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ワインにまつわる今月のトピック:シャトーヌフ・デュ・パプ

「教皇の新しいお城」のワイン

赤ワインがおいしい季節になった。家で友人やお客様を招待したり、レストランで接待したりする機会が多くなり始めるのもこの時期だろう。そこで今回は、そうした機会にお薦めしたい、決して失敗しない赤ワインをご紹介する。
赤ワインには、フルーティーなワイン、香味の表現が難しいほど長期熟成したワイン、早期に飲むワインや寝かせておかなければならないワインなどがあり、種類が多すぎて料理に合うワインを選ぶのが難しいと思ったとしても不思議ではない。そこで果実香味が芳醇で、森の下草のような熟成した風味もあり、常に飲み頃で、値段的にも手が届くという万能なワインをひとつ覚えておくと重宝する。それはシャトーヌフ・デュ・パプChâteauneuf-du-Papeだ。赤ワインを選ぶ際に迷ったら、このワインの名を思い出すといい。名前が長くて忘れそうだという人は、「パプ」=ポープとは教皇のこと、「ヌフ」とは新しい、「シャトー」はお城なので、「教皇の新しいお城」という意味だと理解すれば覚えやすい。

歴史的事件が生んだワイン

世界史で「バビロン捕囚」を習った人は多いことだろう。これは、紀元前6世紀にイラク南部のバビロニア地方に捕虜として移住させられたユダヤ人の歴史的事件だが、後にこれをなぞった事件が起き、ワインの歴史でも重要な意味を持つに至った。14世紀初め、フランス国王フィリップ4世が当時のローマ教皇を幽閉、一旦は幽閉から逃れたものの、1303年に憤死。その後、フランス人でボルドー司教だったクレメンス5世が教皇となり、1309年には教皇庁がバチカンから南フランスのアヴィニョンに移された。アヴィニョンには豪華な教皇庁が建てられ、1377年までの約70年間、7人のフランス人教皇がアヴニョンに住んだ。このことをユダヤ人のバビロン捕囚になぞらえて、「教皇のバビロン捕囚」とか、「教皇のアヴィニョン捕囚」と呼んでいる。

石だらけの河原で育つブドウ

アヴィニョンでの2代目の教皇ヨハネ22世は村の高台に要塞を築き、夏を過ごすための住まいとしたために、後にこの村がシャトーヌフ・デュ・パプと呼ばれるようになり、そこで作られるワインが、教皇のワインとして知られるようになった。この地域は、スイスを発し地中海に向かって流れるローヌ川渓谷が広がりを見せ、岩の多い荒れた低木地帯に砂地の土地を残している。シャトーヌフ・デュ・パプ村のブドウ畑には、熱を蓄えてブドウの成熟を助ける、大きめのすべすべした丸い石がゴロゴロと地表に露出している。もちろん、石を含まない畑も幾つかあるものの、有名な畑には必ずこの丸い石が露出していて、まるで石だらけの河原のような景色が広がり、そこにブドウが植えられているので非常に異様に映る。

毎年おいしいワインが造られる理由

Clos Saint Michel Châteauneuf-du-Pape(ウェイトローズにて25.99ポンドで購入できる)

シャトーヌフ・デュ・パプには多数のブドウ品種の使用が許可されている。グルナッシュGrenache種、サンソーCinsault種、ムールヴェードルMourvédre種、シラーSyrah種が主だが、13種類までの使用が許されている。気候の変動により、ブドウの出来は品種ごとに異なるが、このワインの場合には出来の良かった品種を多く使って、毎年おいしいワインを造ることができる。つまり、毎年、高いレベルの安定した味のワインが産出されるというわけだ。中には1本50ポンド以上する、長期熟成できる高価なものもあるが、通常、このワインは果実香味が芳醇で、タンニンに角がなく、酸味が過度でなく、ヴェルヴェットのような口当たりで大変おいしい。強いスパイスのような香りと力強いボディーがあり、アルコール度数が高いのも特徴。なお、ここでは、わずか(全体の約3%)に白ワインも作られているが、大半は赤である。ブドウ畑は3200ヘクタールあり、約320の生産者がいる。

誇りを示す紋章

このワインにはボトルにも特徴があり、1本ずつ、刻印が刻まれている。ローマ教皇のかぶる三重王冠の下に、交差する2本の鍵を組み合わせた紋章だ。この鍵は、聖ペトロがイエス・キリストから、「私はあなたに天の国の鍵を授ける」と言われたことに由来し、「Châteauneuf-du Pape Contrôlé」と刻まれている。三重冠と2本の交差する鍵は教皇のシンボルで、まさしく、教皇のワインであることを誇りとするシャトーヌフ・デュ・パプの生産者の気持ちが伝わってくる。
ところで、シャトーヌフ・デュ・パプとローヌ川を挟むと、そこには決して失敗しないロゼ・ワインの産地があることも追記しておこう。タヴェルTavelで、「タヴェル飲む?(食べる飲む?)」と、覚えやすい名前のワインだ。シャトーヌフ・デュ・パプが赤い肉料理にあうとすると、タヴェルは、肉料理だけでなく、ピザやパスタなど、そして、中華やタイといったエスニック料理にも合う。

週刊ジャーニー No.1368(2024年11月14日)掲載

ミヨコ・スティーブンソン Miyoko Stevenson

WSETディプロマ取得。Circle of Wine Writers会員。Chevalier du Tastevin(利き酒騎士)団員。Jurade de St-Emilion団員。Ordre des Coteaux de Champagne団員。国際日本酒利き酒師。The Guild of Freemen of the City of London会員。ワイン関連の訳書・著書あり。
www.miyokostevenson.co.uk
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