JAPAN MATSURI
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《ネタバレ注意》 映画「オッペンハイマー」で描かれなかった天才科学者

© Universal Pictures

■現在、米国や英国で上映中の映画「オッペンハイマー」を観た本サイト編集者の感想です。一部ネタばらしが含まれますのでこれから観賞される方はお読みにならないことをお勧めします(編集部)。

原子爆弾を開発するために科学者や技術者を総動員した米国のマンハッタン計画。その研究所長の姿を描いた映画「オッペンハイマー」を観た。奇しくもそれは広島が78回目の「原爆の日」を迎える前日の8月5日(土)だった。恥ずかしながら物理の話や諮問委員会の込み入った内容を理解できるだけの英語力がなく、字幕なしでは細部までは分からなかった。ただ、ストーリーの大筋だけは事前に把握して観賞に臨んだ。

マンハッタン計画の所長ロバート・オッペンハイマーが原爆の開発に成功し、実際に広島と長崎に投下。戦後は「原爆の父」と呼ばれ賞賛される。しかし自ら開発した新型爆弾の破壊力が予想以上だったことを知り苦悩。より強力な水爆の開発に疑問を呈して政府と対立。やがて共産主義者やソ連との繋がりを疑われ…といった内容だ。これ以上は本当にネタばらしとなるので言及を控える。

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原爆を開発した人間の「栄光と悲劇」を描いた本作。原爆投下成功の宣言に沸き返るシーンは日本人としていたたまれない気持ちになる。しかしそれは覚悟の上。筆者はこの映画がジョン・フォン・ノイマン(John von Neumann)と言う高名な科学者をどう扱うのか、大変気になって映画館に足を運んだ。

マンハッタン計画に集められた科学者の多くがユダヤ人であったことは広く知られている。オッペンハイマーもドイツ系ユダヤ人だ。もともと原子爆弾の開発はアインシュタインやレオ・シラードといったユダヤ人科学者らがルーズベルト大統領に宛てた、「ウランを核分裂させることで強大な爆発物が出来る可能性がある」という意見書から始まったとされる。

マンハッタン計画に参加したジョン・フォン・ノイマンはハンガリー生まれのユダヤ人で、IQ300という信じられないほどの天才だった。ドイツ降伏後に原子爆弾が完成し、日本への投下が決まった。どこに落とすかが話し合われた。ノイマンは京都に固執した。理由は「日本人が京都に深い文化的意義をもっている」からであり

「日本人の戦争継続への意志を粉砕するためにも京都を殲滅すべき」と強く訴えた。上層部に温存派がいたためとりあえず京都は候補の上位から外された。


ピカドンの意味

ノイマンは原子爆弾の威力がさらに強力となるよう、目標の上空で核分裂爆発させることに思い至った。大型爆弾は地上で爆発させるよりも空中で爆発させることで威力が増大する。かつて日本で原爆は「ピカドン」と呼ばれた。熱線と強烈な光(ピカ)の後に衝撃波(ドン)がやってくる様子を表した擬音だ。これはまさに爆弾が広島県産業奨励館(原爆ドーム)上空で核分裂を起こし、爆発したことを意味する。

ジョン・フォン・ノイマン。© Los Alamos National Laboratory

ノイマンは核分裂による爆発のパワーが最大限となる高度を計算した。1945年8月6日午前8時15分17秒、9632メートル上空を飛行していたB―29から人類初の原子爆弾が投下された。投下から43秒後、ノイマンらの計算通り地上600メートル地点で、原子爆弾「リトルボーイ」は核分裂爆発を起こし、熱風と衝撃波は子どもや老人を含む無数の民間人を即死させた。

日本が降伏したことで第二次世界大戦は終わった。その後ノイマンと、映画にも登場するエドワード・テラー(水爆の父)というユダヤ人科学者は水爆製作にのめり込んで行き、反対派のオッペンハイマーと対立する。

ノイマンは原爆や水爆以外、気象学やゲーム理論、ノイマン型コンピューターなどで科学史にその名を刻み、その分野では今も高い評価を得ている。しかしノイマンは類まれな頭脳を大量殺戮にも使った。科学者として爆弾の威力最大化に熱中した。しかしそれによって失われる命には興味を示さなかった。

ノイマンは核兵器開発の際に被爆したことが原因でがんを発症。死が迫っていることを受け入れることができず恐怖に怯えた。そして死の間際、若い頃に改宗していたカトリック教の司祭と話すことを望んで周囲を驚かせたという。自分の命には並々ならぬ執着を持っていたようだが、1957年2月8日、53歳で世を去った。

ロバート・オッペンハイマー。

しかし映画「オッペンハイマー」にノイマンの姿はなかった。ノイマンを登場させてしまえば原爆投下は戦争を早く終わらせ多くの人の命を救うためだったという、米国人の多くが信じている大義名分が薄れ、マンハッタン計画の「悪魔性」が浮き彫りとなる。そうなればヒューマンドラマ「オッペンハイマー」は成立しなくなる。そのためにノイマンは計画の重要人物だったにもかかわらず、あえて表舞台から消す必要があったのではないか。

あくまでも個人の感想だが、この映画は原爆製作を成功させ、第二次世界大戦を終結させたヒーローでありながら戦後、核軍縮を呼びかけたことで国家中枢に目を付けられた上に、赤狩りという潮流の中で公職を追放され、ダークヒーローに堕とされた科学者オッペンハイマーの名誉回復を狙った作品に思えてならない。それを裏付けるように米エネルギー省は昨年末、「オッペンハイマーを公職から追放した1954年の処分は偏見に基づく不公正な手続きだった」と公式に発表していた。

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「オッペンハイマー」の日本での上映は現時点では未定と言う。これは広島、長崎の「原爆の日」と重なることを避けたためと言われている。日本は米・中に継ぐ大きな市場。映画では悲惨な広島や長崎の映像は流れない。「ジャップ」と呼ばずに「ジャパニーズ」とするなど日本での上映を意識した配慮も感じられる。日本での上映もやがて決まるだろう。

オッペンハイマーらは非人道的な新型爆弾の威力をさらに増幅させ殺傷能力を高めるため、ノイマンの空中核分裂爆発案を積極的に採用した。米国でオッペンハイマーの汚名が返上されようがされまいが、それは戦後、ソ連との冷戦に向かう過程で起こった米国側の問題だ。原子爆弾が広島と長崎に投下され、多くの尊い人命が奪われたという事実は何ひとつ変わることはない。(編集部T)By 週刊ジャーニー (Japan Journals Ltd London)

高等研究所でのアインシュタインとオッペンハイマー(1950年頃)。
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