ワインにまつわる今月のトピック:ウィンブルドンの季節に楽しむワイン
ここ40年ほどで一大進化をとげたロゼ・ワイン
少し気温があがり、ロゼ・ワインが飲みたくなる季節になってきた。筆者が英国に住み始めた40年ほど前は、ロゼ・ワインの種類が大変少なく、あっても半甘口だったことを思い出す。
ところが、1980年代後半になると様子が変わり始めた。オーストラリア、カリフォルニアといったニュー・ワールドからのリッチな赤ワインがヨーロッパで人気を博し、その影響で、ヨーロッパをはじめとするオールド・ワールドでも、果実香味が芳醇で色が濃く、また、アルコール度でもニュー・ワールド産に負けないリッチなワインを造り始めた。当時はまだ地球温暖化の影響も指摘されていなかったことから、赤ワインをリッチなものにするために通常の赤ワインの製造過程中に水分を除くことが考えられた。発酵中の赤ワインには果皮と果汁が混じっているのだが、発酵が始まった初期段階で幾らかの果汁を抽出するのだ。その抽出された液体は、ロゼ・ワインとして売られた。こうして造られたロゼ・ワインは、リッチな赤ワインを造るための副産物なので値段も手ごろ。果実香味がフレッシュで、赤ワインの持つ苦みもほとんどなく、魚料理、肉料理、サラダと料理の種類を選ばず、重い食事から軽い食事まで合わせやすいことがすぐに認められるようになった。そして、トレンドになっていたアジア系料理とも相性がよいとして、その人気はさらに上昇した。
美しい色のロゼ・ワインができるまで
ロゼ・ワインの造り方は次のように4つある。ただ、英国とEU圏内の市場では、④ の方法で造られたロゼ・ワイン(シャンパーニュを除く)を販売することは許されていない。
① 収穫した黒ブドウを破砕機にかけると、果皮に含まれる色素が果汁に混じったピンク色の液体が破砕機から自然に流下する。その果汁を使って発酵させると、最もデリケートな淡い色のロゼ・ワインとなる。
② 収穫した黒ブドウを破砕し、果皮からの色が果汁に十分にしみるまでそのまま置き、十分な色が出たら圧搾して果皮を除き果汁を発酵させる。
③ 赤ワインを造る時と同様に、収穫した黒ブドウを破砕して果汁と果皮を一緒に発酵させる。発酵が始まってから、望む色の濃さによって6~48時間後に果汁を抜き取って、この果汁だけを引き続き発酵させる。通常、果汁と果皮を接触させる時間が長くなるほど、ピンク色が濃くなる。
④ 白ワインに少量の赤ワインを加えて造る。
ウィンブルドンに彩を添えるロゼ
さて、7月1日からテニスのウィンブルドン選手権が始まる。ウィンブルドン選手権のオフィシャル・シャンパーニュはランソン・ロゼ・ブリュットLanson Le Rosé Brut=写真。このロゼ・シャンパーニュは、他の有名シャンパーニュのロゼよりも口当たりがやさしく、バランスのとれた甘さがウィンブルドン名物のフレッシュなイチゴにぴったりだ。ウィンブルドンでは、通常ケント産の旬のイチゴが売られるが、香味が強く程よい甘さで大変おいしく、ウィンブルドン選手権といえばイチゴというほどなじみ深い。ウィンブルドンの会場に行ったらぜひ試していただきたい。シャンパーニュのロゼは、既述のロゼ・ワインの作り方の ① ~③ と異なり、白ワインと赤ワインをブレンドして造られるものが多く、このワインもその一つ。その味わいは、ほんのりとした赤いベリー類にバラと柑橘類の風味があり、ミネラルの味わいも持つ。
ロゼ・シャンパーニュもいいが、食事とともに楽しむなら非発泡性ロゼ・ワインもお薦めだ。非発泡性ロゼ・ワインは、購入時に失敗することが大変少ない。フランスのロワール産ロゼ・ダンジューRosé d’Anjouやカリフォルニア産には若干甘口のものもあるものの、ほとんどは辛口でどんな料理にも合い、気軽に購入できる価格のものが少なくない。一般的にランチにもディナーにも合うので重宝するが、フランスのローヌ川流域産のロゼや、プロヴァンス産のロゼはアルコール度がやや高いので、特に夕食に向いている。いずれにしても必ず冷やしてからサーブすることをお忘れなく。
週刊ジャーニー No.1347(2024年6月20日)掲載