何ゆえ、英国のティーケーキは
いくつも種類がありますの?
愛するお父様へ
前文お許しくださいませ。
2月に入り、少しずつではございますけれど暖かくなってきたように感じ、心が浮き立ちます。一昨日は節分でしたが、山手のお屋敷で豆まきなどをなさったのでしょうか。節分は冬から春へと季節が移り変わる節目の日ですので、日本も英国も春はもう目前なのかもしれませんね。さて、本日もご報告したいことがあり、筆をとりました。
先日、友人のジュリア嬢と一緒に、マリルボンにある可愛らしいティールームで過ごしたときのことです。紅茶とともにケーキをいただこうとメニューを見ましたところ、「Cakes & Treats」の箇所に「ティーケーキ」と記されているのが目に入り、迷うことなくそれを注文いたしました。
わたくしはコーヒーショップ「コスタ」で販売されている甘いティーケーキが気に入っておりまして、時折無性に食べたくなってしまいます。ティーケーキとは、サクサクのビスケット生地の上にふわふわのマシュマロがのせられており、それらがチョコレートでコーティングされたドーム型のお菓子。組み合わせのイメージとしましては、日本のお菓子「エンゼルパイ」に少々似ているかもしれません(比較にならないほど、クリーム状のマシュマロが大量に入っておりますが…)。とくに、1890年に創業したスコットランドの焼き菓子店「Tunnock's(タンノックス)」が発売しているティーケーキは有名で、スーパーマーケットなどでもよく見かけます。
さて、ホームメードのティーケーキを口にすることができると楽しみにしていたのですが、テーブルに運ばれてきたのは…こんがりとトーストされたパン! バターとマーマレード、ストロベリーのジャムが添えられているものの、わたくしが想像していたティーケーキとは似ても似つかぬもの。慌てて店員さんに尋ねますと、「これがティーケーキですよ」とおっしゃるのです。一体どういうことなのでしょう? ティーケーキとは何種類もあるのでしょうか。納得できす、調べてみることにいたしました。
いくつか資料に目を通しました結果、かつてイングランドでティーケーキと言えば、「トーストされた丸く平たいパン」が一般的だったことがわかりました。レーズンなどのドライフルーツを練りこんだパンをこんがりと焦げ目がつくまでトーストし、たっぷりとバターやジャムを塗って、紅茶と一緒にいただくのだとか。ヨークシャーの一部やカンブリアなどの北イングランド地方では、昔はプレーンのロールパンに対し、こうしたパンを「フルーツケーキ」と呼んでいたそうで、紅茶とともに提供されることから「ティーケーキ」という呼び名が広がったのでは、と分析されておりました。
一方、わたくしの好きなドーム型のものは、タンノックス社の商品が発売されて以降、あまりにも人気を呼んで類似品が出回ったため、このような形状のお菓子をすべて「ティーケーキ」と呼ぶようになったようです。元祖のパンのティーケーキとは、まったく関係がないのだとか。両者を区別するため、現在は「Toasted Teacakes」「Chocolate Teacakes」などと分けて呼ぶことも多いとのことでした。
なぜタンノックス社はティーケーキなどと、混乱する名前をつけたのでしょうか…。今度問い合わせてみようと思います。それでは今日はこのへんで。お母様にもよろしくお伝えくださいませませ。
かしこ
平成29年2月5日 るり子