クリスマスの陰の主役!
ピクルス大研究
伝統的な保存食というだけでなく、作る工程も楽しむクラフト・ブームに乗って、いま熱い視線を浴びている「ピクルス」。普段は料理の名脇役として彩りを添えるが、クリスマスになると、七面鳥や鶏のローストの添え物として輝きを増す。今号では、このピクルスを主役に据えてご紹介することにしよう。●サバイバー●取材・執筆・写真/ネイサン 弘子・本誌編集部
古くは紀元前の昔から世界各地で食べられてきたピクルス。日本の漬物、韓国のキムチ、ドイツのザワークラウト(キャベツの塩漬け)、インドのアチャール(マスタード・オイルと酢の漬物)……。調べはじめたらきりがないが、ここ英国で食べられるようになったのは16世紀以降。英国人がヨーロッパやインドなどからピクルスを自国に持ち帰り、酢、砂糖などで独自に作るようになったことが始まりとされている。
その後、19世紀後半にピクルスを専門に製造するブランドが立て続けに創業し、市販品が瞬く間に広まっていった。しかし、なぜ19世紀後半に誕生したブランドが多いのか? その答えは2つの画期的な発明にある。1つめはスコットランドの化学者、ジェームズ・ヤングが、1850年に発明した「パラフィン蝋」。これを染み込ませた機密性の高い「パラフィン紙」で瓶を密封することで、従来よりも食べ物の長期保存が可能になった。2つめは1858年、米国の職人、ジョン・L・メイソンが発明した金属製のネジ蓋付きの「Mason jar(メイソン・ジャー)」だ。パラフィン紙で蓋をするよりも扱い易く、密閉度が高くこぼれないこの容器の開発によって、保存食の販売や流通が格段に容易になったのだ。
さて、現代のピクルス事情を探るため、スーパー・マーケットへと足を運んでみた。「ピクルス=ハンバーガーに挟まったペラペラのキュウリの酢漬け」、程度の認識しか持ち合わせていなかったが、改めて注目してみると、スーパーの大きな陳列棚一面に並ぶ種類の豊富さに目を見張った。定番のガーキンから、ゆで卵やクルミにいたるまで! 酢漬けに限らず、オリジナルのソースに漬けられたものもあるなど、多種多様の商品が専門ブランド各社から、またスーパーの自社ブランドとして発売されている。これらを活用すれば、クリスマス・ディナーをより美味しく、食卓をさらににぎやかに演出することができそうな予感。これを機に、ピクルスの世界を覗いてみよう!
英国のピクルスを食べてみよう!
編集部が選んだいくつかの代表的なピクルスと、ユニークな商品を中心に、それぞれのピクルスの特徴や味わい方、活用法などをご紹介しよう。
「ピクルス」ってどういう意味?
「Pickle」の語源はオランダ語の「Pekel(食塩水、漬け汁)」で、「ピクルス、漬け物」という意味の他に、「窮地、苦境に立つ、困っている」という意味も併せ持つ。元はオランダ語で「漬け汁の中に座っている」という苦境を表す言い回しが由来とされている。ブランストン・オリジナル・ピクル
360g/1.30ポンド程度
※主要スーパーにて購入可。
520g、720gなど大容量もあり。
そんな英国人の食卓に欠かせないブランストン。実は2013年に日本を代表する酢のスペシャリスト「ミツカン」が、ブランドと生産工場を引き継いだ。ブランストン・ファンの読者なら、瓶のラベルに印刷された「mizkan」のロゴマークにすでにお気づきのことだろう。母体が代わったあとももちろん、秘伝のレシピで作られた味は変わることなく、英国で愛され続けている。
ブランストン・オリジナル・ピクルとチェダー・チーズのサンドイッチ
同社のウェブサイトで紹介されているレシピ通り、ソフトなWhite Farmhouse Breadに、マチュア・チェダー・チーズ、Branston Original Pickleを挟んだサンドイッチを作って試食。濃厚でホロホロとした熟成チーズとピクルスの酸味、程よい歯応えが、フワフワのホワイト・ブレッドに包まれ、絶妙なコンビネーションを見せる!ビートルート
340g /1ポンド程度
※主要スーパーにて購入可。
567g、710gの大きいサイズのほか、
通常のモルト・ビネガー、
甘めのモルト・ビネガーに漬かったもの、
スライスしたタイプなどの選択肢がある。
クルミ
390g /2.50ポンド程度
※テスコ、ウェイトローズ他にて購入可。
モルト・ビネガーにポートワインを
加えたタイプもある。
キュウリ
Sweet Cucumber
Sandwich Slices
540g /1.50ポンド程度
※主要スーパーにて購入可。
縦スライスのほか、
輪切りにした商品も販売されている。
227g /1ポンド弱
※主要スーパーにて購入可。
ピカリリ
300g /3.30ポンド程度
※ウェイトローズにて購入可。
酢、マスタード、ターメリック、ショウガなどの香辛料で作った漬け汁に、カリフラワー、玉ネギ、キュウリなどの野菜を漬け込んだ色濃い黄色のピカリリは、ベイクト・ポテトなどジャガイモと一緒に食べるのが好まれている。また、コールドミートのサンドイッチやホットドッグにも合う。
1994年創業とピクルス関連のブランドとしては比較的新しい「The Bay Tree(ザ・ベイ・ツリー)」の「Proper Piccalilli」は、伝統的な製法で作られていながら、現代的で洗練されたパッケージ・デザインに目がとまる1品だ。ジューシーでパリパリのソーセージを挟んだホットドッグに乗せて食べたい。
紫キャベツ
400g/1.90ポンド程度
※主要スーパーにて購入可。
「Haywards(ヘイワーズ)」の「Medium and Tangy Red Cabbage」は、少し厚めにカットされたキャベツの歯応えと、まろやかな酸味でそのままでもボリボリと食べられてしまう。ちなみに英国のピクルス市場で大きなシェアを持つ1868年創業のヘイワーズ社も、前述のブランストン社に同じく「ミツカン」が取得。2015年に新しいパッケージとレシピで、さらに食べやすくなって再出発した。
簡単! 紫キャベツのピクルスの作り方
【材料(3~4人分)】紫キャベツ…1/8コ(千切り)/米酢、蒸留酢、白ワイン・ビネガーなど…100cc/水…50cc/砂糖…大さじ2(お好みで調節)/塩…ひとつまみ/ベイリーフ…1枚/粒黒コショウ…5粒
【作り方】
①小鍋に紫キャベツ以外の材料を入れて中火にかける。沸騰したら火から下ろして冷ます。②別鍋に湯を沸かし、紫キャベツを約1分サッとゆで、ザルにあげてよく水気を切る。③キレイに洗った瓶に①と②を入れ(青紫色が一気にピンク色に変わる!)、冷蔵庫で1時間以上冷やせば完成。
ピンクのゆで卵
ピクルスを食べた残りの漬け汁に、固ゆでにした卵を2時間漬ければ、こんなにかわいい色に変身!浅漬けなら漬け汁の味がほんのりと移る程度で食べやすい。ホーム・パーティーの1品にいかが?卵
510g/2ポンド程度
※テスコ他で購入可。
「Pandora(パンドーラ)」の「Pickled Eggs」は、小ぶりのゆで卵が透明なスピリット・ビネガー(蒸留酢)に浮かぶ。黄身の色は変色していないだろうか?と思いながら半分に割ってみると、ごく普通の黄身の色。固ゆでの身はキュッとしまって小さめ。味は「酸っぱいゆで卵!」としか言いようがない!単独で食べるのは一口で断念。ごく稀にパブで供されるほか、フィッシュ&チップス・ショップに置かれていることもあり、フライの付け合わせとしても食べられている。
タマネギ
454g/2.80ポンド程度
※主要スーパーにて購入可。
甘さを加えた食べやすいタイプもある。
【右】Haywards Sweet and Mild Silverskin Onions
400g/1.90ポンド程度
※主要スーパーで購入可。
甘めの味からスパイシーなものまで、種類が豊富。
「Garner's(ガーナーズ)」の「Garner's Original Pickled Onions」は、伝統的な製法で作られた強い酸味が特徴。一方、「Haywards(ヘイワーズ)」の「Sweet and Mild Silverskin Onions」は、小玉ネギよりもさらに小さく真っ白な品種の「Silverskin(シルバースキン)」を甘酢に漬けたピクルス。ラッキョウにも似た味わいで食べやすく、日本のカレーの付け合わせにもピッタリ。