ワインにまつわる今月のトピック:様々なワイン栓について
年月を重ねてつくられる天然コルク
今月は、ワインボトルに欠かせない「栓」(キャップ)についてお届けしたい。もともとは、油で濡らした布でワインの保存壺の口を封じていた。天然コルクが採用されたのは17世紀のことで、長い間、天然コルク一択だったが、最近は合成コルク、圧搾コルク、スクリュー・キャップ、ガラス栓など、実に様々な栓が使われるようになっている。こうした新しいワイン栓の登場は、1980年代のワイン市場の拡大によるところが大きい。
天然コルクは、コルク樫という木の樹皮を剥ぎ、樹皮の内側にあるコルク組織を加工したもの。主要生産国はポルトガル(49.6%)、スペイン(30.5%)で、モロッコ(5.8%)、アルジェリア(4.9%)、チュニジア(3.5%)、イタリア(3.1%)、フランス(2.6%)と、コルク樫の生産地域は限られている。加えて、一旦木から樹皮を剥いでしまうと、同じ木から樹皮を剥ぐには何年も、時として何十年も待たなければならないので、その生産量も限られている。剥離した樹皮のコルク組織部分の厚みを利用して加工するので、厚みがあるほど長い上質コルクを作ることができるわけだが、コルク組織の厚いものを得るには更に年数がかかる。
市場拡大が招いたコルク不足
天然コルクの量産化が容易ではないことに加え、別の問題も抱えていた。コルク組織の加工過程で使われる漂白剤や消毒剤によって、コルクの木に含まれるフェノールとの化学反応でTCA(トリクロロアニソール)が発生し、ブショネ(ワイン汚染の一種)が起こるケースが多発していた。現在では、コルクの消毒や漂白の技術が改良され、ブショネを起こすコルクはほとんどなくなっているが、さらに1980年代のワイン業界の変化で天然コルク以外のワイン栓の開発が急務となる。カリフォルニア、オーストラリア、ニュージーランド、南アからの果実香味の鮮やかなワインが人気を博し、イマージング・ワールドと呼ばれる国々によるワイン市場の急速な拡大によって、生産の限られる天然コルクに頼ることができない事態となったためだ。
ワイン栓の重要な役割
どのような栓であれ、その役割はボトルを密閉すること。長く保存して熟成させるワインほど、密閉度の高い栓が必要となる。しかし、近年では瓶詰後1~2年以内に消費されるワインが多く、使いやすさと値段が大きく影響する。天然コルクは、その質にもよるが、一般的に生産コストが高い。コルクは伸縮性が非常に高く、圧縮して瓶に栓をすると、膨らむことで瓶との隙間を無くす。つまり、伸縮性がありながら水も気体もほとんど通さない、ワイン栓として申し分ない性質を有する。ただし、保存中は必ずコルクを濡らした状態、つまりボトルを横にしておかなければならない。また、何十年も経てば劣化してその機能が弱まるので、長期熟成用ワインほど、上質で長いコルクを使用している。上質な天然コルクでも、30年くらいが寿命と言われているので、劣化する前にリコルク(新しいコルク栓に取り替えること)が必要となる。
コルク不足解消の担い手たち
天然コルクの代わりとして開発されたものには次のようなものがある。
【合成コルク】プラスチック製。ゴムのような弾力はあるが密閉度は低い。早期消費用ワインに限って使われている。
【圧搾コルク】コルクの切れ端を細かく砕いて、それを成型して作られる。見た目はよくないが機能的には優れているので、高級ワインにも使われている。
【スクリュー・キャップ】密閉度はかなり高い。数十年という長期間を費やした実験結果によると、微量の酸素の透過があり、良質の天然コルクの方が密閉度が高いと発表されているが、瓶詰されてから数年で飲まれるワインに関してはスクリュー・キャップを勧めたい。ほとんど外気の影響を受けず、新鮮で鮮やかな果実香味を保存することができる。
【ガラス栓】ヴィノロックVinolockやヴィノシールVino-sealとも呼ばれる。生産コストは高いがスクリュー・キャップ並みの気密性があり、しかも高級感がある。
週刊ジャーニー No.1359(2024年9月12日)掲載