
ワインにまつわる今月のトピック:シャンパーニュの話 その3
星を飲んでいるとドン・ペリニョンに叫ばせたワイン
17世紀末期のこと。フランスのシャンパーニュ地方エペルネ村の近くにあるオーヴィレール寺院で、泡立つワインを口にしたドン・ペリニョンは、仲間の修道僧らに向かって、こう叫んだという。「みんな、すぐここに来てくれ! 私は今、星を飲んでいるんだよ!」。口の中でピチピチと跳ね、キラキラ光り、きれいな泡が立ち昇る――泡立つスパークリング・ワインほど、誰をも幸せな気分にさせてくれるワインが他にあるだろうか。
開栓時の心地よい音と泡の秘密

ボトルをあけると心地よくポンと響く音と、スパークリング・ワインならではの泡だが、その正体は二酸化炭素だ。シャンパーニュを例にとると、ヘッドスペース(コルクとワイン間の空間)は、微量の酸素と二酸化炭素で約6気圧ある(これは、ダブル・デッカーのバスのタイヤ内の圧力と同じ)。コルクで閉じられることで、その圧力がボトル内の液体、つまり、シャンパーニュ中の二酸化炭素による圧力と均衡がとれる状態に保たれている。シャンパーニュの栓を抜くと、ヘッドスペースにあった気体のガス圧が突然下がってこの均衡が崩れる。そうすると、外気圧と均衡をとるべく、シャンパーニュ中に溶け込んでいた二酸化炭素が飛び出すわけだが、グラスに注ぐと、グラス内に付着していた埃がシャンパーニュに混ざり、その埃を核にして二酸化炭素が集まり、ある程度の大きさの泡になると、外気に向かって立ち昇るという仕組み。シャンパーニュの温度が低いと、二酸化炭素のこの反応がおとなしい。従って、シャンパーニュに限らず、どのスパークリング・ワインでも、泡を長く楽しむには、少なくても飲む3時間前には冷蔵庫に入れて冷やそう。また、一旦冷蔵庫に入れたシャンパーニュは、未開封でも1週間以内に飲むようにしたいもの。冷蔵庫内は乾燥しているため、冷蔵庫内で保管しているあいだにシャンパーニュを封じているコルク栓が縮み、空気を通すようになり劣化が進むのでご注意を。
泡を堪能するためのグラス

さて、シャンパーニュを味わうにあたり、背が高く細いフルート・グラスと呼ばれるグラスを選ぶのが一般的だが、パーティーなどの席では、広口で浅底のクープ・グラス=写真右=が使われることが多かった。このクープ・グラス、通説ではマリー・アントワネットの乳房から型をとって作ったと言われている。しかし、広口で浅型であるために香りが逃げやすく、また、泡が見えにくいばかりか泡が消えるのも早いことから、あまり使われなくなった。さらに最近、フランスのシャンパーニュ・ハウスでは、フルート・グラスよりも容量が大きく、グラスの底をとがらせているチューリップ型のグラスが使われるようになっている。尖っている底から立ち昇る泡が一連の小さな真珠のように見え、実に美しい。 今では、様々なシャンパーニュ用グラスが登場するようになったが、細長い深型のものが主流。シャンパーニュのきらめく泡を存分に楽しんでいただきたい。


週刊ジャーニー No.1384(2025年3月13日)掲載