

Claude Monet 1899. by Paul Nadar
1870年、当時貧しい無名画家であったクロード・モネは、普仏戦争からの疎開時に初めてロンドンの街を描いた。それから30年後の1899年9月、印象派を代表する画家としてロンドンを再訪したモネは、テムズ河を見下ろす高級ホテル「サヴォイ・ホテル」のバルコニーにイーゼルを設置し、テムズ河を描き始めた。『睡蓮』の連作で知られるフランスの画家は、ロンドンの霧に魅了され、1901年までに3回ロンドンに長期滞在し、チャリング・クロス・ブリッジ、ウォータールー・ブリッジ、ハウス・オブ・パーラメントの3ヵ所を描くことに没頭した。
「ロンドンは日々その美しさを増している」と手紙にしたためたモネは、霧と日光がかつてロンドン南岸にそびえ立っていた工場の煙突群から排出される煙とまじりあって生まれた、その独特な光景に取りつかれ、同じ構図の絵を何枚も描いた。現代の私たちからすれば、第二次産業革命に沸くロンドンの汚染された空気は顔をしかめるもの以外の何物でもないが、モネは空気中の高濃度の硫黄のために現れる黄色い霧までに感嘆し、「私はロンドンが大好きだ!でも私が愛するのは冬のロンドンだけ。霧がなければロンドンは美しい街ではない」と語ったのは有名な話だ。
37点のテムズ河の連作は、1904年にパリで開催された「Vues De La Tamise A Londres(Views of the Thames in London)」と題した展覧会で公開された。モネは翌年ロンドンでも同じ展示会を開催することを熱望していたが、計画は頓挫。今日に至るまで、これらの作品が英国で一堂に会し公開されたことはなく、100年以上の時を経て、今回ようやくモネの願いが実現した形だ。
本展覧会では、パリで公開された18点に加え、世界各地の美術館や個人のコレクションから貸し出された作品を加えた全21点が集結。同じ構図で描かれた作品群を順にみることで、刻々と変化する19世紀末のテムズの光景をモネの目を通して目の当たりにした。久しぶりに純粋に絵画をじっくりと楽しんだ時間となった。(文・ネイサン弘子)

Waterloo Bridge, overcast weather. Date1900

Claude Monet (1840-1926), Charing Cross Bridge, The Thames, 1903, oil on canvas, Musee des Beaux-Arts, Lyon. Image © Lyon MBA – Photo Alain Basse

Claude Monet (1840-1926), Waterloo Bridge, Sunlight Effect, 1903, oil on canvas, Milwaukee Art Museum. Image Courtesy of the Milwaukee Art Museum. Photo: John R. Glembin

Claude Monet (1840-1926), London, Parliament. Sunlight in the fog, 1904, oil on canvas, Musée d’Orsay, Paris. Photo © Grand Palais RMN (musée d’Orsay) / Hervé Lewandowski
Monet and London. Views of the Thames
The Courtauld Gallery
Somerset House, Strand, London WC2R 0RN
2025年1月19日(日)まで
月〜日:午前10時〜午後6時
※10月25日(金)、11月22日(金)、12月13日(金)、2025年1月10日(金)は午後9時まで開館
チケット:(Monet + Gallery Entry):平日 =£16、週末=£18
※事前予約推奨
https://courtauld.ac.uk
週刊ジャーニー No.1365(2024年10月24日)掲載