2011年2月10日 No.663

 

おすすめワイン産地めぐり⑯   南仏ルーションへの旅(その2)

 

 

量より質に移行

ルーションRoussillonという南仏のワイン産地の旅を続ける前に、少しばかり歴史に触れておくことにしたい。昔、南フランスの広大なワイン産地では、色や果実香味の希薄なワインが大量に造られ、当時植民地だったアルジェリアで作られた色の濃いワインとブレンドして売られていた。しかし、やがて植民地アルジェリアは独立。加えて、フランスのワイン法、それに続いて欧州連合ワイン法が制定されるに至り、南フランスのワイン産業は大きな壁に直面した。上質でなければ販売できない、また、消費者に買ってもらえないという時代がやってきたのだ。フランスにおける1990年の国民1人当たりのワイン消費量が73リットルだったのに対し、2010年には53リットルと減少しながらも、統制名称ワイン(ACワイン)と呼ばれる上質ワインの消費量は増加。量より質を好む消費者が増えた市場にあって、ワイン生産もその流れに従うしかなかった。その結果、ブドウ栽培をあきらめた人々も多かったものの、今では世界的な評価を受けるような上質ワインも現れてきている。

 

ビオディナミの王様

ルーション地域の中心であるペルピニャンPerpignanから、A3そしてD117を北に30キロほど車で山中を走ったところに、カルセCalceという小さい村がある。土地が「calcaire(石灰)質」 であることから、この名がついたという。ここの土壌には石灰だけでなく片岩も多く含まれ、非常に痩せているだけでなく、風が強くて乾燥しており、ブドウ栽培は困難だが、ブドウの樹の病気は少ない。ビオディナミ栽培(1924年に、神秘主義者ルドルフ・シュタイナーによって提唱された特殊な有機栽培)で世界的に有名なジェラール・ゴビーGerard Gaubyがここで驚きに値する偉大なワインを造っている。ドーメーヌ・ゴビーDomaine Gauby(www.domainegauby.fr)がそれだ。このエリアでは、樹齢が50年以上というグルナッシュのブドウ収量が3.5トン/ヘクタール、シラーにおいては2トン/ヘクタールと、かの有名なロマネ・コンティやシャトー・マルゴーといったボルドー一級ワインよりずっと低い収量に限られている。裏を返せば、根から吸収されたミネラルがそれだけ少量の果実に凝縮されていることになる。赤ワインにはムンタダMuntadaやレ・カルシネールLes Calcinaires、白ワインにはレ・ロカイユLes Rocaillesやクーム・ジネストルCoume Ginestreがあるが、いずれも入手が非常に困難であるのもうなずける(ロンドンでは「Roberson Wine」で購入可能)。

 
森という漢字のつくワイン

 

ガウビーを慕ってカルセに集まるビオディナミの若い栽培者は少なくない。南アフリカ生まれのトム・ルッブTom Lubbeもその一人だ。彼のブドウ畑はガウビーの畑より、より標高が高く、作業どころか歩くのも大変なほどの急勾配な斜面に位置している。また立っているのも大変なくらい、風が強い。ここで生産されるワインには、ヴィオニエ種とミュスカ種から造るドメーヌ・マタサDomaine Matassa、樹齢80年というグルナッシュ・グリ種とミュスカ種から造るマタサ・ブランMatassa Blancの白ワイン、 グルナッシュ種とカリニャン種そしてムールヴェードゥル種から造るルーマニサRomanissaの赤ワインがある。どのワインもMatassaの上に「森」という漢字が入る=写真。これは、彼のブドウ畑の近くに森があり、その森の名前がMatassaだからだという(「BW Wine」または「Everywine.co.uk」で購入可能)。


 
豪快な「屋外炉辺焼き」に舌鼓

 

カルセから更に北東に車を15分ほど走らせるとCases de Peneという村に着く。ここに、お勧めのレストラン、シャトー・ドゥ・ジャウChateau de Jau(www.chateaudejau.com)がある。12世紀に建てられたシャトーだが、フレンチ=カリフォルニア風に改築され、オープン・エアのビストロ風レストランがある。ローカル料理が中心で、特に、シャトー・ドゥ・ジャウが造りだす、いわばハウス・ワインともいえるジャジャJajaを飲みながら、レストランの中央にあるとてつもなく大きな「炉fire place」でグリルした肉料理を楽しんでいただきたい。

 

ミヨコ・スティーブンソン Miyoko Stevenson
Chevalier du Tastevin(利き酒騎士)団員。Jurade de St-Emilion団員。
International Wine Challenge審査員。Slow Food審査員。
ワイン関連の訳書・著書あり。現在、ロンドンでワイン教室を主宰。
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