コロナ禍の影響で社会生活の中で最も欠かせないもののひとつとなった生活・ビジネス様式といえば、仕事のオンライン・ミーティングやプレゼンテーション、テレビ番組のインタビューや討論会、ズーム飲み会にオンライン・カルチャーコースまで、あらゆる場面で利用されているビデオコールではないだろうか。
在宅ビデオコールでは自宅の一画を披露せざるを得ず、それを通して同僚や知人、著名人などの、これまで知ることのなかった他人の家を垣間見る機会ができた。セレブリティの豪華な居間にうっとりしたり、プライベートをまったく知らない同僚の意外な一面を発見したり、学者や政治家の見事な書棚を見せつけられたりと、肝心の話よりも画面に映る背景が気になってしまう人は少なくない。筆者もマット・ハンコック保健相の話よりも同氏の真っ赤な書斎が気になっていたひとり。
気心の知れた友人たちとのオンライン飲み会くらいであれば気にすることもないが、これがビジネス場面や、オンライン・レッスンで教える立場、さらにはテレビ番組で放映されるとなると、背景への気配りは重要だ。実際にBBCのとあるニュース番組で、自宅からインタビューに応じた人物の背景の本棚に成人向けアイテムのようなものが置いてあるのを多くの視聴者が発見し、ネットで話題になるという珍事件も発生している。
そのような中、ビデオコールの普及にともなう「本のまとめ買い」の思わぬ需要増に驚いているのが、ブリストル郊外に巨大なウェアハウスを持ち、ありとあらゆる種類の古本やレア本を販売・レンタルする「ブックバーン・インターナショナル」だ。これまでまとめ買いといえば、テレビや映画のセット用、ホテルの図書室、家具のショールームをはじめとするインテリア関連会社など、企業や団体からの注文が多かったが、コロナ禍以降、本棚フィラー用にという個人からの注文が激増しているという。
この現象についてBBCのインタビューに答えた同社のダイアン・ニューランドさんは、「まとめ買いをする個人の顧客は、エンジニアや教師といった職業の人から、CEO、セレブリティ、政府の重要ポストに就く人物まで、実に様々です」と、顧客層の拡がりを歓迎し「本には人々のパーソナリティが反映されます。例えば文学を教える人だったら、文学本や戯曲を注文しますし、政治家は見栄えのいい赤や緑のクラシックな本を好む傾向があります。『こんな色味で』『こんなジャンルで』などのまとめ買いの注文が入ることもあります」と続けた。また、同社オーナーのニック・べイツさんは、「これまでも、他人の家にお邪魔した時にふいに目にする本で、その人の人となりや意外な一面を知ることがあったでしょう。ビデオコールの背景に本棚が写り込むことで、そんな現象がオンライン上でも起きるようになったのです」と指摘した。
他人からとやかく言われたくなければ、本棚の前に座らないことが得策のようだが、「ちょっとインテリに見られたい」「本棚の隙間を埋めたい」「退屈な背景に差をつけたい」と考えるのであれば、すでにまとめられたセットの他、まとめ買いのオーダーメイド注文も可能な「ブックバーン・インターナショナル」のまとめ売り専用サイト「ブックス・バイ・ザ・ヤード」( www.booksbytheyard.co.uk)をはじめとする、まとめ売りを扱う書店のサイトを覗いてみては?(ネイサン弘子)
週刊ジャーニー No.1176(2021年2月18日)掲載