱく質と結びついて糖化が起き、その糖化により悪玉物質が血液中に蓄積され、結果的に老化、さらには認知症、脳卒中、心臓病、癌などを引き起こす可能性があるが、ポリフェノールにはその糖化を防ぐ効果があるということから、1980年頃より脚光を浴びるようになった。このポリフェノールの効果が、エイジングケアへの関心の高まりのおかげで再び注目されている。

家飲みスタイルの定着

消費スタイルにも変化が見えてきている。ロックダウン以前は、レストランや居酒屋といったオン・トレードの消費が主だったが、ロックダウン以後はオフ・トレード、つまり、外で買って家で飲む割合が増えた。消費する輸入ワインも、依然はフランス、イタリア、オーストラリア産が主流だったが、ロックダウンからはニュー・ワールドからのワインが市場の39.5%を占めるようになった。特にチリからの輸入が増加しているという。数量ベース(2021年)で見ると、メルシャン、サントリーホールディングス、E.&J.ガロワイナリーの3社が市場を圧倒。メルシャン、カルロ・ロッシ、フロンテラがトップ3ブランドとなっている。なお、飲まれているワインは依然赤ワインが多い。

国産のブドウのみを使ったワインの増産

さて、ワイン消費量の増加と共に、国内での日本ワイン造りも活発化。国税庁「国内製造ワインの概況」(2018年度調査分)によると、日本におけるワイン総生産量は約8万2千キロリットルで、日本ワインの生産量は約1万7千キロリットルとのこと。ここで補足説明すると、ワイン総生産量は「国内製造ワイン」と「日本ワイン」を合わせたもの。「国内製造ワイン」にはブドウ以外から造られるフルーツワインや、海外から輸入した濃縮ブドウ果汁などを使用し国内で製造されたワインも含まれ、一方の「日本ワイン」は、国産のブドウのみを原料とし、日本国内で製造されたワインのことを指す。現状では、「日本ワイン」は、ワイン総生産量の5分の1にも満たない(とはいうものの、2014年からの5年間で約6%増えた)。

約10年で倍増した日本のワイナリー

「日本ワイン」を造る、白ブドウ=長野県塩尻市。

ワイナリー数は順調に伸びていて、2016年(2015年度調査)には261だったものが、国税庁発表の数字を見ると、2024年1月1日の時点で、日本全国で493を数える。ワイン用ブドウの生産地については、日本では北海道から九州まで、各地でぶどうが栽培されており、山梨県(89ワイナリー)、長野県(75ワイナリー)、北海道(64ワイナリー)の3地域で全体の約半数を占め、他に山形県、岩手県、茨木県、新潟県、福島県、千葉県、東京都、静岡県でも造られている。ちなみに、白ワインの占める割合が約51%、赤ワインが38%、スパークリング・ワインが5%となっている。
日本のワイン造りの歴史は140年余りと浅いものの、土地ごとの多様性を活かしたワインが数多く造られている。次号からは、個性あふれる銘醸地を目指す、日本国内のワイン生産地について説明しよう。

週刊ジャーニー No.1388(2025年4月10日)掲載

ミヨコ・スティーブンソン Miyoko Stevenson

WSETディプロマ取得。Circle of Wine Writers会員。Chevalier du Tastevin(利き酒騎士)団員。Jurade de St-Emilion団員。Ordre des Coteaux de Champagne団員。国際日本酒利き酒師。The Guild of Freemen of the City of London会員。ワイン関連の訳書・著書あり。

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