いつ崩れ落ちてもおかしくないような巨大なホイップクリームとさくらんぼ、クリームに止まる蝿、そして虫のように見えるドローン。「The End」と名付けられたこの作品は、遠くから見ると美味しそうな印象だが、じっくりと詳細を見ると不快な感情も湧いてくる…。
トラファルガー広場で空座となっている北西側の台座にアート作品を展示するこのプロジェクトは、1998年にスタート。1〜2年おきに新しい作品が設置され、これが13代目となる。
手掛けたのは、ロンドン在住の現代アーティスト、ヘザー・フィリップソン。2年ほど前に、グロスター・ロード駅のホームで卵のオブジェを展示していた人物といえば記憶に残っている人もいるだろう。今回の作品は、お祭りなどのイベント開催地となる一方で、抗議活動の結集地としても使われる同広場の役割を反映する形で設置された。
陰鬱な感情を抱かせるこの作品のアイディアが生まれたのは2016年。英国のEU離脱の是非を問う国民投票が行われ、トランプ米大統領が大統領選に当選した年にあたり、世界各地での「政治の混乱」を表現したかったのだそう。
ドローンには定点カメラが仕掛けられ、作品の「目」として機能し、ライブ映像はオンラインで公開されている。見ているかもしれない誰かに手を振って見てもいいし、サイトにアクセスして今の状況を確認してみる楽しみ方もあり。
「The End」は2022年春まで展示予定。このカメラが劇的に変化する今をどう捉えるのだろうか。次の作品が登場する2年後、この状況を「過ぎ去った過去のもの」として、穏やかな生活を送れていることを願いたい。(文・写真/西村千秋)
週刊ジャーニー No.1150(2020年8月13日)掲載