観光客としてであろうと、移住目的であろうと、まず訪れるに違いないロンドンの「名所」といえば、国会議事堂とその周辺。ビッグ・ベンの愛称で親しまれている時計塔(正確には「エリザベス・タワー」)の写真を撮ったあと、テムズ河に向かうと対岸に見えるのが大観覧車「ロンドン・アイ」だ。こちらも写真映えするので、ほぼ全ての人の携帯電話にデータとしておさまるのがお決まりだろう。

その大観覧車の向かって右手に美しい大型建造物がある。「カウンティ・ホール」で、もともとロンドン全体を統括する組織の庁舎として、1922年、時の国王ジョージ5世列席のもとにオープンした。今回、取材班が赴いたのは、このカウンティ・ホール内で1998年より営業するマリオット・ホテルの「ザ・ライブラリー」。ここでのアフタヌーンティーについて記す前に、カウンティ・ホールの歴史を駆け足で見ておきたい。

ロンドン・マリオット・ホテルはこのカウンティ・ホール内に241室を有する。「ザ・ライブラリー」からはビッグ・ベンを望むことができる。

「カウンティ」は地方行政の単位で、ロンドンのカウンティ・ホールは「ロンドン・カウンティ・カウンシル(LCC)」の庁舎として誕生。1911年に着工し、10年余りを経て主要部分が完成。その後、1936年から3年をかけて北側と南側にそれぞれ増築が行なわれたほか、1974年には「アイランド」と呼ばれる棟が追加された。ただし、アイランドは2006年に取り壊され、跡地にはパーク・プラザ・ウェストミンスター・ブリッジ・ホテルが建てられた。

6階建てカウンティ・ホールの主要部分のデザインを手がけたのはラルフ・ノット(Ralph Knott)。1878年、ロンドンのチェルシーで生まれたノットはシティ・オブ・ロンドン・スクールを卒業した後、建築を学び、エッチング(銅版画の作成)技術を修得。その腕をかわれて、バッキンガム宮殿の外観などを手がけた、アストン・ウェブ卿のもとで8年間働いた。当時の建築業界にあっては、デザイン案公募の際、完成図などをエッチングで提出することになっており、ノットのエッチングはウェブ卿が前述のバッキンガム宮殿や、ヴィクトリア&アルバート博物館などのデザイン・コンペで勝利を得るのに大きな役割を果たしたとされている。

1908年に独立し、E・ストーン・コリンズと共同で会社を設立したノットは、1909年、カウンティ・ホールのデザイン・コンペで優勝。若干29歳、無名に近いノットの快挙は大きな注目を集めたという。才能を認められ、他の複数のプロジェクトを並行して進める中、1928年、カウンティ・ホールの追加工事が始まった。ところが、ノットは翌年の29年、ロンドン南部のモートレークの自宅で急死。一説によると、度過の飲酒が原因だったともされている。大きなプロジェクトを複数かかえるノットが、プレッシャーと闘う毎日を送っていたことは想像にかたくない。

ケーキはひとり4種類。中央に横たわるのはビッグ・ベンの形を模したケーキでこれは2人で仲やよく分けて召し上がれ。すべて大ぶりで食べごたえあり。
この日のスコーンは、レーズン入り(ザラメがまぶしてある)と、奥に見えるスイートバジル入りの2種。クロテッドクリーム、イチゴジャムとともに、スイートバジル入りのスコーンにつけるためのレモンカードがサーブされていた。

ノットのデザインにより、今も美しい姿を見せるカウンティ・ホールだが、現在は行政組織の拠点としては機能していない。既述のLCCは後に「グレーター・ロンドン・カウンシル(GLC)」となり、保守党政府と激しく対立。マーガレット・サッチャー政権と、労働党のケン・リヴィングストン率いるGLCとの闘いは特に有名で、テムズ河をはさんで両者の攻防が繰り広げられた。1986年、サッチャー首相(当時)はついにGLCの解体に成功。しかし、それはカウンティ・ホールが本来の役割を取り上げられることを意味した。

大阪市の不動産会社、白山(しらやま)殖産が1993年にカウンティ・ホールを買収。同ホールは商業施設としての歩みを本格的に開始することになる。現在、テムズ河に面する部分には水族館「シーライフ・ロンドン・アクエリアム 」や、「ロンドン・ダンジョン」、「シュレック・アドベンチャー」、「パディントン・ベア・エクスペリエンス」といったアトラクションが並び、家族連れなどのグループ客、観光客でにぎわう。さらにマリオット・ホテル、プレミア・インが宿泊客を迎え、カウンティ・ホールの東側では複数のレストランが食事の場を提供している。

さて、取材班が訪れた「ザ・ライブラリー」に話を戻そう。

エドワーディアン・バロックと呼ばれる建築スタイルのカウンティ・ホール内は、重厚さと気品あふれる美を兼ね備えた造り。その一角にある「ザ・ライブラリー」は名前の通り、かつてGLCの図書室だった部屋で、並んでいる書籍もほぼGLC解体当時のままという。窓外にはテムズ河沿いの眺めがひろがり、贅沢な気持ちにさせてくれる。テムズ河沿いをそぞろ歩く大勢の人々の声や、ウェストミンスター・ブリッジの喧騒とは無縁の静かな空間でゆったりとアフタヌーンティーを味わえる希少な場所だ。

サンドイッチやキッシュなどのセイボリーから始まり、スコーン2種、そしてケーキ各種と伝統的なメニューからなり、ウェストエンドの有名ホテルのアフタヌーンティーがひとり90ポンドを軽く超える昨今にあって、70ポンドという価格はきわめて良心的。スタッフも丁寧かつフレンドリーなサービスを心がけてくれ、居心地も良い。ただ、日本人にとってはケーキ類がかなり甘い。どのケーキも手が込んでいてクオリティは高いだけに、もう少しだけ砂糖を減らしてくれれば…というのが正直な感想だった。

とはいえ、ビッグ・ベンを眺めながらアフタヌーンティーを楽しめるという立地の良さの前では、ケーキ類の甘さなど小さなこと。例えばここにサブライズで招待すれば、日本からの来客はいうまでもなく、ロンドン在住者にも喜んでもらえることだろう。ウェストミンスター界隈の観光と組み合わせて、アフタヌーンティーを食事代わりにするのもお薦めだ。一度足を運んでみてはいかがだろうか。

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Travel Information ※情報は2025年9月30日現在のもの。

The Llibrary, London Marriott Hotel County Hall
ザ・ライブラリー ロンドン・マリオット・ホテル カウンティ・ホール

London County Hall, Westminster Bridge Road, London SE1 7PB
Tel: 020 7902 5535
www.thelibraryatcountyhall.com/our-menus

■アフタヌーンティー 毎日12:00~17:00

■テーブルによっては、角度の関係で着席した状態ではビッグ・ベンを見ることができない場合もある。着席前に、できればビッグ・ベンの見えるテーブルにしてほしいとフロアスタッフに頼めば、願いを叶えてもらえるかも。

■紅茶、およびスコーンやケーキ類、サンドイッチ類は、基本的にお代わり自由。逆に、スコーンやケーキ類を食べ切ることができなかった場合、持ち帰ることができるので、フロアスタッフにその旨を伝えよう。持ち帰り用の袋も素敵。

■カウンティ・ホールの東側では、スパニッシュ・レストランのほか、次の日本食レストランが営業中。オープン時間の確認・ご予約はそれぞれのウェブサイトから。なお、入口はどの店もBelvedere Road沿いに面している。

1998年9月にオープンしたロンドン・マリオット・ホテル・カウンティ・ホールの正面玄関。6階にはスイミング・プールもあり。
入口はウェストミンスター・ブリッジ・ロードに面している。
カウンティ・ホールのデザインを手がけた、ロンドン出身の建築家ラルフ・ノットRalph Knott(1878~1929)。北アイルランドの議事堂があるストーモントの各部署が入るオフィスビルのデザインなど、大プロジェクトに携わる一方、自分が卒業したシティ・オブ・ロンドン・スクールの戦没者追悼パビリオンの建設時には無償でデザインを担当した。



週刊ジャーニー No.1413(2025年10月2日)掲載

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