
© Victoria and Albert Museum, London

今展は歴史的価値のあるジュエリー、アイコニックな置き時計や腕時計など、350点を超える展示品を通して、高級ジュエリー・ブランド「カルティエ」のアート、デザイン、職人技の歴史と進化をたどるもの。今回初めて公開される貴重な逸品もある。
カルティエの歴史は1847年に始まる。ルイ=フランソワ・カルティエがパリのモントルゲイユ通り29番地に建つ、師匠アドルフ・ピカールのアトリエを継承し、「メゾン・カルティエ」を創業。経営を引き継いだ孫のルイ、ピエール、ジャックの3兄弟は、顧客との関係を築き上げるのに長けており、パリのファミリービジネスが世界的なジュエラーへと進化。パリ、ニューヨーク、ロンドンを中心に、世界の王族、貴族、著名人を顧客に持つ、「王の宝石商、宝石商の王」と称えられるまでの存在になった。
英国では1904年にエドワード7世によって、初めて公式の王室御用達に認定されている。特に英王室はカルティエと縁が深く、エリザベス2世は結婚祝いにもらった23.6カラットのウィリアムソン・ダイアモンドをもとに、1953年にブローチの制作を依頼。両親のジョージ6世夫妻、妹のマーガレット王女もカルティエの顧客だった。

右写真は、婚約指輪を着けたグレース・ケリー。Sunset BoulevardCorbis via Getty Images. Special Thanks to The Princess Grace Foundation-USA
王族や貴族ばかりではなく、カルティエはハリウッド俳優や人気ミュージシャンたちにも愛されている。なかでも最も有名なのが、米女優のグレース・ケリーだろう。モナコのレーニエ3世との結婚前、独身最後の出演作となった映画「上流社会」では、カルティエのダイヤモンドの婚約指輪を左手の薬指に着けて出演。この「伝説」の指輪は、会場で目にすることができる。また、カルティエ腕時計のコレクターとして知られる、ラッパー&音楽プロデューサーのタイラー・ザ・クリエイターが集めたヴィンテージ・ウォッチ(1987年)、キム・カーダシアン所有のタンク・ウォッチ(1962年/前所有者はジャクリーン・ケネディ)なども展示されている。



Rose clip brooch, Cartier London, 1938. Diamonds and platinum. Vincent Wulveryck, Collection Cartier © Cartier
本エキシビションは、ティアラで始まりティアラで終わる。スタートを飾るのは、V&A所蔵のマンチェスター・ティアラ。そしてラストを飾るのも、ティアラのセクションである。美、ステータス、富、エレガンスの象徴となるティアラだが、同時にジュエラーの創造性、想像力、職人技の集大成でもある。壮麗なティアラの数々が一堂に会するのは圧巻。宝石のキラキラとした輝きとデザインの美しさには、ため息が出るばかり。


カルティエを単なる宝飾品としてではなく、20世紀を代表する美術品として文化美術史のなかで検証していく内容は、見応えたっぷり。何時間でもここで過ごせるような贅沢な空間だった。浮世の悩みを忘れ、ゴージャスな世界をしばしの間、存分に満喫。「カルティエのジュエリーが似合うマダムになりたい!」と思い描きながら、会場を後にした。6月までのチケットはすでにソールドアウトしているので、予約はお早めに。
Cartier
11月16日(日)まで
V&A South Kensington
Cromwell Road, London SW7 2RL
www.vam.ac.uk
チケット:£24〜
週刊ジャーニー No.1390(2025年4月24日)掲載