
■数多くの西欧のアーティストたちに影響を与えた日本が誇る絵師、歌川広重(1797~1858)の魅力を存分に堪能できるエキシビションが大英博物館で開幕した。

現存する数少ない広重の肖像画。広重は1858年(安政5年)、コレラに感染し61歳で亡くなった。
文化的な変化の著しい江戸時代後期、幕末と呼ばれる激動の時代。江戸では商業や工業を営む町人たちが形成した独自の町人文化が花開き、歌舞伎や落語、浮世絵などの娯楽が盛んになる中、江戸の人々の日常や歌舞伎役者、江戸の名所を描いた「名所江戸百景」などを描いた人気絵師、広重。また、街道が整備され、旅が身近になりつつあったその頃、東海道の風景を描いた「東海道五十三次」は、旅行ブームに乗って大人気となった。
「開かれた道の画家」と題した本展には、まさに広重が町内を、江戸中を、東海道を歩いて目にし、魔法のように表現した生き生きと暮らす人々、桃源郷のような日本の原風景、あの時代にドローンでも操っていたのかと思わせるような大胆な構図で描かれた鳥瞰図、詩的な繊細さが感じられる花鳥画、旅情あふれる宿場町などの作品がずらりと並ぶ。広重の旅の足跡をたどるように展示された作品を見ていると、江戸時代に足を踏み入れたように感じたと同時に、この美しく平和に描かれた日本に強い憧れを抱いた。そして筆者と同じように、広重の描く世界や絵の技法に憧れ、影響を受けた西欧の画家たちの作品も、ギャラリーの最後の展示室に「広重の残響」として展示されている。是非、お見逃しなく。(文/ネイサン弘子)

Cherry Blossoms on a Moonless Night a long the Sumida River , 1847- 8 By Utagawa Hiroshige (1797 -1858) Colour-woodblock print triptych Gift from the collection of Alan Medaugh to the American Friends of the British Museum © Alan Medaugh. Photography by Matsuba Ryōko

大胆な構図と華やかな色彩が強いインパクトを与える人気作。オランダの画家ヴィンセント・ヴァン・ゴッホが模写したことても有名。エキシビションの出口にある特設ショップでは本作の木版画が販売されている。
The Plum Garden at Kameido from 100 Famous Views of Edo, 1857 By Utagawa Hiroshige (1797-1858) Colour-woodblock print Collection of Alan Medaugh © Alan Medaugh. Photography by Matsuba Ryōko


Hiroshige: artist of the open road


9月7日(日)まで
The British Museum
Great Russell Street, WC1B 3DG
チケット:一般£18~、16歳以下無料 (チケットを持つ大人同伴の場合)
www.britishmuseum.org
週刊ジャーニー No.1392(2025年5月8日)掲載