徳川るり子の細腕感情記Ⅱ

何ゆえ、ロンドンでは交番を見かけませんの?


徳川るり子

愛するお父様へ

前文お許しくださいませ。

今年最後の3連休が終わり、年内も残すところ4ヵ月となりました。日の入りの時間もだんだんと早まっており、秋の足音が聞こえてまいります。しっかりと気を引き締め、残り少ない日々を有意義に過ごそうと思っている次第です。

さて本日も、英国と日本の違いにつきまして、ご報告させていただきますね。

バス停でバスを待っておりますと、時折見知らぬ初老の男性(おそらく物乞いの方でしょう)に「帰りの電車賃が足りないので、お金を貸してもらえませんか?」と話しかけられることがございます。ロンドンに来て間もない頃は断るのがはばかられ、1ポンド硬貨などを渡したこともあったのですが、あまりに強引でしつこい方に巡り会ってからは、「駅員さんや警察の方に事情を話されてはいかが?」とアドバイスして差し上げるようにしております。

ところが先日、いつもと同じようにアドバイスいたしましたら、本当に困っていらしたのか、それとも冗談だったのかはわかりかねますが、「警察署はどこにありますか?」と尋ね返されてしまったのです…! 日本ならば、駅前や繁華街の近くに必ず交番が建っておりますけれど、英国ではすぐに駆け込めるような交番を見かけたことがございません。わたくしは答えることができず、途方に暮れてしまいました…。英国人はいざという時、一体どうしているのでしょう? 気になりましたので、問い合わせてみることにいたしました。

メトロポリタン警察に電話をかけましたところ、緊急の場合は「999」番、そうでない場合は「101」番に電話をかけてほしいとのこと。現在いる場所からもっとも近い警察署(Police Station)を教えてくださるか(公式ウェブサイトでも調べられます)、巡回中の警官が現場に駆けつけてくださるそうです。

警察署を訪ねるのは少々敷居が高く感じられますので、日本の交番にあたる小さな施設はないのか尋ねますと、そうした場所はないとのお返事。ですが、かつては「ポリスボックス(Police Box)」がロンドンの至るところに設置されていたそうです! ポリスボックスとは公衆電話ボックスのような建物で、警官が常駐するための施設ではなく、巡回中の警官が警察署と連絡を取り合うための「専用電話ボックス」だったとか。ボックスの中に警察署直通の電話機があり、電話を使うとボックスの上に備え付けられた電灯も光るので、それを目にした警官が駆けつけることもできる仕組みだったようです。仲間の警官が来るまで、逮捕した罪人を閉じ込めておくこともあったとおっしゃっていました。現在は携帯電話やトランシーバーで連絡を取り合うので、ポリスボックスは廃止されてしまったそうですけれど、いまだにそのまま残されていたり、改修してお土産屋として使われていたりするとのことでした。

欧米では、警官が巡回して町の安全を守ることが主流であることを、今回学びました。確かに、ロンドンの街中で警官を見かける回数は、日本よりもずっと多い気がいたします。

それでは今日はこのへんで。お母様にもよろしくお伝えくださいませませ。

かしこ
平成29年8月28日 るり子


とくがわ・るりこ◆ 横浜生まれのお嬢様。名門聖エリザベス女学院卒。元華族出身の26歳。あまりに甘やかされ過ぎたため、きわめてワガママかつ勝気、しかも好奇心(ヤジ馬根性)旺盛。その性格の矯正を画する父君の命により渡英。在英2年11ヵ月。ホームステイをしながら英語学校に通学中。『細腕感情記』(平成6年3月~平成13年1月連載)の筆者・徳川きりこ嬢の姪。

週刊ジャーニー No.999(2017年8月31日)掲載