ワインにまつわる今月のトピック:スパークリング・ワインを使ったカクテル

パリで生まれたカクテル「ミモザ」

©Tangopaso

今回はスパークリング・ワインを使ったカクテルの話をお届けしたい。スパークリング・ワインを使った飲みやすいカクテルといえば、「ミモザMimosa」が一番有名だろう。ミモザ=写真右=は、黄色いふわふわとした小花を沢山咲かせる植物で、花言葉は「友情」「秘密の恋」など。この花に似た黄色いカクテルはパリのリッツ・ホテルのバーで生まれた。当時はシャンパーニュ・ア・ロランジュ Champagne à l’orangeの名で親しまれていたが、そのうちにミモザと呼ばれるようになった。よく冷やしたスパークリング・ワイン(シャンパーニュと同じ製法で造られたもの)に、同量のよく冷やしたオレンジ・ジュース(加糖なしの果汁100%のもの)をフルート型のシャンパーニュ・グラスに注ぎ、マドラーでかき混ぜるだけのシンプルなカクテルなので、家庭でも気軽に作ることができる。ミモザのように見た目に可愛らしく、爽やかなオレンジの風味が高く、アルコール度も6~8%なので食前酒として最適だ。なお、花言葉だけではなく、各カクテルにはカクテル言葉があり、ミモザのカクテル言葉は「真心」。

ロンドン生まれのバックス・フィズ

ミモザとほぼ同様のレシピで作るカクテルに「バックス・フィズBuck’s Fizz」がある。名前は英国のジェントルメンズ・クラブの一つ、ロンドン・バックス・クラブLondon Buck’s Clubに由来している。そのバーに集まるメンバーが周りを気にせず早くからアルコールを楽しめるようにと、バーマンMcGarryが気を利かせてオレンジ・ジュースに似せて作ったのが始まり(1921年)。英国では、バックス・フィズは、アルコール度が低いのでシャンパーニュの代わりとして結婚式でよく飲まれた。また、結婚式に出席したゲストたちの酔いざめにきくとして翌日のブランチにも出された。このカクテルはシャンパーニュ2に対して、オレンジ・ジュース1の割合で作られるため、ミモザより多少アルコール度が高く、シャンパーニュの風味もミモザより残る。こちらも同様に、よく冷やしたシャンパーニュ、オレンジ・ジュースも加糖なし果汁100%のものを使う。バックス・フィズのカクテル言葉は、「心はいつも貴方と(君と)」。なお、ミモザもバックス・フィズも生のオレンジを絞って作るとなおおいしい。

作ってみたいカクテル

スパークリング・ワインを使ったカクテルとして、有名なものを挙げておこう。
(1 tsp=1 teaspoonは約5 ml/1 dash=1 mlあるいは10滴ほど)

キール・ロワイヤルKir Royale
【材料】シャンパーニュ90 ml、クレーム・ド・カシス*15 ml
【作り方】フルート型シャンパーニュ・グラスにスパークリング・ワインを注ぎ、クレーム・ド・カシスを注いで軽く混ぜる。
クレーム・ド・カシスcrème de cassis…フランス・コート・ドール産のカシス(黒スグリ)を破砕してスピリッツを加え、その搾り滓を蒸留して熟成させたリキュール。
カシス・リキュールの代わりに、フランボワーズ(キイチゴ)のリキュールを使うと「キール・エンペリアルKir Imperial」、スロー・ジンを使うと「フォーティーセカンド・ストリート42nd Street」となる。
ベリーニBellini
【材料】スパークリング・ワイン(通常はイタリア産発泡性ワインのプロセッコ)適量、ピーチ・ネクター10 ml、グレナデン・シロップ** 1 tsp
【作り方】フルート型シャンパーニュ・グラスにピーチ・ネクター、グレナデン・シロップを入れ、軽く混ぜてから冷やしたスパークリング・ワインで満たす。
**グレナデン・シロップgrenadine syrup…ザクロの果汁と砂糖から作られたノン・ アルコールの赤いシロップ。
シャンパーニュ・カクテル Champagne Cocktail
【材料】シャンパン適量、角砂糖1個、アンゴスチュラ・ビターズ*** 1 tbs
【作り方】ソーサー型シャンパーニュ・グラス(浅い形のグラス)に角砂糖を入れ、アンゴスチュラ・ビターズを浸み込ませ、冷やしたシャンパーニュを注ぐ。
***アンゴスチュラ・ビターズAngostura bitters…ドイツ出身の軍医、シーガートが1824年、ベネズエラのアンゴスチュラにある英国陸軍病院で作った飲み物。ラムに、りんどうの根から取る苦味成分ジェンチアンなどを配合したもので、苦味が強い。今では、トリニダードで生産されている。
ブラック・ベルベットBlack Velvet
【材料】シャンパーニュ150 ml、ギネス・ビール 150 ml
【作り方】材料は両方ともよく冷やしておき、フルート型シャンパーニュ・グラスに同時に注ぐ。
1921年、ジェントルメンズ・クラブの一つ、Brooks’s Clubのバーテンダーが、プリンス・アルバートの喪に服し、黒い衣装を纏うヴィクトリア女王を象徴して作ったのが始め。シャンパーニュ好きだった女王も好んで飲まれたという。シャンパーニュの代わりにサイダーやペリーを使うと「プア・マンズ・ブラック・ベルベットPoor Man’s Black Velvet」と呼ばれる。


週刊ジャーニー No.1350(2024年7月11日)掲載

ミヨコ・スティーブンソン Miyoko Stevenson

WSETディプロマ取得。Circle of Wine Writers会員。Chevalier du Tastevin(利き酒騎士)団員。Jurade de St-Emilion団員。Ordre des Coteaux de Champagne団員。国際日本酒利き酒師。The Guild of Freemen of the City of London会員。ワイン関連の訳書・著書あり。
www.miyokostevenson.co.uk
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