英国に関する特集記事 『サバイバー/Survivor』

2016年12月1日 No.961

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クリスマスの陰の主役!ピクルス大研究

クリスマスの陰の主役!

ピクルス大研究

伝統的な保存食というだけでなく、作る工程も楽しむクラフト・ブームに乗って、いま熱い視線を浴びている「ピクルス」。普段は料理の名脇役として彩りを添えるが、クリスマスになると、七面鳥や鶏のローストの添え物として輝きを増す。今号では、このピクルスを主役に据えてご紹介することにしよう。

●サバイバー●取材・執筆・写真/ネイサン 弘子・本誌編集部

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古くは紀元前の昔から世界各地で食べられてきたピクルス。日本の漬物、韓国のキムチ、ドイツのザワークラウト(キャベツの塩漬け)、インドのアチャール(マスタード・オイルと酢の漬物)……。調べはじめたらきりがないが、ここ英国で食べられるようになったのは16世紀以降。英国人がヨーロッパやインドなどからピクルスを自国に持ち帰り、酢、砂糖などで独自に作るようになったことが始まりとされている。

その後、19世紀後半にピクルスを専門に製造するブランドが立て続けに創業し、市販品が瞬く間に広まっていった。しかし、なぜ19世紀後半に誕生したブランドが多いのか? その答えは2つの画期的な発明にある。1つめはスコットランドの化学者、ジェームズ・ヤングが、1850年に発明した「パラフィン蝋」。これを染み込ませた機密性の高い「パラフィン紙」で瓶を密封することで、従来よりも食べ物の長期保存が可能になった。2つめは1858年、米国の職人、ジョン・L・メイソンが発明した金属製のネジ蓋付きの「Mason jar(メイソン・ジャー)」だ。パラフィン紙で蓋をするよりも扱い易く、密閉度が高くこぼれないこの容器の開発によって、保存食の販売や流通が格段に容易になったのだ。

さて、現代のピクルス事情を探るため、スーパー・マーケットへと足を運んでみた。「ピクルス=ハンバーガーに挟まったペラペラのキュウリの酢漬け」、程度の認識しか持ち合わせていなかったが、改めて注目してみると、スーパーの大きな陳列棚一面に並ぶ種類の豊富さに目を見張った。定番のガーキンから、ゆで卵やクルミにいたるまで! 酢漬けに限らず、オリジナルのソースに漬けられたものもあるなど、多種多様の商品が専門ブランド各社から、またスーパーの自社ブランドとして発売されている。これらを活用すれば、クリスマス・ディナーをより美味しく、食卓をさらににぎやかに演出することができそうな予感。これを機に、ピクルスの世界を覗いてみよう!

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英国のピクルスを食べてみよう!

英国のピクルスを食べてみよう!

編集部が選んだいくつかの代表的なピクルスと、ユニークな商品を中心に、それぞれのピクルスの特徴や味わい方、活用法などをご紹介しよう。

Pickle Bites

「ピクルス」ってどういう意味?

「Pickle」の語源はオランダ語の「Pekel(食塩水、漬け汁)」で、「ピクルス、漬け物」という意味の他に、「窮地、苦境に立つ、困っている」という意味も併せ持つ。元はオランダ語で「漬け汁の中に座っている」という苦境を表す言い回しが由来とされている。

Branston Original Pickle

ブランストン・オリジナル・ピクル

Branston Original Pickle
360g/1.30ポンド程度
※主要スーパーにて購入可。
520g、720gなど大容量もあり。
「英国のサンドイッチの歴史に革命を起こした!」とまで言われるピクルスが、1922年創業の「Branston(ブランストン)」の代表的商品「Branston Original Pickle」だ。角切りにしたニンジン、カブ、玉ネギ、カリフラワーを、砂糖、モルト・ビネガー、デーツ、トマト、リンゴなどで作った濃厚なソースに漬け込む。酢だけでなく、デーツやリンゴの深い甘みも感じられるソースに絡まるコロコロの野菜は、マチュア・チェダー・チーズとの相性が抜群! 手軽に作れるこのピクルスとチーズのサンドイッチが紹介されると、爆発的な人気となり、瞬く間に英国の国民食として広まった。
そんな英国人の食卓に欠かせないブランストン。実は2013年に日本を代表する酢のスペシャリスト「ミツカン」が、ブランドと生産工場を引き継いだ。ブランストン・ファンの読者なら、瓶のラベルに印刷された「mizkan」のロゴマークにすでにお気づきのことだろう。母体が代わったあとももちろん、秘伝のレシピで作られた味は変わることなく、英国で愛され続けている。
Pickle Bites

ブランストン・オリジナル・ピクルとチェダー・チーズのサンドイッチ

同社のウェブサイトで紹介されているレシピ通り、ソフトなWhite Farmhouse Breadに、マチュア・チェダー・チーズ、Branston Original Pickleを挟んだサンドイッチを作って試食。濃厚でホロホロとした熟成チーズとピクルスの酸味、程よい歯応えが、フワフワのホワイト・ブレッドに包まれ、絶妙なコンビネーションを見せる!

Beetroot

ビートルート

Baxters Baby Beetroot
340g /1ポンド程度
※主要スーパーにて購入可。
567g、710gの大きいサイズのほか、
通常のモルト・ビネガー、
甘めのモルト・ビネガーに漬かったもの、
スライスしたタイプなどの選択肢がある。
英国人に「ピクルスと言えば?」と聞くと、必ず名前が挙がるブランドのひとつ、1868年創業の「Baxters(バクスターズ)」の「Baxters Baby Beetroot」は小ぶりでかわいい丸ごとビートルートのピクルス。オススメの食べ方として同社のウェブサイトでは、サラダに加えるだけでなく、ジャガイモ、ニンジン、玉ネギと一緒にオーブンでローストしたり、そのままチーズフォンデュの具にしたりするなどして、温かく食べるレシピも紹介している。これからの季節に是非試してみてはいかがだろうか。また、ごく薄くスライスしてグリーンサラダの下に敷けば、シンプルなサラダがぐんとグレードアップ!

Walnuts

クルミ

Opies Pickled Walnuts
390g /2.50ポンド程度
※テスコ、ウェイトローズ他にて購入可。
モルト・ビネガーにポートワインを
加えたタイプもある。
今回紹介するピクルスの中で一番の変わり種といえるのがクルミ。クルミは硬い殻に包まれた印象があるが、「Opies(オーピーズ)」の「Pickled Walnuts」のパッケージに写っているのは、まだ青いクルミの実。この実が熟して木から落ち、殻の外の果実部分が取れると、普段私たちが目にするクルミの姿になる。木から落ちる前のまだ青いクルミを丸ごとモルト・ビネガーに漬けると、後に硬くなる殻の部分までも柔らかいピクルスが出来上がる。果物のプルーン程度の大きさで、柔らかい実に浸みきった酢の酸味が非常に強い。同社では、スライスしてチーズと合わせたり、チキンのほか、クセの強い鹿をはじめとするジビエ料理と合わせたりする食べ方を推奨している。好き嫌いが分かれそうだが、日本への変わり種のお土産にもなりそうだ。

Gherkin/Cucumber

キュウリ

Mrs Elswood
Sweet Cucumber
Sandwich Slices

540g /1.50ポンド程度
※主要スーパーにて購入可。
縦スライスのほか、
輪切りにした商品も販売されている。
英国人の冷蔵庫に必ず入っていると言われるほど定番のキュウリのピクルス。使用されるのはピクルス用の小キュウリ「ガーキン」。「Mrs Elswood(ミセス・エルスウッド)」はキュウリのピクルスの定番ブランド。完璧に家事をこなす昔ながらの典型的なユダヤ人の母親、ミセス・エルスウッドをモデルとした素朴なパッケージが、『手作り感』を感じさせ、つい手に取りたくなる。味わいはまろやかで甘め。そのままおつまみに、タルタルソースの材料に、ハムや前日のローストチキンなどのコールドミートとのサンドイッチにと大活躍! もちろんバーガーに合わせるのも一般的。

Opies Cocktail Gherkins
227g /1ポンド弱
※主要スーパーにて購入可。
1880年創業の「Opies(オーピーズ)」の「Cocktail Gherkins」は、さらに小さな未成熟のガーキンのおつまみピクルス。5センチ程度の小さなガーキンは身がしまって歯応え抜群。ピリッと酸味が強いので、小さめサイズがピッタリ。

Piccalilli

ピカリリ

The Bay Tree Proper Piccalilli
300g /3.30ポンド程度
※ウェイトローズにて購入可。
あまり聞きなれないピカリリは、アジアとの交易によって英国にもたらされた香辛料を使い、18世紀に英国で生まれたもの。「ピカリリ」の名前の由来は、ピクルスをもじって付けられたと考えられており、「インディアン・ピクルス」とも呼ばれる。英国人には『インドらしい食品』と感じられているようだが、インド系英国人に聞いてみると『非常に英国らしい食品』に感じるとのことだった。日本人の感覚でいうところの「カリフォルニア・ロール」のようなものだろうか。
酢、マスタード、ターメリック、ショウガなどの香辛料で作った漬け汁に、カリフラワー、玉ネギ、キュウリなどの野菜を漬け込んだ色濃い黄色のピカリリは、ベイクト・ポテトなどジャガイモと一緒に食べるのが好まれている。また、コールドミートのサンドイッチやホットドッグにも合う。
1994年創業とピクルス関連のブランドとしては比較的新しい「The Bay Tree(ザ・ベイ・ツリー)」の「Proper Piccalilli」は、伝統的な製法で作られていながら、現代的で洗練されたパッケージ・デザインに目がとまる1品だ。ジューシーでパリパリのソーセージを挟んだホットドッグに乗せて食べたい。

Red
Cabbage

紫キャベツ

Haywards Medium and Tangy Red Cabbage
400g/1.90ポンド程度
※主要スーパーにて購入可。
英国人にとって馴染みのある紫キャベツ。ゆでて肉料理の付け合わせに、生でサラダにするほか、ピクルスも代表的な食べ方だ。鮮やかな色の秘密は、紫キャベツに含まれるアントシアニン。この色素が酢の酸によって変化し、濃いピンク色のピクルスに変身する。今回紹介したピクルスの中でも最も簡単に手作りできるもののひとつ。青紫色にゆで上がったキャベツの色が一瞬で濃いピンク色に変わる調理の過程は、まるで科学の実験のようで楽しい。
「Haywards(ヘイワーズ)」の「Medium and Tangy Red Cabbage」は、少し厚めにカットされたキャベツの歯応えと、まろやかな酸味でそのままでもボリボリと食べられてしまう。ちなみに英国のピクルス市場で大きなシェアを持つ1868年創業のヘイワーズ社も、前述のブランストン社に同じく「ミツカン」が取得。2015年に新しいパッケージとレシピで、さらに食べやすくなって再出発した。
Pickle Bites

簡単! 紫キャベツのピクルスの作り方

【材料(3~4人分)】
紫キャベツ…1/8コ(千切り)/米酢、蒸留酢、白ワイン・ビネガーなど…100cc/水…50cc/砂糖…大さじ2(お好みで調節)/塩…ひとつまみ/ベイリーフ…1枚/粒黒コショウ…5粒
【作り方】
①小鍋に紫キャベツ以外の材料を入れて中火にかける。沸騰したら火から下ろして冷ます。②別鍋に湯を沸かし、紫キャベツを約1分サッとゆで、ザルにあげてよく水気を切る。③キレイに洗った瓶に①と②を入れ(青紫色が一気にピンク色に変わる!)、冷蔵庫で1時間以上冷やせば完成。

ピンクのゆで卵

ピクルスを食べた残りの漬け汁に、固ゆでにした卵を2時間漬ければ、こんなにかわいい色に変身!浅漬けなら漬け汁の味がほんのりと移る程度で食べやすい。ホーム・パーティーの1品にいかが?

Egg

Pandora Pickled Eggs
510g/2ポンド程度
※テスコ他で購入可。
スーパーの陳列棚で見たときのインパクトが大きいのがこの商品。日本人にはあまり馴染みのない、ゆで卵のピクルスは、たんぱく質を多く含み、ヨーロッパの寒い冬を乗り切るために伝統的に食べられてきた保存食だ。
「Pandora(パンドーラ)」の「Pickled Eggs」は、小ぶりのゆで卵が透明なスピリット・ビネガー(蒸留酢)に浮かぶ。黄身の色は変色していないだろうか?と思いながら半分に割ってみると、ごく普通の黄身の色。固ゆでの身はキュッとしまって小さめ。味は「酸っぱいゆで卵!」としか言いようがない!単独で食べるのは一口で断念。ごく稀にパブで供されるほか、フィッシュ&チップス・ショップに置かれていることもあり、フライの付け合わせとしても食べられている。

Onion

タマネギ

【左】Garner's Original Pickled Onions
454g/2.80ポンド程度
※主要スーパーにて購入可。
甘さを加えた食べやすいタイプもある。
【右】Haywards Sweet and Mild Silverskin Onions
400g/1.90ポンド程度
※主要スーパーで購入可。
甘めの味からスパイシーなものまで、種類が豊富。
一見ラッキョウの漬物のような小玉ネギのピクルス。「Ploughman’s Lunch(農夫の昼食)」と呼ばれる、英国の農夫に食されてきた簡素な昼食で、パン、チーズと供に食べるのが伝統的な食べ方だ。
「Garner's(ガーナーズ)」の「Garner's Original Pickled Onions」は、伝統的な製法で作られた強い酸味が特徴。一方、「Haywards(ヘイワーズ)」の「Sweet and Mild Silverskin Onions」は、小玉ネギよりもさらに小さく真っ白な品種の「Silverskin(シルバースキン)」を甘酢に漬けたピクルス。ラッキョウにも似た味わいで食べやすく、日本のカレーの付け合わせにもピッタリ。