
本展には、1885年から1890年にかけて、ノルマンディーなどフランス北部の沿岸部を5度にわたり訪れた際に制作された油彩画、油彩習作、素描など26点が集結している。
パリにアトリエを構えつつ、夏になると都会の喧騒を逃れて地方の海へ向かったスーラ。「(パリの)アトリエで過ごした日々で曇った目を清め、明るい光をそのあらゆるニュアンスとともに、できる限り忠実に表現したい」と語った彼が描いた海辺に人の姿はほとんどない。ボートや漁船が並ぶ港の風景は、賑やかな朝が過ぎ去った閑散とした昼下がりに見える。好んで通っていたノルマンディーに観光客が増えてくると、より静かな北フランスに移動し、夏の海を描き続けた。
筆跡を見れば書いた人の心根や性格、精神状態が隠しきれず表れるという意味の「書は心画なり」という言葉があるが、スーラの絵には、静かな場所を好み、自身も寡黙で物静かであったという彼の性格が現れているかのようだ。きっと彼の創作風景もごく静かなものだったのだろう。筆につけた絵具をカンバスにひとつひとつ置いていく。かすかな筆の音だけが海風に紛れて聞こえる――そんな情景までもが、絵のこちら側に浮かび上がってくる。
遠ざかって見ても近寄って見ても、思わず心地よい感嘆のため息をあげずにいられないスーラの点描画。私の目にかけられた『点の魔法』が見せてくれたフランスの海辺の光をこの目で見たくなり、いつかノルマンディーの海辺巡りをしてみたいと夢想しつつ、その前に久しぶりにナショナル・ギャラリーにスーラの大作「アニエールの水浴」を見に行こうと思いながら会場を後にした。(文・ネイサン弘子)




Georges Seurat
ジョルジュ・スーラ

1859年12月2日、パリの裕福な家庭に生まれ、国立美術学校で正規の美術教育を受ける。物静かで秘密主義であったという彼の私生活についてはよく知られておらず、パートナーとの間に一子をもうけた直後、1891年3月29日、31歳の若さで亡くなる。死因はジフテリア感染症と考えられている。
Seurat and the Sea

2026年5月17日(日)まで
The Courtauld Gallery
Somerset House, Strand, WC2R 0RN
チケット代:£18
https://courtauld.ac.uk
週刊ジャーニー No.1433(2026年2月26日)掲載















