昨今の若者…英国史を誇りに思わず!? その2

■英国人の母とリビア人の父を持つ東ロンドン在住の中学校教師でイスラム教徒の作家、ナディーン・アスバリさんが、英国の子どもたちが新しい価値観を持ち始めていると話している。英国はもはやアングロサクソンの国とは呼べないようだ。
その1はこちら

私の生徒たちは英国が奴隷貿易や植民地主義、世界大戦で果たした役割について学ぶが、それは英国を世界の英雄として描くような教え方ではない。これは数十年前に私自身が学校で学んだことには全く欠けていた視点だ。私が教えている英語の授業でも今では、西洋の豊かな国の白人の声だけに価値があるとは教えていない。子どもたちは教室に入った瞬間から様々な世界の見方に触れる。それはプラスになる。

右派の人たちは私や他の教師たちを「ウォーク思想家(woke=人種的偏見と差別に対する警告)だ」とか「英国の子どもたちを自分の国に反対するよう先鋭化(radicalising)させている」と非難するかもしれない。しかしこの変化は学校教育だけの責任ではない。私が教えている若者たちは、これまで以上に外の世界と繋がっている。ソーシャルメディアのおかげで今日のティーンエイジャーはガザの紛争における英国の役割や、植民地主義の遺産など、英国の政策がリアルタイムで及ぼす影響を見ることができる。誤情報の危険は常に伴うが、ソーシャルメディアはこの世代が複雑な概念を学ぶための強力なツールとなっており、学校でも追いつけないほどの影響力を持っている。

私の教室でもヨーロッパ中心の美の基準や君主制の役割、民主主義について興味深いやりとりがあった。それらは全て生徒たちがオンラインで学んだことから来ている。


この世代が持つ「英国らしさ」とはこれまで以上に微妙なものであり、彼らは一部の人々が今も理想化している英国のイメージと、周囲の現実との間のニュアンスについて上手くバランスをとっている。私に言わせれば、国に対する誇りが少し後退することは、今までよりも、もっと自分たちが住んでいる世界の現実に気づいている世代を育てるための価値ある代償だと思う。しかしこれは過去の話だけではなく、現在のことでもある。周りに目を向けて欲しい。今の英国は本当に誇りに思えるものだろうか。今年の夏だけでも緊張に満ちた英国の姿が見え、ナショナリズムがどれだけ分裂を生み、危険な力になっているかが明るみに出た。今夏の暴動は、英国らしさという考え方が、ある一部の人たちによって捻じ曲げられ、分裂的で偏ったものになってしまったことを示した。白人以外の背景を持つ私たちにとって英国の愛国心は人種差別やイスラム恐怖症、暴力と切り離せないものになってしまった。

自分がホームと呼ぶこの国で差別やイスラム恐怖症を経験してきた私にとって、英国を誇りに思う気持ちを共有するのは難しい。若い世代が育っている今の英国は以前よりも暗く感じる。生徒たちのことを考えると彼らの人生はずっと緊縮財政やブレグジットのような孤立主義的政策、欺瞞に満ちた政治家、そして携帯電話をあけるたびに飛び込んでくる戦争の映像によって形成されている。英国らしさが植民地時代と繋がりのある大金持ちの家族の戴冠式や葬儀に莫大な予算を使う一方で、最も貧しい家庭の子どもたちに食べ物を与えることもできず、国境を閉じ、この国に安全を求めて逃れて来る人々を攻撃することを意味する時、それを誇りに思うのは難しい。英国の歴史に対する誇りが衰退しているのは陰謀でも危機でも「ウォーク思想」による洗脳のせいでもない。子どもたちがようやく現実の世界を理解し始めたという証なのだ。(中学校教師、イスラム教徒の作家ナディーン・アスバリ)By週刊ジャーニー (Japan Journals Ltd London)

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