ヘイワード・ギャラリーで開催中 塩田千春×イン・シウジェン

■日中を代表する現代アーティスト、尹秀珍と塩田千春のエキシビションが、サウスバンクのヘイワード・ギャラリーで同時開催されている。繊細さと大胆さを合わせ持つ2人のアーティストの作品を堪能できる贅沢な機会を逃すまいと、足を運んできた。

Yin Xiuzhen: Heart to Heart 尹秀珍:ハート・トゥ・ハート

Installation view of Yin Xiuzhen Heart to Heart. Photo Mark Blower. Courtesy of the Hayward Gallery.
尹秀珍(イン・シウジェン、1963~):北京出身。廃材や使い古されたテキスタイルなどを活用して、グローバル化する社会における記憶や個人の感情を表現するインスタレーションで知られている。

ギャラリーの下階に入ると、古布をつなぎ合わせた巨大な飛行機が頭上にぶら下がり、空港の荷物受け取り所を模したターンテーブルには、スーツケースの中に一針一針縫い込まれた都市のジオラマ、尹秀珍のシリーズ作品《Portable City》が並ぶ。作品に使用された洋服はその都市の住民から寄付されたもので、人々と都市の記憶や魂が込められているように感じられる。これは彼女の全ての作品に共通するテーマだ。

作品に使われたその土地土地で寄付された古着は、個々の記憶の痕跡を刻み込むと同時に、世界的な生産と輸出の主要拠点としての中国というストーリーを物語っているという。タグや言語、色や素材が効果的に配置されており、作者の純粋なる制作の喜びが感じ取られた。

本展は、30年以上にわたる制作活動を振り返り、代表作から新作まで、尹秀珍の制作の軌跡を紹介する、英国初の大規模回顧展だ。

北京の再開発現場などから集めた建物の廃材や古道具を使ったインスタレーション。経済成長を欲する都市の街角で、歴史と伝統が詰まった失われゆく故郷の断片たち。塵ひと粒にまで込められた作者の愛と悲哀、ジレンマを感じた。
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Chiharu Shiota: Threads of Life 塩田千春:スレッズ・オブ・ライフ

塩田千春(1972~):大阪出身で現在はベルリンを拠点に活動する。日常的なオブジェクトを巨大な糸の構造体で包み込むことで、記憶や意識の概念を再定義した没入型の作品は、一度体験したら忘れられない。

一方、上階は圧倒的な塩田ワールド。新作の大型彫刻やドローイング、初期のパフォーマンス映像、写真とともに、アーティストを象徴する代表作が展示されている。

フロア全体に床から天井まで張り巡らされた真っ赤な糸に無数の鍵がぶらさがった「Threads of Life」(写真上)、赤と対照的な黒の部屋「During Sleep」(写真下)では、まるで人と人をつなぐ見えない赤い糸の中に没入し、黒の寝室で夢と現実の狭間に身を置く――。そんな非現実的な感覚に陥った。

写真だとまるでCGのようにも見えるが、すべて実物の黒い糸が張り巡らされている。会期中、パフォーマーがベッドで寝る。人が寝た後には一人一人が違う痕跡を残し、そこにかつてのその人の存在を見出す。パフォーマンス開催日時:4月11日(土)、5月2日(土)、午前10時から午後1時まで。

2人のアーティストが紡いだ個々の記憶と想いが、鑑賞者の記憶と想いを掘り起こす――。そんな心を動かされるエキシビションだった。お見逃しなく。(文・ネイサン弘子)

5月3日(日)まで
Hayward Gallery

Southbank Centre, Belvedere Rd, SE1 8XX
チケット:£19
www.southbankcentre.co.uk


週刊ジャーニー No.1435(2026年3月12日)掲載

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