■「メトロ」紙のベテラン編集者で「王道から外れた旅」などの著者があるアリス・マーフィーさんがこの3月に日本を訪問。7日間の滞在を経て「行く前に知っておきたかったこと」、そして「現地で学んだこと」を紙面で公表した。

ニセコのパウダースノーから富士山を囲む幻想的な桜まで、いまや「世界中の人が日本に向かっている」と言っても過言ではない。2024年には観光客数で過去最高を記録した日本。2025年もその勢いは止まりそうにないが、必ずしも地元の人々が歓迎しているとは限らない。「ゴールデンルート」と呼ばれる東京・京都・大阪の各都市では観光客のマナー違反に住民の不満が募っている。ゴミのポイ捨て、公共交通機関の混雑、そして日本社会に根づく習慣への無理解。観光客が非難されているのはこうした行動だ。初めての日本旅行でそんな現状に触れた私は、秩序、伝統、そして環境に対する深い敬意が息づくこの国に心を打たれた。
並ぶ覚悟を
「並ぶ」というのは英国人の専売特許と思っていた。しかし日本では「行列」が英国を遥かに上回るレベルの『文化』として根づいている。公共交通機関では誰もが静かに整然と列を作る。押し合いもなければ無理に乗り込む人もいない。その静けさと忍耐力はもはや芸術の域。車内でもその静寂は続く。小声の会話は許されるが電話で大声で話したりイヤホンなしでの動画視聴は絶対にNG。飲食店でも並ぶのが当たり前。特に週末や祝日は要注意だ。TikTokで話題になった店には長蛇の列ができる。私が見た中では東京のパンケーキ店「フリッパーズ(Flippers)」に最長の行列ができていた。
ポケットWi-Fiは必須
事前にRedditで知ってはいたが、声を大にして言いたい。日本の交通網は世界屈指。新幹線でほとんどの場所に飛行機より早く行ける。とはいえ駅の規模が巨大すぎて乗り換えに迷うこともしばしばだ。プラットフォームを走り回る観光客を数えきれないほど目撃した。そんな混乱を避けるため、私はグーグルマップを頼りに行動した。もしデータローミングに頼っていたら通信料がとんでもない額になっていただろう。そこで活躍したのがポケットWi-Fi。私は羽田空港の到着ロビーでレンタルした。7日間でわずか50ポンド強。今回の旅で使ったものの中で最も価値あるガジェットだった。高速かつ無制限に使え、ロンドンの5Gと同等のスピード。毎晩充電したがバッテリー切れの心配は一度もなかった。返却も出発前に空港で簡単にできる。
「ゴミ箱がない」
日本の街が驚くほど清潔であることは広く知られているが、それに反して「ゴミ箱がほとんどない」という事実に驚く観光客は多い。TikTokでもこの話題はネタになっており、ある動画では朝9時から夕食まで空のコーヒーカップを持ち歩く男性の様子がバズっていた。だが東京や大阪などでゴミ箱が少ないのにはちゃんとした理由がある。1つは「安全対策」だ。1995年に発生した地下鉄サリン事件を受け、東京ではほとんどのゴミ箱が撤去された。もう1つの理由は「自分のゴミは自分で持ち帰る」という文化的習慣だ。これは公共の空間や自然への敬意を表す行動とされている。一方、コンビニ、特にセブン―イレブンやファミリーマートでは店内にゴミ箱が設置されていることが多い。
観光地以外も行ってみて
私は「王道から外れた場所」を旅したい人間だ。日本でも静かな一面を見てみたくて、東京で人に聞いてみたところ「鎌倉」という名前がよく挙がった。都心から車で90分足らずの海辺の街だ。鎌倉は国内では人気の観光地だが、外国人にはまだあまり知られていない。「東の京都」とも呼ばれ巨大な銅像「大仏」をはじめ、多数の神社仏閣が点在している。15世紀の津波にも耐えたというこの大仏は圧巻だ。街にはこだわりのコーヒーショップや、ハイボール片手にくつろげる小さな居酒屋もあり、充実している。
スーツケースは空で
パリやミラノ、ニューヨークを差し置いて、東京こそが「世界最高のファッション都市」だと断言できる。実際に訪れてみると中古ブランドショップの宝庫だった。異常なまでの円安の影響でヴィンテージの名品が驚くような価格で手に入る。人気チェーン「デザートスノー」では、ルイ・ヴィトンの財布が70ポンド、1950年代のバーバリーのスーツがわずか25ポンドだった。スキンケア用品も今はかなり安い。家庭用品も例外ではない。東京の合羽橋に行けば高品質のキッチン用品が手ごろな価格で手に入る。円安によって日本を訪れる観光客は「爆買いモード」に入っている。私が訪れた3月、ドン・キホーテのような人気ディスカウントストアにはスーツケースを買い求める観光客の列ができていた。ちなみに意外かもしれないが日本はいまだに「現金社会」の側面が強い。大規模なショッピングモールや外資系ホテルではクレジットカードが使えるが、居酒屋や個人商店では現金が基本。そして西洋諸国とは違い、日本ではチップ文化がほぼ存在しない。むしろ失礼とされることもあるので、注意が必要だ。
記事を読んだ読者からのコメント
▼2年前に行ったけど本当に素晴らしい場所だったよ……これこそ文明社会ってもので、西洋がどれだけ疲れ切った汚れた場所になってしまったかを思い知らされた。
▼日本にある「素晴らしいもの」について語る記者たちの話はいつ聞いても面白いよ。ただ、「なぜ日本にはあって、こちらにはないのか」を深く考えなければ、ね。
▼そりゃあ南アジアからの大量で無制限な移民がなければ、場所は自然と良くなるさ。
▼露骨な外国人嫌悪と、人種差別については無視か。
▼自分たちの文化や生活様式を守ろうとするのは、立派なことだと思う。
By週刊ジャーニー (Japan Journals Ltd London)