
「退廃的なファッション」と聞いて思い浮かぶのは、1960年代の反戦運動などから生まれたカウンターカルチャー(対抗文化)の象徴であるヒッピースタイル。既成の社会制度や価値観に抗い、企業文化や資本主義に背を向け、手作りや古着を愛したファッションである。近年では、森や自然、泥臭い世界観にインスピレーションを得た「ゴブリンコア」などの美学やサブカルチャーも想起されるだろう。本展は、『汚れ』や『退廃』が、いかに美の基準への挑戦として用いられてきたか、そしてなぜ今、再び若いデザイナーたちの作品に登場しているのかを探求している。
ここで出会えるのは、単なる奇抜なダメージファッションではない。プラスチックや生活用品などの廃棄物を素材に昇華させたドレス、メッセージ性豊かな学生たちの卒業制作、有名デザイナーによる『奇妙な美』をたたえる作品まで――「汚れと退廃」をテーマに、よくもここまで集めたと感嘆せずにはいられない、圧巻のラインアップだ。
また、本展の見どころの一つは、日本的な『侘び寂び』の美意識を感じさせる日本人デザイナーの存在だ。イッセイミヤケ、コムデギャルソン、ジュンヤワタナベ、ヨウジヤマモトなど、日本を代表する世界的ブランドの作品が、各所で際立った存在感を放っている。
締めくくりには、ファッションの可能性と未来を感じさせるアップサイクル・ファッションの数々、そして気鋭のデザイナー中里唯馬(YUIMA NAKAZATO)が、日本企業と協働し、再生素材を開発して科学的なアプローチで制作した美しいコレクションが展示されている。
退廃の中に宿るロマン、そして持続可能なファッションの未来。この展覧会は、ファッションを学ぶ学生たちにこそ、ぜひ足を運んでほしい。(文・ネイサン弘子)


合成素材と大量生産の既製服が誕生して以来、多くのデザイナーが、日用品を新たな作品へと再構築することで、ファッションの儚さや消費社会への批判を表現してきた。この展示室では、廃棄される日用品を取り入れたユニークなデザインの数々が紹介されている。(右:Paco Rabanne, Haute Couture Autumn/Winter 1992)家庭用素材をファッションへと転用した先駆者、スペイン系フランス人デザイナーのパコ・ラバンヌによる、ペットボトルをレイヤードしたトップ。
(左:Hodakova, Conventional Collection 112303, Autumn/Winter 2023)スプーンの光沢と造形美を生かした、大胆なデザイン。

ベルギー出身のデザイナー、マルタン・マルジェラが1988年にフランスで設立したファッションブランド「メゾン・マルジェラ」。日本の足袋から着想を得た、アイコニックなブーツも。

通常『恥』とされる衣服の偶発的な染みや汚れを、意図的にデザインに取り入れたファションを集めたコーナー。ペンキ、口紅、赤ワイン、焦げ跡、漂白剤などによる染みは、ブルジョワ階級の尊厳を象徴してきた『真っ白な生地』と鮮やかな対比をなしている(左、右:SR Studio L.A. C.A. by Sterling Ruby Apparitions, Haute Couture Spring/Summer 2021 Palais Galliera Musée de la Mode de la Ville de Paris)。米国人デザイナー、スターリング・ルビーの代表的な手法であるブリーチ、アシッドウォッシュ、ヒートプレス、ペイントといった手法が際立つ作品(中央:Rick Owens Mastodon Men’s Autumn/Winter 2016 OWENSCORP)。

サステナブル・ファッションの最前線で活躍する中里唯馬による、2023~25年にかけてのコレクション。2022年、ケニアの廃棄物処理場を訪れ、ファッション廃棄物が環境に及ぼす深刻な影響を目の当たりにした中里は帰国後、印刷会社エプソンと提携。廃棄衣料を原料にドライファイバーテクノロジー(DFT)を用いて新たなリサイクル生地を開発し、2023年に「INHERIT」コレクションを発表した。
Dirty Looks: Desire and Decay in Fashion

2026年1月25日(日)まで
Barbican Art Gallery
Barbican Centre, Silk Street, EC2Y 8DS
火水土日 :午前10時~午後6時
木・金 :午前10時~午後8時
祝 :正午~午後6時(月休)
チケット :一般 £20
www.barbican.org.uk
週刊ジャーニー No.1414(2025年10月9日)掲載















