グレイソン・ペリー:誇大妄想

「Fasist Swing」=写真上中央。ウォレス・コレクション所蔵作品の中で最も有名な絵画である、フラゴナールの「ぶらんこ(The Swing )」に着想を得て制作されたタペストリー。
■ セルフリッジズの裏に佇む侯爵家の旧邸宅「ハートフォード・ハウス」をホームとしたアート・ギャラリー「ウォレス・コレクション」で、英国を代表する現代アーティスト、サー・グレイソン・ペリーと同ギャラリーがコラボレーションしたエキシビションが開催されている。(文/ネイサン弘子)

本エキシビション開幕の数日前に65歳を迎え、今も精力的に活動を続けるアーティスト、グレイソン・ペリー。彼の40点以上の新作を含む、陶器、タペストリー、刺繍、絵画などの幅広い作品が、これらの制作のきっかけとなった同ギャラリーの名作絵画や所蔵品と並んで展示されており、見事なるコラボレーションを形成している。

若きペリーがウォレス・コレクションを訪れ、ブーシェの「ポンパドゥール夫人」の肖像画と、同コレクションが誇る武具の展示を同時に鑑賞した時、18世紀フランス・ロココ調の極端な女性的表現と、武具の持つ誇張された男性的表現とのコントラストに強い印象を受けたことは、彼のアート制作に影響を与えたという。固定的なジェンダーや階級の役割は、彼の数十年にわたる創作活動の中で繰り返し取り上げられてきたテーマであり、本展にもそのテーマが強く反映されている。

『誇大妄想』と題された展示会のもうひとつのテーマは、ファンタジー。ペリーが今回の制作過程で生み出した架空の人物、シャーリー・スミスによるとされる作品も多い。精神的な病を抱え、ハートフォード・ハウスに住み、自分こそがウォレス・コレクションの正当な継承者であると信じ込んでいるシャーリーが贅沢な夢の世界を表現した(とされる)ドローイングは、病的なまでに細かく、そのペン使いを細部まで観察しているとめまいがしそうになる。各作品の細部に目を凝らし「自分はディテール・フリークである」「制作の原動力は、シンプルに作ることの楽しさがベースにある」というペリーの言葉を思い出すと、土を捏ね、ペンを走らせ、糸を通し、無数のピンバッヂを集め、夢中になって制作に没頭するペリーの後ろ姿まで作品の向こうに透けて見えたような気がした。そして、「妄想/ファンタジー」は『サバイバル・テクニック』でもあるというペリー。『シャーリーの妄想も彼女が生きてゆくために必要だったのね…』と、いつの間にか架空の人物に思いを寄せる気持ちが沸いてきた筆者は、すっかりグレイソン・ペリーのファンタジーの世界に迷い込んでいたことに気がついた。

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女装し、『クレア』に変身したペリー。
Grayson Perry © Richard Ansett, shot exclusively for the Wallace Collection, London
ペリーの子どものころからの友のテディベア、ドレスを着たクレア姿のペリーと彼が生み出したウォレス・コレクションに住んでいるという空想の世界に生きるキャラクター、シャリー・スミスが集う、ファンタジーな壺。上流階級風の社交の場面の後ろでは空が燃え…。
Grayson Perry, Alan Measles and Claire meet Shirley Smith and The Honourable Millicent Wallace, 2024 (detail) © Grayson Perry. Courtesy the artist and Victoria Miro
Grayson Perry, Saint Millicent Upon Her Beast, 2024 © Grayson Perry. Courtesy the artist and Victoria Miro
ペリーが創り出した架空の人物『シャーリー・スミス』によるドローイング。心の病を抱えた彼女は自分がウォレス・コレクションの正当な継承者であると思い込み、この邸宅に住んで贅沢に暮らしているという妄想の世界に生きている。
Grayson Perry, Untitled, from a selection of drawings by Shirley Smith, 2022-24 © Grayson Perry. Courtesy the artist and Victoria Miro
「Man of Stories」。今回のエキシビションの構想が固まる前、最初に制作を始めたという像。ウォレス・コレクションを「ロココ」と結び付けていたというペリー。ロココの語源である『岩』『割れた貝殻』を意味するフランス語の「ロカイユ」から着想を得て、貝殻でできた岩男のような吟遊詩人が誕生した。背中のマントは無数のピンバッヂで装飾されており、とてもパンキッシュ。
「Gun for Shooting into the Past」=写真上。ウォレス・コレクションの所蔵品である17世紀の銃と並べて展示されているこのカラフルな『過去を打ち抜くための銃』は、今この瞬間に力はないが、意識や記憶を攻撃することができるらしい。死してなお人を支配する者たちを破壊し、過去の痛ましい経験に悩まされている人々のために浄化の火を放つという。この銃は『許す』のに役立つかもしれないし、単に忘れさせてくれるだけのものかもしれない。そんな銃が本当にあればきっと多くの人の魂を救えるだろう。

Grayson Perry: Delusions of Grandeur

10月26日(日)まで
The Wallace Collection

Hertford House, Manchester Square, W1U 3BN
チケット:大人£15、学生(18-25歳)£10、12-17歳£5、12歳以下無料
www.wallacecollection.org

週刊ジャーニー No.1387(2025年4月3日)掲載

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