
ご当地ワインと郷土料理&名産物㉕ 南米・アルゼンチン その1
移民の歴史がもたらした様々なブドウ
今回は、南米アルゼンチンのワインについてお届けしたい。2017年の統計によるとワイン生産量では、アルゼンチンは、イタリア、フランス、スペイン、アメリカ合衆国、オーストラリアに次いで世界第6位。国内での消費が多く、例えば2006年のワイン輸出量は総生産量のわずか10%だったが、ワイン総生産量の60%以上を輸出している隣国チリに見習ってか、近年、輸出にも力を注ぐようになった。
19世紀のヨーロッパ大不況に続いて1920年の世界恐慌に際し、ヨーロッパからアルゼンチンに多くの移民が押し寄せた。イタリアを例にとると、1870年からの50年間にアルゼンチンに200万人ものイタリア人が移住した。こうした歴史を背景に、アルゼンチンには様々な国籍の人々が住んでおり、栽培されるブドウの種類も多い。しかし、輸出向けワインに関しては、白ワインではトロンテスTorrontés、赤ワインではマルベックMalbecの2種類に絞られている。
国内初の農学校にフランス人校長を招聘
マルベック種はもともとフランスのボルドー地方のブドウ品種だったが、今ではマルベック種から造られたワインといえばアルゼンチンと言われるほど、高い評判を築き上げるに至っている。そもそも、この品種は1853年にメンドーサ州にアルゼンチンで初めての農学校が設立された時、その州知事だったドミンゴ・ファウスティーノ・サルミエントDomingo Faustino Sarmientoが、フランスの農学者であるミゲル・エメ・プジェMiguel Aimé Pougetを同校の校長として招聘(しょうへい)したのにともない、フランスからマルベックを含むブドウの挿し木の導入が進められたのが始まり。
世界を目指したワイン博士
このマルベックをアルゼンチンで成功させたワイン博士がいる。その名はニコラス・カテナ・サパータNicholas Catena Zapata。彼の祖先は1902年にイタリアよりアルゼンチンに渡り、アンデス山脈の山麓にブドウ畑を築いた。その3代目のニコラスは、涼しい気候、痩せた沖積土の重要性を知り、標高約1500メートルにも達する高い土地を開墾し、マルベック種を植えた。
「世界に認められる最高のワインをアルゼンチンで造る」という信念をもって、何年もかけてその土地にあったマルベック種のクローン・セレクションを実行。それまでの棚仕立てではなく垣根仕立てに整枝し、収穫量を減らして高級ワイン造りに取り掛かった。2001年、ついにフラッグシップである「ニコラス・カテナ・サパータ」を発売。世界各地で行われたブラインド・テイスティングで1位、2位に入る快挙を次々に成し遂げ、マルベック種のワインが世界に知られるようになったのだった。
肉料理との相性も良いエレガントで良質なマルベック
かつてのマルベックは色が濃く、口が曲がるほどの強いタンニンをもち、黒いベリー類の風味を呈す超辛口の重いワインだった。これに対し、ニコラスの造るワインは、濃厚ながらエレガントで、ボリューム感はあるものの重くなく、芳香を放ち、タンニンも柔らかく、コーヒー風味を呈す凝縮した黒いベリー類の香味をもち、フィニッシュに雑味がない、品の良いワインに仕上げられている。今では、ニコラス・カテナ・サパータに限らず、ポール・ホッブスPaul Hobbs、ミシェル・ロランMichael Rawland、マルチェロ・ペッレリッティMarcello Pelleriti、アルベルト・アントニーニアAlbert Antoniniaといった有名ワイン醸造者たちによってすばらしいマルベックが造られるようになっている。
さて、アルゼンチン人は肉を愛することでも知られるが、高級マルベックに合う料理といえば、やはり肉料理だろう。特に、ワインの持つちょっとした甘みは、ラムやチビテChiviteとよばれる子ヤギのローストが呈す甘みに合う。そして食後には、濃厚な味わいのサルド・チーズSardo=写真=をお供に、秋の夜長を楽しみたい。
週刊ジャーニー No.1056(2018年10月11日)掲載











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