
SDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)が世界中で声だかに叫ばれる中、日本人の精神に古来から浸透してきた「もったいない」精神が改めて再評価されている。「Eternally Yours(永遠にあなたのもの)」と題された修理や治癒をテーマにした本エキシビジョンにも、当然のごとく日本からの出展が目立つ。
陶磁器の割れや欠けを漆で接着して金や銀の金属粉で装飾し、修復の痕をあえて目立たせる日本の伝統技法「金継ぎ」や、ボロボロになった生地や糸を繕いつぎはぎし、家族の思い出や歴史とともに受け継ぐ生地などが並び、日本のもったいない文化の奥深さと美しさを思い知る。
また、『ゴミ』とされた壊れたおもちゃや生活用品を利用してSDGsを訴えかける現代アーティストによるユニークな作品や、アート学生による持続可能な生活用品のアイディアに感心させられる。
一方で、東日本大震災で発生した、誰のものかはわからないが確かに元持ち主の思い出が詰まっているであろう『被災物』で制作されたオブジェ、難民の人々が危険な旅路で実際に履いてぼろぼろになった靴に彼らが道中で体験した悲惨な出来事を刺繍した作品など、忘れ去られそうになるが忘れてはならないストーリーを詰め込んだそれらの出品物を前にし、そのメッセージに胸を打たれる。
4部屋からなる小さなエキシビジョンだが、家具職人による再生家具作りの実演やファッションのワークショップもある。見ごたえたっぷりのエキシビションを、是非お見逃しなく。
(写真・文/ネイサン弘子)
オックスフォードで金継ぎを広める活動をする西川郁氏(Iku Nishikawa)により、金継ぎで修復された皿。

右:Ceramic piate repaired with kintsugi technique Kintsugi application by Iku Nishikawa, Kintsugi Oxtord
修理痕がかえって可愛らしいアフリカの生活道具。左のバスケットの割れ目にはカラフルなビースがあしらわれている。右のひょうたんの水差しのホッチキスのような修理痕は、自然素材とメタルの組み合わせがなんだかオシャレ。


1980年代に戦火のレバノンから難民としてロンドンに移住したアーティストのアヤ・ハイダル(Aya Haidar)氏は、拾ったものや使い捨てのものを再利用し、労働、移住、家庭、女性らしさや記憶、中東に焦点を当て、古くなったものに含まれる文化や歴史などを探求する作品を制作している。今回出展された「Soleless」シリーズは、難民たちが履きつぶしてボロボロになった靴の底に、難民たちの危険で悲しい旅の記憶を刺繍で表現した。

父親に育てられた6歳の少年イブラヒムと11歳の姉マイサは、シリア北西部の街イドリブから逃げ出し、トルコとの国境に向かう道中、先を歩いていた父親が狙撃され死亡する姿を目の当たりにした。

生後3ヵ月の息子を連れて戦火のシリアを脱出し、闇の斡旋業者が準備した超満員のボートでギリシャへ渡ろうとしていたイマン。泣きわめく赤ちゃんを必死にあやすイマンだったが、沿岸警備隊を警戒した業者の男により、赤ちゃんは海に投げ捨てられてしまった。
1990年代から「なおす」をテーマに廃棄物や拾得物を用いた表現を続ける仙台出身のアーティスト、青野文昭氏(Fumiaki Aono)による、東日本大震災の『被災物』を取り入れた作品。壊れた物とレプリカを合体させたオブジェの数々は、自然災害や人災により失われたもの、人々が負ったトラウマの治癒と、物質的な損傷と修復に取り組むことを目指しているという。

左:Cassette tape collected in Arahama, 2020-2
右:Shitajiki collected in Yuriage, 2012


The Beasley Brothers Repair Shop, 2022
デザイナーのカール・クラーキン氏(Carl Clerkin)が、家具や日用品をリサイクルするリペアショップ。実演と作品を見学することができる。
Information

Eternally Yours
Somerset House, Terrace Rooms South Wing, Strand, WC2R 1LA
9月25日(日)まで
無料
要予約
週刊ジャーニー No.1249(2022年7月21日)掲載